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魔法闘技祭編

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続く教皇の言葉はその場にいた多くの観客達、そして魔法具を通して国中でその様子を見ていた国民達を惹きつけた。

「これが我らが恐れる『悪魔』の本性である! 見るも無惨に……いたいけな少女の体を貫いたその姿。悪しき存在であることの証明になるだろう」

その言葉をレオンは舞台の上で聴いていた。

理解が追いつかず、両手をだらんと下げて呆然と立ち尽くす。

その右手には彼女の血は流れていなかった。

レオンの目には確かにティマが自ら飛び込んできたかのように写っていた。

彼女の体を自分の右腕が貫いた感覚も残っている。

しかし、レオンの前にはティマが平然と立っていたのである。


「どういうこと……?」

そう呟くのがやっとだった。

教皇の言葉に観客達は次第に状況を理解してレオンに対する悪意のある感情をぶつけ始めている。

まるで、本当にレオンが少女を殺したのだとでも言うように。

一度倒れた後、平然と立ち上がったティマになんの違和感も持っていない様子でレオンに向けてヤジを飛ばしているのだ。


「あらら、案外頭の方は良くないんすね……。いや、でも何が起きたかわかんなくて当然か」

立ち上がったティマはレオンの表情を見てケタケタと笑っている。

その口調、仕草のどちらも先ほどまでの彼女ではない。

そればかりか少女というほどに小柄だった体は大きくなり、女性特有のシルエットが浮かび上がる。

そして幼くあどけなかった表情すらも変わってしまい、不気味な笑みを浮かべる女性の顔が現れたのである。

先ほどまでの彼女とは明らかに別人の姿がそこにあった。


「気づかなかったすかね。アタシの得意魔法なんすよ。『幻影』というとちょっと違うんすけど相手に幻を見せるって意味なら同じようなもんすね」

様子が豹変した彼女にレオンは動揺した。

その動揺のスキをついてティマが動き出す。
袖に隠していた短剣の刃がキラリと光った。

短剣はレオンの頬をかすめる。頬をつたり流れる血に指で触れ、それからレオンはまた彼女の方を見た。

魔法ではない攻撃だけに一瞬反応が遅れてしまった。
それでも何とか動けたのはレオンの反射神経が魔法とは関係なしに高かったおかげだろう。

避けた時に反動を利用して後ろに飛び退き、ティマと距離を取る。
彼女はすぐに詰めては来ない。

不思議なことに観客からは何の反応もなかった。

未だ教皇のレオンを断罪するかのような演説は続き、観客達も不安げにしながらもその声に耳を傾けている。

たった今死んだはずの少女が立ち上がり、姿を変えてレオンに斬りかかったことなどまるで見えていないかのように。


「助けを期待しても無駄っすよ。観客には偽りの光景しか見えてないっすから。この魔法を使うと他の魔法が使えなくなっちゃうのが良くないんすけど、それはあんたも同じですかね」

ティマはそう言うと再び短剣を構えてレオンに向けて走り出す。

レオンは両手を前に、魔法の衝撃波を使って彼女の動きを止めようとした。

「やめた方がいいっすねぇ! あんたの動きだけはリアルタイムで外の観客達に見せられる。あんたが攻撃したらアタシはそれを良くない感じにして観客に見せちゃいますから」

その叫びにレオンは魔法を止めた。
彼女の魔法はどうやら幻覚の類を大勢に見せることができるようだ。

それがどれほどの威力のものなのかはわからないが、事実とは異なる光景を見てレオンに非難の視線を向けた観客達のことを考えれば相当のものだろうと予想はつく。

そして、彼女達の狙いにもレオンは何となく気づいていた。

外で見ていたシミエールがそう感じたように、レオンも戦いながら「自分は貶められている」と気づいたのだ。

そのまま攻撃をしていればティマの言うように状況はもっと悪くなってしまうのは明らかだった。
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