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不穏な影編

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レオンの最初の試合は本選の順番では三試合目だった。

参加人数の多かった予選試合とは違い、本選は一対一の戦いを順番に行っていく。

その一試合ずつに観客は熱を上げ、賭けの金額も決勝が近づくにつれて上がっていく仕組みなのだ。


「それでは第三戦を始めましょう。まずはシェーン国魔剣士隊の副隊長、ロア・ラグナロ! 対するはエレオノアールの英雄貴族、レオン・ハートフィリア!」


司会をしている教会の魔法使いが声を魔法で拡散し観客に届ける。

言われたとおりにそれを合図にしてレオンが舞台に上がると観客から大きな歓声が上がった。


正面には赤い髪の二刀流の女性。対戦相手のロアが立っている。
鋭い視線でレオンのことを睨みつけ、両腰に差した剣を順番に抜く。


その鋭い視線の意味がレオンを対戦相手としてみているのか、それとも暗殺の対象としてみているのかはわからなかった。

試合開始のゴングが鳴る前にレオンも杖を抜いた。


「それでは……始めっ!」


司会の掛け声に合わせてゴングが鳴る。
それと共に魔法で身体能力を強化したロアがレオンのもとへ踏み込む。

右手に握った剣がレオンの首に狙いをつけて振りぬかれる。


そのあまりの速さにレオンは一瞬遅れをとったが、対応できないほどのものではなかった。

剣筋を見極めて微細な動きで剣をかわす。
それからロアの左手の剣による追撃もかわし、魔法で風を生み出してロアの身体を押しのけるように当てる。
それに加えて、その風を自分が後ろに下がるための推進力にした。


「魔法闘技祭」の主な勝利条件は三つ。
「相手を舞台の上から押し出す場外判定」「対戦相手の気絶、あるいは死亡による戦闘継続の不能」「対戦相手の意思表示による降参」である。


レオンはロアを舞台の外に押しのけるようと杖を振って風をさらに強くした。


「甘い……」

しかしロアは風に押されながら自身の身体をひねり、剣に魔力を纏わせてレオンの生み出した風を魔力ごと断ち切って見せた。

さらに風に煽られて崩れた自身の体勢を高い体感能力で制御し、空中に魔力の壁を生み出す。
そしてそのままその魔力の壁を足場にして再びレオンのもとへ飛び込んでくる。


「……つっ! 魔力剣!」


ロアの高い身体能力に驚きつつ、レオンは手に魔力を纏わせて彼女の剣を迎え撃った。
身体能力を向上させる魔法を自身に付与し、力をロアと拮抗させる。

「魔力剣」という魔法はその名前の通り魔力を杖に纏わせた状態で硬質化し、剣のようにする魔法である。
レオンがモゾやテトの変身能力を参考にして作った魔法である。

「魔力剣」はその大きさも長さも自在だが、大きくすればするほどに硬質化した魔力の質が悪くなり、脆くなる。

また、自在に振り回せるかと言われればそうではなく、現状では剣などの物理的な武器を防ぐためにしか使えない。

そもそも、テトを呼び出して変身させればこの魔法を使う必要もないのだが、この「魔法闘技祭」においてテトを呼び出すのは極力控えようというのがレオンの思惑だった。

暗殺者がどこかに潜んでいて、そうでなくとも教皇や新興派の人間たちがこの大会を見ている。

実力をすべてさらけ出す気にはなれなかった。

逆に言えばテトの存在を隠した上で自分の戦い方を補うための魔法が「魔力剣」だった。


自在に振り回せないという「魔力剣」の攻撃面でのマイナスを補うための仕掛けもしてある。


「なんだ……この魔法は……」


ロアはレオンの使った「魔法剣」に動揺した。
魔力が硬質化し自慢の剣を受け止めたから、だけではなく剣が打ち合った瞬間からレオンの魔力の形状が変化したからだ。

まるで生き物のように魔力がうねり出し、ロアの二本の剣に絡みつく。

それとともに自身の剣が重くなっていくのロアは感じた。

それがレオンの「仕掛け」だった。
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