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月夜の夜明け編
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王都からファナスという名前の魔法使いが派遣されてから一週間が立った。
薬や治癒の魔法を主として研究しているというファナスは漁村の流行病に対してあっという間に治療法を見つけ出し、病に冒されて死を待つだけだった人達に安らぎを与えていた。
「ファナス様のおかげで、村の者達にすっかり活気が戻りました。私共平民なんかのために、本当にありがとうございます」
村長は屋敷に招いたファナスに深々と頭を下げ、礼を述べる。
ファナスはそれを受けて、笑顔で
「気にしないでください」
と言った。
「一先ず村の方達の熱は下がりましたし、後は安静を保っていれば大丈夫でしょう。私の仕事はもう終わりましたので、明日には王都に帰らせてもらいます……」
ファナスが一瞬口篭る。
その理由に村長は気付いていた。
ファナスは村についた後、自分が王都から派遣された魔法使いであるという旨の書状を村長に見せた。
そこには、当然今回の派遣にかかった費用が記載されており、それを支払うのは漁村の義務となっていた。
「こんな大変な時期に心苦しいですが、私もお金を貰わなければ王都に戻れません。どうにか、費用を工面できますか?」
小さな漁村のお金の面を心配したファナスが村長に尋ねる。
村長はもう一度頭を深々と下げた。
「とんでもありません! 私共だけではどうにもならなかったところをお救いいただいた上にそんな心配まで……なに、村の者たち全員の貯蓄を集めればなんとかなります。今日の夜には用意しますのでどうかお待ちください」
治療の費用は莫大な額というわけではなかった。
確かに漁村に住む者達からすれば高額なことに変わりはないのだが、頑張ればなんとか払えそうな額だったのだ。
村長の言葉を聞いてファナスは安心したように頷く。
「それでは、私は最後にもう一度村の方達のところを回ってきます」
ファナスがそう言って村長の家を出た時、
「先生!」
と大きな声でファナスのことを呼びながら、かけてくる少年がいた。
シュレンガーである。
二人が初めて出会ったあの三日月の晩とは違い、その表情には笑顔が溢れている。
「シュレンガー、おはよう。お母さんの調子はどうだい?」
ファナスを「先生」と呼んで慕うようになったシュレンガーに、ファナスは母親の様子を尋ねる。
「うん。まだ起き上がれないけど、熱も下がったしうなされてもいないよ」
シュレンガーがそう言うとファナスは満足そうに頷いた。
「そうか、それはよかった。後は安静にしていれば大丈夫だからね」
ファナスの言葉にシュレンガーは頷く。
それからファナスの持っていた診察用のかばんに気づいて
「先生、また診察に行くの?」
と尋ねた。
「ああ、明日帰ることになったからね。その前にもう一度だけ皆さんを診ておこうと思ってね」
ファナスのその言葉にシュレンガーは残念そうな顔をする。
ファナスが王都に帰るというのが嫌だったのだ。
「先生、もっといてよ。俺、魔法は使えないけど先生みたいに人を治せる立派な医者になりたいんだよ」
そう言ってしがみつくシュレンガーの肩をファナスは優しく叩いた。
「それはできないよ。王都にも僕の治療を待ってくれている人がいるからね。でも、君がその気持ちを忘れなければいつかまた会えるさ」
そう言うファナスにシュレンガーは顔を上げる。
「本当?」
「本当さ。人の縁と言うのは不思議なものでね。一度出会った人と人は見えない縁の糸で結ばれているんだ。だからその糸がいつかまたその二人を引きあわせてくれるのさ」
ファナスはそう言うとシュレンガーの頭を撫でた。
シュレンガーは嬉しそうに笑い、それから、診察に行くファナスの後をついていく。
薬や治癒の魔法を主として研究しているというファナスは漁村の流行病に対してあっという間に治療法を見つけ出し、病に冒されて死を待つだけだった人達に安らぎを与えていた。
「ファナス様のおかげで、村の者達にすっかり活気が戻りました。私共平民なんかのために、本当にありがとうございます」
村長は屋敷に招いたファナスに深々と頭を下げ、礼を述べる。
ファナスはそれを受けて、笑顔で
「気にしないでください」
と言った。
「一先ず村の方達の熱は下がりましたし、後は安静を保っていれば大丈夫でしょう。私の仕事はもう終わりましたので、明日には王都に帰らせてもらいます……」
ファナスが一瞬口篭る。
その理由に村長は気付いていた。
ファナスは村についた後、自分が王都から派遣された魔法使いであるという旨の書状を村長に見せた。
そこには、当然今回の派遣にかかった費用が記載されており、それを支払うのは漁村の義務となっていた。
「こんな大変な時期に心苦しいですが、私もお金を貰わなければ王都に戻れません。どうにか、費用を工面できますか?」
小さな漁村のお金の面を心配したファナスが村長に尋ねる。
村長はもう一度頭を深々と下げた。
「とんでもありません! 私共だけではどうにもならなかったところをお救いいただいた上にそんな心配まで……なに、村の者たち全員の貯蓄を集めればなんとかなります。今日の夜には用意しますのでどうかお待ちください」
治療の費用は莫大な額というわけではなかった。
確かに漁村に住む者達からすれば高額なことに変わりはないのだが、頑張ればなんとか払えそうな額だったのだ。
村長の言葉を聞いてファナスは安心したように頷く。
「それでは、私は最後にもう一度村の方達のところを回ってきます」
ファナスがそう言って村長の家を出た時、
「先生!」
と大きな声でファナスのことを呼びながら、かけてくる少年がいた。
シュレンガーである。
二人が初めて出会ったあの三日月の晩とは違い、その表情には笑顔が溢れている。
「シュレンガー、おはよう。お母さんの調子はどうだい?」
ファナスを「先生」と呼んで慕うようになったシュレンガーに、ファナスは母親の様子を尋ねる。
「うん。まだ起き上がれないけど、熱も下がったしうなされてもいないよ」
シュレンガーがそう言うとファナスは満足そうに頷いた。
「そうか、それはよかった。後は安静にしていれば大丈夫だからね」
ファナスの言葉にシュレンガーは頷く。
それからファナスの持っていた診察用のかばんに気づいて
「先生、また診察に行くの?」
と尋ねた。
「ああ、明日帰ることになったからね。その前にもう一度だけ皆さんを診ておこうと思ってね」
ファナスのその言葉にシュレンガーは残念そうな顔をする。
ファナスが王都に帰るというのが嫌だったのだ。
「先生、もっといてよ。俺、魔法は使えないけど先生みたいに人を治せる立派な医者になりたいんだよ」
そう言ってしがみつくシュレンガーの肩をファナスは優しく叩いた。
「それはできないよ。王都にも僕の治療を待ってくれている人がいるからね。でも、君がその気持ちを忘れなければいつかまた会えるさ」
そう言うファナスにシュレンガーは顔を上げる。
「本当?」
「本当さ。人の縁と言うのは不思議なものでね。一度出会った人と人は見えない縁の糸で結ばれているんだ。だからその糸がいつかまたその二人を引きあわせてくれるのさ」
ファナスはそう言うとシュレンガーの頭を撫でた。
シュレンガーは嬉しそうに笑い、それから、診察に行くファナスの後をついていく。
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