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魔法闘技祭編
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悲鳴が上がった。
感高く、空間を切り裂くように響く悲鳴だ。
誰が上げたものなのかレオンには分からなかった。
客席から聞こえたような気もするし、特別席に座るルイズの声だったようにも思える。
それどころか、目の前から聞こえてきたような気さえする。
しかし、その悲鳴の出所を探ろうという余裕はレオンにはなかった。
ドクドクと心臓が脈を打つのが伝わる。
その度に血が溢れ出し、闘技場の舞台の上をぼたぼたと赤く汚していく。
痛みはない。
怪我をしたのは自分ではないのだから。
レオンの腕があの少女の身体を貫いていた。
ティマは震える腕でレオンの右手を掴むと苦しそうに咳をする。
その咳と共に彼女の口から血が吹き出し、レオンの顔にかかる。
「ど……どうして……」
それを言うので精一杯なほどレオンはパニックになっていた。
命を奪うつもりなど最初からありはしない。
魔法を放とうと突き出したレオンの右腕に彼女の方から飛び込んできたのだ。
まるで、最初からそれが狙いだったかのように……。
「悪いとは……思ってるよ」
弱々しくティマが囁いた。
会場中が騒めきたった。
その会場の特別席に座り、今目の前で起きたことに頭を抱えているのはシミエールである。
横に座るルイズも、背後に立つマークも信じられないといった表情で舞台上のレオンを見つめている。
「やられた……これが狙いだったのか」
とシミエールは思った。
この魔法闘技祭。最初から何か違和感を持ってはいたのだ。
魔法使いとして既に一流の域に達しているレオンを暗殺する計画にしてはどこか杜撰だった。
情報が漏れ過ぎている。爪が甘い。
まるで警告しているようにさえ思えた。
ただ、その違和感がハッキリしたのはたった今である。
舞台上で戦うレオンが対戦相手の少女の胸を突き刺した。
シミエールにはそう見えた。
しかし、レオンがそんなことをするはずがないとシミエールは断言できる。
出会ってからの期間こそ短いがレオンの心根の優しさをシミエールは理解しているつもりだった。
「あの少年が故意的に誰かを殺めるなど考えられない」
頭の中で彼はそう断言して、それ以降その考えをしまい込んだ。
それなれば事故か。
事故なのだろう。しかし、実際に目にした光景がそれを否定する。
シミエールの目に映ったのは無防備になった少女に自ら攻撃を仕掛けその胸を貫いたレオンの姿である。
少なくとも事故には見えなかった。
脳内でぐるぐると巡る様々な考え。
何が正解で、何が間違っているのか。
実際に見た事実を信じれば事態は良くない方に進む。
それが不条理なことだと分かっていながらもシミエールは「自分の信じたい方」を信じることにした。
それ故に「これが狙いだったのか」という結論に至るのである。
教皇、並びに新興派の狙いは最初からレオンの暗殺などではなかったのだ。
暗殺の状況をわざと流し、レオンやシミエール達に警戒させた。
その警戒の裏で別の目的が動いていた。
彼らの狙いは真逆だった。
「レオンを暗殺したい」のではなく、「レオンに暗殺をさせたい」だったのだ。
「聖レイテリア神聖国の尊き民たちよ! 今その目で見たものを忘れるな」
騒つく会場に大きな声が響く。
教皇である。いつの間にか舞台の一番目立つところ、魔法闘技の審判がいる場所よりも上に浮いている教皇が魔法で声を拡散したのだ。
会場中の目が教皇へと向けられた。
シミエールは苦虫を噛み潰したような渋い顔をしながら、目の前で起きたことをいまだに飲み込めずにいるルイズとマークに声をかけた。
「逃げる準備をしろ」
と。
感高く、空間を切り裂くように響く悲鳴だ。
誰が上げたものなのかレオンには分からなかった。
客席から聞こえたような気もするし、特別席に座るルイズの声だったようにも思える。
それどころか、目の前から聞こえてきたような気さえする。
しかし、その悲鳴の出所を探ろうという余裕はレオンにはなかった。
ドクドクと心臓が脈を打つのが伝わる。
その度に血が溢れ出し、闘技場の舞台の上をぼたぼたと赤く汚していく。
痛みはない。
怪我をしたのは自分ではないのだから。
レオンの腕があの少女の身体を貫いていた。
ティマは震える腕でレオンの右手を掴むと苦しそうに咳をする。
その咳と共に彼女の口から血が吹き出し、レオンの顔にかかる。
「ど……どうして……」
それを言うので精一杯なほどレオンはパニックになっていた。
命を奪うつもりなど最初からありはしない。
魔法を放とうと突き出したレオンの右腕に彼女の方から飛び込んできたのだ。
まるで、最初からそれが狙いだったかのように……。
「悪いとは……思ってるよ」
弱々しくティマが囁いた。
会場中が騒めきたった。
その会場の特別席に座り、今目の前で起きたことに頭を抱えているのはシミエールである。
横に座るルイズも、背後に立つマークも信じられないといった表情で舞台上のレオンを見つめている。
「やられた……これが狙いだったのか」
とシミエールは思った。
この魔法闘技祭。最初から何か違和感を持ってはいたのだ。
魔法使いとして既に一流の域に達しているレオンを暗殺する計画にしてはどこか杜撰だった。
情報が漏れ過ぎている。爪が甘い。
まるで警告しているようにさえ思えた。
ただ、その違和感がハッキリしたのはたった今である。
舞台上で戦うレオンが対戦相手の少女の胸を突き刺した。
シミエールにはそう見えた。
しかし、レオンがそんなことをするはずがないとシミエールは断言できる。
出会ってからの期間こそ短いがレオンの心根の優しさをシミエールは理解しているつもりだった。
「あの少年が故意的に誰かを殺めるなど考えられない」
頭の中で彼はそう断言して、それ以降その考えをしまい込んだ。
それなれば事故か。
事故なのだろう。しかし、実際に目にした光景がそれを否定する。
シミエールの目に映ったのは無防備になった少女に自ら攻撃を仕掛けその胸を貫いたレオンの姿である。
少なくとも事故には見えなかった。
脳内でぐるぐると巡る様々な考え。
何が正解で、何が間違っているのか。
実際に見た事実を信じれば事態は良くない方に進む。
それが不条理なことだと分かっていながらもシミエールは「自分の信じたい方」を信じることにした。
それ故に「これが狙いだったのか」という結論に至るのである。
教皇、並びに新興派の狙いは最初からレオンの暗殺などではなかったのだ。
暗殺の状況をわざと流し、レオンやシミエール達に警戒させた。
その警戒の裏で別の目的が動いていた。
彼らの狙いは真逆だった。
「レオンを暗殺したい」のではなく、「レオンに暗殺をさせたい」だったのだ。
「聖レイテリア神聖国の尊き民たちよ! 今その目で見たものを忘れるな」
騒つく会場に大きな声が響く。
教皇である。いつの間にか舞台の一番目立つところ、魔法闘技の審判がいる場所よりも上に浮いている教皇が魔法で声を拡散したのだ。
会場中の目が教皇へと向けられた。
シミエールは苦虫を噛み潰したような渋い顔をしながら、目の前で起きたことをいまだに飲み込めずにいるルイズとマークに声をかけた。
「逃げる準備をしろ」
と。
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