上 下
294 / 305
不穏な影編

466

しおりを挟む

ルッチを控室まで連れてきたレオンは彼をベンチの上に座らせると自分もその横に腰をかけた。

少し待つとルッチは回復し、ある程度の身体の自由を取り戻した。


「それで……なぜ俺じゃないと思った?」


レオンたちの試合が終わり、すぐに次の試合が始まっている。

三回戦に出場する選手として他の試合も見ておきたいだろうに、ルッチが回復するまでレオンはその場を離れなかった。

その意味を察してルッチの方から話しかける。


「あなたの魔法です。『首を飛ばせるほどの力がある』と言っていた割にあなたの魔法は本気ではないように思えました。それに、あなたが『暗殺者』で僕のことを殺すつもりだったのなら、たとえ勝利を確信するような場面だったとしても自分の能力を明かしたりはしないでしょう」


レオンの答えにルッチは「ほぉ」と感心した。

その実力は先の戦いですでに知るところではあるが、「物事を見抜く観察眼についても大したものを持っているな」と思ったのである。

一般的な魔法使いの多くが、自分の知らない魔法に対してそれを使う人物がどれほど魔力を込めているのか判断するのを苦手としている。

同じ系統の魔法ならば話は別だ。
例えば火を放出する魔法を使える魔法使いがいたとする。

その人物が他人の使う同じような魔法を見た場合、火の大きさから込められている魔力の量を把握し、どれほどの威力を持った魔法なのかを判断するのはさほど難しくない。

これは、魔法を判断する材料として自分がその魔法を使ってきた「経験」があるからだ。

ところが、初めて見る魔法に対してはこの「経験」がないために判断するのが大分難しくなる。

レオンは結局ルッチの「破裂」の魔法を一度として直接喰らわなかった。

それなのに、その威力を正確に推察していたことに感心したのである。


「お前の言う通り、俺は『暗殺者』じゃねぇ。『レオン・ハートフィリア暗殺の計画』は別のルートで偶然耳にしたものさ」


ルッチは観念したのか、あるいは魔法を見抜いたレオンへの褒美のつもりなのか容易くその事実を認める。

彼が「レオンの暗殺計画」について知ったのは大会が始まる少し前。

レオンたちが船でエレオノアールを出航した頃だった。


「聖レイテリアの新興派が他国の貴族を殺すために腕の立つ魔法使いを探している」


最初はそんな程度の噂だった。

ルッチは闇に潜む魔法使いの集団「シジマ」の幹部として元々聖レイテリア神聖国の新興派の動向に目を光らせていた。

新興派はレターネ神を崇めるレイテリア教に独自の解釈を持ち込み、魔法社会に大きな影響を与えようとしている。

たった十数年前に出てきた派閥にも関わらず、その布教の速さは異常だった。

さらには、教えを拡大的に解釈して犯罪紛いのことまで平然とやってのけるので警戒しないわけにはいかなかったのだ。


噂について調べるうちに狙われているのがエレオノアールで悪魔を倒したと噂になっているレオンであることを知った。

さらに、彼が悪魔の存在を認める発言をし一定数の悪魔たちを自国の領地に匿っていることも。


それで合点がいく。
新興派にとって「悪魔」というのはその存在すら否定しなければならないほどの「邪神」と同じ扱いをされる。


その邪神の存在を認めるような真似をした魔法使いがエレオノアールを出て視察にくることになり、慌てて暗殺計画を進めたのであろうことは想像するのも容易だった。


噂の根幹を知るに連れてルッチはレオンに興味を抱いた。

そして、レオンが魔法闘技祭に出場することを知り自分も出ることにしたのである。
しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。