289 / 305
不穏な影編
461
しおりを挟む
「重力を操っているのか……」
ロアはレオンの使った魔法の特性をすぐに見抜いた。
彼女の言うとおり、「魔法剣」はロアの剣と打ち合った瞬間にその性質を変化させた。
硬質化していた魔力は剣にまとわりついた瞬間に重力を増す魔法に変わる。
その結果、ロアは自分の剣が重くなったように感じた。
その性質を悟った瞬間にロアが二本の剣をすぐに手放していれば結果は変わっていただろう。
魔剣士とはいえ一人の魔法使い。剣がなくとも魔法で戦う術もある。
しかし彼女は自身の剣を手放すことができなかった。
剣士としての誇りが判断を鈍らせた。
レオンは杖でをロアに向ける。
魔力を瞬時に練り上げてそれを放出する。
レオンの魔力が今度はロアの剣ではなく彼女自身を包み込んだ。
魔力は硬質化する。魔力剣の応用だ。
それによりロアは身体の動きを魔法で制限された状態になる。
「う……く、くそ……」
ロアは逃れようとするが、その大きな隙をレオンが見逃すはずもなく。
流れるような動きで繰り出されるレオンの風の魔法でそのまま場外まで吹き飛ばされてしまった。
「おおっと! ここで決着。ロア選手の高い身体能力を魔法で制限し、レオン選手が勝利!」
司会が声高々にそう宣言し、観客歓声を上げて盛り上がる。
レオンは杖をローブの中にしまい、それから場外に倒れたロアのもとに向かう。
戦いとはいえ、怪我をさせていないか気になったのだ。
この戦いの最中、レオンはロアが「暗殺者」なのかどうか見極めるつもりで動いていた。
その結果、レオンの感覚だけで言えば彼女は「白」である。
ロアは純粋に決闘を楽しんでいる節があった。
暗殺を企んでいるというよりも純粋に勝利を目指しているという印象だった。
「大丈夫ですか?」
レオンが声をかけて右手を差し出すととロアは悔しそうにしながらもその手を握った。レオンは彼女を助け起こす。
「甘いというか……優しい男だな。完敗だったよ」
ロアの目には戦いが始まる前の鋭さはもうない。
勝敗が決まり、闘争心はもう消えているようだ。
その上で彼女はレオンの多彩な魔法と、勝ち筋を見極める目を褒めた。
単純に魔力の差で負けた、というよりも近接戦闘に持ち込み圧倒するという自分の戦い方を逆手に取られた結果だと彼女は理解していた。
それはつまり自分の情報を相手がつかんでいたというこを示していて、単純に事前の準備の段階で後れを取っていたのだ、と彼女を納得させた。
それだけではなく、ロアはレオンが本気を出していなかったことにも直感的に気づいていた。
戦っている最中、ずっとレオンには余裕があった。
ロアがどんなふうに責めても常に冷静に対応した。
その余裕を生み出しているのがレオンの隠している実力なのだろうと推測した。
これはロアにとってはかなり屈辱的なことではあった。
自国では魔剣士として他に類を見ないほどの実力者として知られている。
手の内を隠されるというのはそれだけ侮られているということになり、そんな経験は彼女にはなかった。
しかし、それはレオンに対する怒りというわけではなくどちらかといえばレオンの実力を完全に引き出すに至らなかった自分へのものだった。
「まだまだだな、私は。もっと精進しよう」
そう言ってロアはレオンにもう一度手を差し伸べた。
レオンはその手を握り返し
「機会が合えばまた戦いましょう」
と返す。
この時点で、レオンの中で直感的だった彼女が「白」だという感覚はほぼ確実なものに変わっていた。
勝敗がついた後の二人のやり取りは観客たちも目にしていた。
声は聞こえていなかったが、互いに握手をかわすその姿は観客を大いに沸かせた。
ただ、その中には純粋に「魔法闘技祭」を楽しむことができない者もいたのである。
ロアはレオンの使った魔法の特性をすぐに見抜いた。
彼女の言うとおり、「魔法剣」はロアの剣と打ち合った瞬間にその性質を変化させた。
硬質化していた魔力は剣にまとわりついた瞬間に重力を増す魔法に変わる。
その結果、ロアは自分の剣が重くなったように感じた。
その性質を悟った瞬間にロアが二本の剣をすぐに手放していれば結果は変わっていただろう。
魔剣士とはいえ一人の魔法使い。剣がなくとも魔法で戦う術もある。
しかし彼女は自身の剣を手放すことができなかった。
剣士としての誇りが判断を鈍らせた。
レオンは杖でをロアに向ける。
魔力を瞬時に練り上げてそれを放出する。
レオンの魔力が今度はロアの剣ではなく彼女自身を包み込んだ。
魔力は硬質化する。魔力剣の応用だ。
それによりロアは身体の動きを魔法で制限された状態になる。
「う……く、くそ……」
ロアは逃れようとするが、その大きな隙をレオンが見逃すはずもなく。
流れるような動きで繰り出されるレオンの風の魔法でそのまま場外まで吹き飛ばされてしまった。
「おおっと! ここで決着。ロア選手の高い身体能力を魔法で制限し、レオン選手が勝利!」
司会が声高々にそう宣言し、観客歓声を上げて盛り上がる。
レオンは杖をローブの中にしまい、それから場外に倒れたロアのもとに向かう。
戦いとはいえ、怪我をさせていないか気になったのだ。
この戦いの最中、レオンはロアが「暗殺者」なのかどうか見極めるつもりで動いていた。
その結果、レオンの感覚だけで言えば彼女は「白」である。
ロアは純粋に決闘を楽しんでいる節があった。
暗殺を企んでいるというよりも純粋に勝利を目指しているという印象だった。
「大丈夫ですか?」
レオンが声をかけて右手を差し出すととロアは悔しそうにしながらもその手を握った。レオンは彼女を助け起こす。
「甘いというか……優しい男だな。完敗だったよ」
ロアの目には戦いが始まる前の鋭さはもうない。
勝敗が決まり、闘争心はもう消えているようだ。
その上で彼女はレオンの多彩な魔法と、勝ち筋を見極める目を褒めた。
単純に魔力の差で負けた、というよりも近接戦闘に持ち込み圧倒するという自分の戦い方を逆手に取られた結果だと彼女は理解していた。
それはつまり自分の情報を相手がつかんでいたというこを示していて、単純に事前の準備の段階で後れを取っていたのだ、と彼女を納得させた。
それだけではなく、ロアはレオンが本気を出していなかったことにも直感的に気づいていた。
戦っている最中、ずっとレオンには余裕があった。
ロアがどんなふうに責めても常に冷静に対応した。
その余裕を生み出しているのがレオンの隠している実力なのだろうと推測した。
これはロアにとってはかなり屈辱的なことではあった。
自国では魔剣士として他に類を見ないほどの実力者として知られている。
手の内を隠されるというのはそれだけ侮られているということになり、そんな経験は彼女にはなかった。
しかし、それはレオンに対する怒りというわけではなくどちらかといえばレオンの実力を完全に引き出すに至らなかった自分へのものだった。
「まだまだだな、私は。もっと精進しよう」
そう言ってロアはレオンにもう一度手を差し伸べた。
レオンはその手を握り返し
「機会が合えばまた戦いましょう」
と返す。
この時点で、レオンの中で直感的だった彼女が「白」だという感覚はほぼ確実なものに変わっていた。
勝敗がついた後の二人のやり取りは観客たちも目にしていた。
声は聞こえていなかったが、互いに握手をかわすその姿は観客を大いに沸かせた。
ただ、その中には純粋に「魔法闘技祭」を楽しむことができない者もいたのである。
96
お気に入りに追加
7,360
あなたにおすすめの小説
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。