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side 琴未
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清史に会った日から3ヶ月が過ぎた。
その間、壱也の言葉がずっと頭の片隅で存在し続けていた。
私との連絡を控えると、彼はそう言った。
なんでもないことなのかもしれない。
私が深く考えすぎているのかもしれない。
でも・・・。
気がつくと壱也のことばかり考えてしまい、溜息がクドイほど出ている。
こういう時、いつのなら明美が声をかけてきて励ましてくれたり、
助言してくれたりしてくれるのに、最近はそういうのもない。
原因はわかってる。
3ヶ月前の出来事を話してからだ。
あの出来事の次の日、明美に先日あったことを全て話した。
明美に全て話し終えた時、明美は私に問い掛けてきた。
「琴未は結局、どうしたいの?彼と付き合いたいの?それともこれ以上、関わりたくない?それによって琴未の次の行動が決まってくると思うけど?」
「わからないよ、どうすればいいのか。壱也さんのことは好きよ。だけどやっぱり考えちゃうの。私なんかでいいのかなって。彼とは全てと言っていいほど違いすぎるし、何よりも私にはトラウマがあるし・・・。」
「ねぇ・・・それってさぁ、逃げてるようにしか聞こえないんだけど。」
「え・・・?」
「それともそこまで藤堂さんの事を好きじゃないのかしら?」
「そ、そんなことは・・・。」
「じゃあ、なぜ琴未は自分の気持ちのまま、動こうとしないの?好きなんでしょ?彼の傍に居たいんでしょ?」
「だからそれはっ!」
「琴未はトラウマとか、身分とか、そう言うのを言い訳にして逃げてるだけじゃない。それに『私なんて』って言葉を吐く人間は嫌いよ。それってただ自分に同情して欲しい奴がいう言葉でしょ?そんな言葉を吐く暇があったら、自分をもっと高めようと努力すればいいだけの話だわ。」
明美の言う事は正しい。
だけど、それは強者の意見。
私はそんなに強くないよ。
落ち込む私に明美はほぅっと息を吐き、口調を変えて優しく続けた。
「琴未はどうしたらいいのかわからないって言ってるけど、あなたは藤堂さんに幸せになって欲しいとは思わない?」
「もちろんそれは一番に願ってる。」
「だったら、藤堂さんにとって何が一番幸せなのかを琴未が考えればいいんじゃない?そこから自然と何をすべきか導かれると思うけど。ま、あとは琴未が考えて結論を出すだけね。私はこれ以上、何も言わないわ。」
そう言って明美は手を振って、カフェをあとにした。
定時で仕事が終わり会社を出たところで、ふいに後ろから声をかけられた。
振り返ると、要が立っていた。
「ひさしぶり、琴未さん。」
「要君。どうしたの?こんなところで。」
突然の訪問者に、素直に驚いていた。
要とはコンパ以来、メールで少しやり取りをしただけだった。
要の告白らしき電話を受けて、彼との接触は避けていた。
この3ヶ月で何度かデートに誘われたが、尽く断ってきた。
はっきりと言えば済むのだろうが、性格上それができない。
「ひどいなぁ、せっかく会いに来たってのに。ま、そんなことよりこれから何か食べに行こうよ、ね?」
「で、でも・・・。」
「今日は、意地でも連れて行きます!」
にっこり笑いながら、私の腕を取り、引っ張っていく。
「要君!」
強引な彼を止める術もなく、そのままレストランへと連行された。
一通りの注文をした後、彼は微笑んで私を見た。
「本当に久しぶり。いつも誘いを断られてたからなぁ。」
「そ、それは本当にごめんなさい。でも・・・。」
「あはは、冗談冗談。気にしないで。責めてるわけじゃないし。それに断る理由もわかってるからさ。」
「へ?」
彼の発言につい声が裏返った。
彼が私の何をわかってると言うの?
もしかして・・・。
私の思考を読み取ったかのように要は続けた。
「藤堂壱也。藤堂グループの次期社長と言われてる男。その手腕は、若手実業家の中でも群を抜き、トップとしての頭角を現している。」
「何を・・・。」
「ビジネス情報誌に載ってたんだよ、たまたま見てさ。まさかあんなに有名な奴だとは知らなかったよ。」
雑誌にまで載ってるんだ・・・。
本当に手の届かない人だって思い知らされる。
「そう言えば変な事が書かれてたな。人生の伴侶として候補に上がっている人物がいるって。名前は前島 園子。琴未さんは知ってる?」
彼が尋ねてきた内容に、強く首を振った。
それよりも・・・
伴侶?
候補?
どういうことだろう。
彼は私を気にかける様子もなく、話を続けていた。
「雑誌曰く、彼女の親は、藤堂グループまではいかないがそれでもかなりの大企業の社長をしている。ちなみに祖父は会長。そして前島 園子はそんな家系に生まれた長女。一応、会社は上に一人いる実兄が継ぐ事になっているが、現社長の親としては娘の婚姻をきっかけに藤堂との繋がりを持とうと躍起になっている。藤堂側も相手に不足はなく、当然この話をまとめようと先日、見合いの席を設けた。」
「え・・・見合い?」
愕然とした。
傍にいてくれると言った彼
-でも彼は今、私の傍にいない
待っていると言ってくれた彼。
-でも待ってくれてるかどうかなんて私にはわからない。
何よりも私を選ぶと言ってくれた彼。
-その彼が、別の女性を選ぼうとしている。
頭が真っ白になっていく中、
一言だけ呟くような小さな声だけが外気へと投げかけられた。
「どうして・・・。」
その間、壱也の言葉がずっと頭の片隅で存在し続けていた。
私との連絡を控えると、彼はそう言った。
なんでもないことなのかもしれない。
私が深く考えすぎているのかもしれない。
でも・・・。
気がつくと壱也のことばかり考えてしまい、溜息がクドイほど出ている。
こういう時、いつのなら明美が声をかけてきて励ましてくれたり、
助言してくれたりしてくれるのに、最近はそういうのもない。
原因はわかってる。
3ヶ月前の出来事を話してからだ。
あの出来事の次の日、明美に先日あったことを全て話した。
明美に全て話し終えた時、明美は私に問い掛けてきた。
「琴未は結局、どうしたいの?彼と付き合いたいの?それともこれ以上、関わりたくない?それによって琴未の次の行動が決まってくると思うけど?」
「わからないよ、どうすればいいのか。壱也さんのことは好きよ。だけどやっぱり考えちゃうの。私なんかでいいのかなって。彼とは全てと言っていいほど違いすぎるし、何よりも私にはトラウマがあるし・・・。」
「ねぇ・・・それってさぁ、逃げてるようにしか聞こえないんだけど。」
「え・・・?」
「それともそこまで藤堂さんの事を好きじゃないのかしら?」
「そ、そんなことは・・・。」
「じゃあ、なぜ琴未は自分の気持ちのまま、動こうとしないの?好きなんでしょ?彼の傍に居たいんでしょ?」
「だからそれはっ!」
「琴未はトラウマとか、身分とか、そう言うのを言い訳にして逃げてるだけじゃない。それに『私なんて』って言葉を吐く人間は嫌いよ。それってただ自分に同情して欲しい奴がいう言葉でしょ?そんな言葉を吐く暇があったら、自分をもっと高めようと努力すればいいだけの話だわ。」
明美の言う事は正しい。
だけど、それは強者の意見。
私はそんなに強くないよ。
落ち込む私に明美はほぅっと息を吐き、口調を変えて優しく続けた。
「琴未はどうしたらいいのかわからないって言ってるけど、あなたは藤堂さんに幸せになって欲しいとは思わない?」
「もちろんそれは一番に願ってる。」
「だったら、藤堂さんにとって何が一番幸せなのかを琴未が考えればいいんじゃない?そこから自然と何をすべきか導かれると思うけど。ま、あとは琴未が考えて結論を出すだけね。私はこれ以上、何も言わないわ。」
そう言って明美は手を振って、カフェをあとにした。
定時で仕事が終わり会社を出たところで、ふいに後ろから声をかけられた。
振り返ると、要が立っていた。
「ひさしぶり、琴未さん。」
「要君。どうしたの?こんなところで。」
突然の訪問者に、素直に驚いていた。
要とはコンパ以来、メールで少しやり取りをしただけだった。
要の告白らしき電話を受けて、彼との接触は避けていた。
この3ヶ月で何度かデートに誘われたが、尽く断ってきた。
はっきりと言えば済むのだろうが、性格上それができない。
「ひどいなぁ、せっかく会いに来たってのに。ま、そんなことよりこれから何か食べに行こうよ、ね?」
「で、でも・・・。」
「今日は、意地でも連れて行きます!」
にっこり笑いながら、私の腕を取り、引っ張っていく。
「要君!」
強引な彼を止める術もなく、そのままレストランへと連行された。
一通りの注文をした後、彼は微笑んで私を見た。
「本当に久しぶり。いつも誘いを断られてたからなぁ。」
「そ、それは本当にごめんなさい。でも・・・。」
「あはは、冗談冗談。気にしないで。責めてるわけじゃないし。それに断る理由もわかってるからさ。」
「へ?」
彼の発言につい声が裏返った。
彼が私の何をわかってると言うの?
もしかして・・・。
私の思考を読み取ったかのように要は続けた。
「藤堂壱也。藤堂グループの次期社長と言われてる男。その手腕は、若手実業家の中でも群を抜き、トップとしての頭角を現している。」
「何を・・・。」
「ビジネス情報誌に載ってたんだよ、たまたま見てさ。まさかあんなに有名な奴だとは知らなかったよ。」
雑誌にまで載ってるんだ・・・。
本当に手の届かない人だって思い知らされる。
「そう言えば変な事が書かれてたな。人生の伴侶として候補に上がっている人物がいるって。名前は前島 園子。琴未さんは知ってる?」
彼が尋ねてきた内容に、強く首を振った。
それよりも・・・
伴侶?
候補?
どういうことだろう。
彼は私を気にかける様子もなく、話を続けていた。
「雑誌曰く、彼女の親は、藤堂グループまではいかないがそれでもかなりの大企業の社長をしている。ちなみに祖父は会長。そして前島 園子はそんな家系に生まれた長女。一応、会社は上に一人いる実兄が継ぐ事になっているが、現社長の親としては娘の婚姻をきっかけに藤堂との繋がりを持とうと躍起になっている。藤堂側も相手に不足はなく、当然この話をまとめようと先日、見合いの席を設けた。」
「え・・・見合い?」
愕然とした。
傍にいてくれると言った彼
-でも彼は今、私の傍にいない
待っていると言ってくれた彼。
-でも待ってくれてるかどうかなんて私にはわからない。
何よりも私を選ぶと言ってくれた彼。
-その彼が、別の女性を選ぼうとしている。
頭が真っ白になっていく中、
一言だけ呟くような小さな声だけが外気へと投げかけられた。
「どうして・・・。」
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