May

樫野 珠代

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side 琴未

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会社の近くにあるファーストフードの店でテイクアウトをして会社の屋上へと行った。
そこで覚えてる限り・・・と言っても朝、目が覚めた状況だけなんだけど・・・明美に話をした。
「つまり、琴未は知らない内に知らない男と出会い、そしてホテルへ行ってヤリ逃げされたってわけね。」
「そ、そんなひどい言い方しなくても・・・。」
言葉にされると余計に悲惨な自分が浮き彫りになった。
「事実を言ってるんじゃない。」
「う、そうだけど・・・。」
「で?全く相手の顔も覚えてないの?」
何も言えず、ただ頷いた。
「だって記憶があるのは、友達と別れた直後までだもの。」
それを聞いた明美は、はぁっと溜息をついて頭を抱えた。
見放さないでよぉ、明美。
経験だけは星の数ほどある明美なら、この状況を打破できるでしょ?
いつも送られてくるメールで彼女の送るエンジョイライフはイヤでも知ってしまう。
毎週合コンや逆ナンで知り合った男の人と遊び歩く毎日。
それでも特定の彼氏ができないのが不思議。
スタイルだっていいし、美人系で 話題だって豊富。
なぜ?っていつも思う。
明美曰く、『遊んでみなきゃ相手がわからないじゃない?』
どこまでが遊びに入るんだろう・・・。
でも敢えて突っ込まない。
返ってくる言葉が容易に検討がつくから。
と、今はそんなことはどうでもいいのよ!
今は自分のことだけでいっぱいいっぱいなんだから!
お願い、何か言って。
でも『お手上げよ』なんてことは言わないでよ!
そしたら私、ショックで寝込んでしまうわ。
明美の次の行動を逃すまいとギラギラした目で見つめた。
「うーん・・・記憶が全くないんでしょ?その場合、まず考えなきゃいけないのは・・・。」
「いけないのは?」
「そいつ、避妊してた?」
「っ!!」
とにかく驚いた。
彼女の発言に。
もっとこう・・・私がするべき行動を言ってくれるのかと期待してた分、あまりにかけ離れた言葉を浴びせられたせいで。
でも彼女は正しい。
避妊・・・そうだよね。
してなかったら大変だわ。
「え・・・と。明美・・・私・・・。」
私の言いたい事がわかったのか、彼女はあ、そうか・・・と呟いた。
私は、そういう経験が1度しかない。
過去に唯一付き合った男と1回だけ。
しかも相手は無理やり私を抱いた。
ほとんどレイプまがいの行為。
だからセックスに対しても男に対しても嫌悪感しかない。
知識としてでさえ頭に入れるのが許せない。
だから避妊と言われても、どういう状態が避妊になるのかわからない。
授業で教わった避妊の仕方はスキンを使うこと。
それ以外もあるのかどうか。
そんな私に明美は聞いてきた。
「朝起きた時、ゴミ箱とか見てない?」
「ゴミ箱?見てない。急いでたから・・・。」
「そう。シャワーは?朝、浴びた?」
「朝?ううん、そんな暇もなかったし。」
「じゃあ、今、アソコが気持ち悪いとかない?やけにヌルヌルしてる・・・とか。あと自分の体でベタつくところとか。」
「特には・・・ないよ。」
「うーん、たぶん大丈夫だと思うんだけど。生理は?この前いつ来た?」
「生理?先月は・・・18日だけど。」
「毎月その日辺りなの?」
「うん。ほぼ18日前後。」
「今日は7日だから。排卵が終わったくらいか。大丈夫だとは思うけど、確実とは言えないし。」
「そんな・・・私、どうしよう。」
「とりあえず生理を待つしかないんじゃない?」
「もし来なかったら?」
「そしたら覚悟を決めるしかないわね。」
「覚悟って・・・。」
「もちろん、産むか惰ろすかよ。まぁ、おそらく大丈夫よ。気楽に待ちなさい。」
「明美・・・。」
明美の『大丈夫』は、とても心強い。
いつもそうだ。
私がピンチになると、落ち着かせるために『大丈夫』って言ってくれる。
その言葉を聞くと、スーッと冷静になれる自分がいた。
本当に彼女の言葉は力強い。
「で?これから琴未はどうしたい?」
「え?」
どうしたい?
「相手の男、携帯番号まで書いてたんでしょ?」
「え・・・うん。デタラメに書いてなければ。」
そう言って、ポケットに入れてあったメモを取り出す。
明美はそれを受け取り、ちらっと見て私に戻した。
「今夜連絡くれって・・・どうする気?」
そうだった。
メモにはっきりと書かれている。
朝は慌しくて、ゆっくり見てる暇もなかったから。
もう一度、じっくりと読み返した。
『すまない。朝一で仕事があるから先に行く。今夜にでも連絡をくれ。080-○○○○-×××× 壱也』
すまないって・・・何に対して謝ってるの!?
先に行く事?
それとも・・・考えたくないけど・・・昨日起きた何かに対して?
ううん、何もなかったわ、そうに決まってる!
それに、連絡をくれって命令ですか・・・。
知らない人にいきなり命令される覚えはない!
まぁ覚えるも何も記憶がないんだからどうしようもないんだけど。
そんな私を打ちのめすかのように明美が口を開いた。
「何かあったことは確かね。」
「はい?」
「よく考えてよ。何もないならわざわざ連絡を取ろうなんてしないわよ。仮に遊びで抱いたりしたのなら、なおさらだわ。まぁ体の相性が良くて、もう一度ってことならわかるけど・・・。」
いやぁ!!そんなこと『仮に』でも言わないで!
思わず首をブンブンと横に振る。
う、クラクラする。振りすぎたわ・・・。
「それにベッドインとは限らない。それ以外にも何か理由があって連絡を取りたいとか・・・。」
「そっちの方が有り難いんだけど。」
本当にそうであって欲しい。
ちょうどそこでお昼休みが終わり、仕事へと戻らなければならなった。
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