没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵

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入国編

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宿に着いたレオン達はその豪華さに目を奪われる。
恐らくだが、イトウェルの町で一番高級な宿であろうとわかる店の様相にそう言ったところに今まで縁のなかったレオンは戸惑ってしまう。
それは、ルイズやマークも同じだったらしく、多少なりとも怖気付いているのが見て取れた。

唯一動じていなかったのはシミエールだけだった。
聖レイテリア神聖国までの道中、そこに関するすべての旅費は王国……もとい、ヒースクリフが負担するという話で、その旅路は旅の支援を司ったクエンティンと、そのクエンティンによって派遣されたイリファによって綿密に計画されている。

この高級宿も「聖レイテリア神聖国、並びに道中で訪れるその他の国にエレオノアールの貴族の威厳を示す」という目論見があるのだが、レオンには落ち着かないものだった。

各々に個室が用意されていて、部屋に入ると専用の使用人が一人待機している。

この使用人は食事の用意や寝室のベッドメイキングなど滞在中の生活を補佐する役割を与えられているようだった。

しかし、部屋に知らない誰かがいるというのは気を使うもの。
レオンはこれが貴族の当たり前なのか、と小さくため息を吐いた。

「マーク、僕だ。少し町に行ってくるよ」

何かと理由をつけて部屋を出たレオンはすぐ隣の部屋のマークに声をかける。

彼は護衛の責任者であり、声をかけないわけにはいかない。

レオンがノックをしながらそう声をかけると部屋の中でドタバタと慌てる音が響いて、少ししてからようやく扉が開いた。

「お、おう。町に行くのか。なら俺も行くぜ。護衛としてな」

そう言ったマークの息は軽く弾んでいる。
不思議に思ったレオンの目に、マークの肩越しに見える彼の部屋の様子が映った。

どうやら、「使用人」や「部屋が寝室と客間に分かれている」というのは貴族であるレオンへの特別待遇のようで、同じ階にある隣の部屋だというのにマークの部屋は随分と様子が違っていた。

あるのは一部屋だけらしく、その一部屋にベッドも置かれている。

どうやら泊まる貴族の護衛や、元々の使用人が使うための部屋らしい。

それでもさすがは高級宿、置かれている家具の類は一流の高そうなものばかりだし、ベッドは広く質もレオンが使うものと大差がないものだった。

そのベッドのシーツが少し乱れている。
それから放り出した荷物が部屋に入ってからのマークの行動を物語っているようにレオンには思えた。

宿の外観には圧倒されたマークだったが、部屋に入る頃にはもう慣れ、というよりも開き直り、自分が今まで見たこともないような高級な部屋の中ではしゃいでいたのだ。

ベッドの柔らかさに感動し、その上で年甲斐もなく飛び跳ねていたところにレオンが訪ねてきたのだった。

「ま、まぁ待ってろ。今すぐ用意するから」

マークは気恥ずかしそうにそう言うと一度扉を閉める。

その間にレオンはルイズも誘おうかと彼女の部屋を訪ねることにした。

彼女の部屋はレオンの部屋から二つ隣。つまりマークの隣の部屋なのだが、隣と言っても距離がある。

それは防犯のためか、あるいは泊まりに来た貴族達が顔を合わせないようにするためか。

同じ階の部屋であってもある程度距離が離れているのだ。

ルイズの部屋の扉をノックすると、程なくして扉が開いたが、顔を覗かせたのは彼女ではなかった。

「……お泊まりのレオン・ハートフィリア様ですね。ネメトリア様は只今入浴中でございます。御用がおありでしたらお伺い致します」

出てきたのはメイドの格好をした女性。
この部屋専属の使用人である。

北方の辺境とはいえ、ルイズも貴族の一員。用意された部屋はレオンと同じものだったらしい。

偶然とはいえ女性の入浴中に部屋を訪ねてしまったことをレオンは少し気まずく思い、町に行く旨だけを使用人に伝えて部屋を後にした。
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