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出国準備編
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しおりを挟むレオンは手のひらに乗せた爪を睨みつけて
「ふーむ」
と唸る。
悪魔の生み出した生物の素材なのだから当の悪魔たちに尋ねてみればいい。
当然レオンはそうした。
しかし、ディーレインは元々が人間だったために詳しく知らず、他のどの悪魔に聞いても答えは「よくわからない」という曖昧なものだった。
「使い魔ならばお前も生み出しただろう。どのように生み出して、なぜ命を持ったように振る舞うのか説明できるか?」
逆にそう尋ねたのはア・シュドラである。
言われてみてレオンはハッと気づく。
レオンの影の中に潜み、時折手助けをしてくれる黒猫テトはレオンが生み出した使い魔である。
エレノアが作り出したモゾを真似て生み出したことは確かに覚えているが、「どうやって、どういう原理で」と聞かれればその答えは「わからない」としか言いようがなかった。
「魔法で生み出した」以外には答えようもない。
仮にテトが誰かに倒されてしまったとして、その後には同じように何かしらの素材が残るのだろうか。
そもそも、テトはどういう仕組みで動いているのかすらレオンには説明ができなかった。
「自分の使った魔法なのに、自分で説明もできないなんて……あまりにも無責任じゃないか?」
レオンは自分の影の中にいるテトのことを呼ぶ。
「にゃあ」
と一声鳴いて、テトがレオンの足に頬を寄せる。
その頭を撫でながらレオンは他のことを考えていた。
自分は魔法についてもっとよく知らなければならないのではないか、と。
「レオン様、ご夕食の用意ができました」
突然声をかけられてレオンは驚く。
振り返ると、地下室の入り口の前でイリファが頭を下げていた。
「いつのまに後ろに……というよりも帰ってきたことにも気が付かなかった」とレオンは自分が思っていた以上に魔道具に没頭してしまっていたことに気が付く。
「レオン様。猫を飼っていらしたのですか?」
イリファがレオンの足元に擦り寄るテトを見て言った。
無表情だが、わずかに口角が上がっている。
特に隠すつもりもなかったため、レオンはその猫、テトが魔法で作られた存在なのだと説明した。
「魔法……この子が……」
イリファは意外そうに呟きながらテトの前足を持ち上げて遊んでいる。
テトも嫌がる様子はなく、ごろんと寝転がったり、イリファに甘えるような仕草を見せた。
「本当の猫のように動くのですね」
イリファは「ふふっ」と笑う。
付き合いの浅いレオンにも彼女が猫を愛でていることがわかった。
「魔法を見るのは初めて?」
ここが関係を深めるチャンスかと思い、レオンは質問してみる。
イリファは「なぜそんなことを聞くのか?」と少し不思議そうな顔をしたが、それでも不快に思ったわけではなかった。
「はい……私の家は元貴族家ですが、父も母も魔法は使えません。私にもその才能はありませんでしたので」
イリファがそう答えてからレオンは自分の言動を少し反省した。
レオンにとっては何気ない質問のつもりだったが、考えてみれば没落した貴族の娘にその手の話題は無遠慮だったかとと思ったのだ。
レオンが何をどう言おうかと迷っていると、今度はイリファの方からレオンに問いかける。
「レオン様は幼い頃から魔法が使えたのですよね? やはり、貴族に戻ることを目標にしていたのですか?」
「え? ……うーん、どうだろう。僕の場合は『貴族に戻りたい』というよりも、『育ててくれた両親に楽をさせてあげたい』っていう方が強かったからな。もちろん、両親を貴族家に復帰させられることが一番だとは思ってるけど、その両親には一緒に住むことを断られてしまったしね」
レオンが「ははは……」と苦笑いしながらそう言うとイリファは「そうですか」と一言言って、会話は終了してしまった。
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