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忍び寄る影編
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しおりを挟むそれは、課外授業三日目の夜が終わり、生徒も教員も街の人たちでさえもはしゃぎ疲れて眠った頃に突然起こった。
自室のベッドの中で休んでいたレオンの耳に最初に聞こえたのは大きな爆発音であった。
「……!?」
その衝撃に目を覚ましたレオンが窓の外を見ると、街の空が赤く染まっていた。
燃えている。
クルザナシュの街が、燃えているのだ。
次に聞こえてきたのは住民達の悲鳴である。
「火事だ! 逃げろ!」
「周りの連中も起こしてくれ! 街が燃えちまう!」
レオンは、衣装掛けにかけてあったローブを手に取ると家の中を飛び出した。
外に出てレオンはますます驚愕する。
日が沈むまではお祭り騒ぎだったクルザナシュではあるが、この喧騒はそれとはまったくの別物だった。
街のあちらこちらから火の手があがり、それに気づいた住人達が街の中心であるレオンの家の方へと走って逃げてくる。
魔法を使えるものは空を飛びながら魔法による消化を試みているところだった。
一体なぜ? という疑問がレオンの中で渦巻く。
街の建物のほとんどが岩を魔法で切り出して作ったものだ。
火の不始末があったとしても、こうも燃え上がるとは考えられない。
それに、火は街の外周の方で燃え広がっているようだった。
それはまるで、住人達を街の中心に集めて街から逃がさないようにしているようにも見える。
「おいレオン、ぼさっとすんな! 襲撃だ!」
そばを通ったマークがレオンに声を荒げる。
マークはそのまま部下達を連れて街の正門の方へと飛んでいく。
襲撃? とレオンは怪訝に思った。
そして、同時に「ありえない」とも。
通常、大きな街には夜間も街を守るための衛兵が配置されており、昼と夜の二体制で街を守っているが、クルザナシュにはその衛兵がいない。
それには当然理由があり、簡単に言えばクルザナシュに衛兵は必要ないからであった。
街にはレオンが自ら施した結界があり、クルザナシュに悪意を持つものの侵入を拒む。
それだけでなく、クルザナシュに住む多くの魔法使い達が防衛の要にもなっていた。
魔法が発動すれば大抵の魔法使いはそれに気づく。
レオンや悪魔達には敵が魔法を発動する準備段階での感知が可能なため、襲撃される前に動くことが可能なのだ。
それなのに、今回は何も感じなかった。
悪意のある者が街に入ったことにも、魔法が発動されたことにもレオンは全く気が付かなかったのである。
そんなことは絶対にあり得ないとレオンは困惑していた。
しかし、すぐに我に帰る。
「僕がしっかりしなきゃ……この街の領主は僕なんだ」
と自分に言い聞かせるように呟く。
襲撃者がどんな方法でレオンにも気づかれずに街に攻撃を仕掛けたのかはわからない。
しかし、事実として街が襲われている以上、住民を守るのがレオンの責務である。
「みんな! 一先ず街の広場へ! 防御魔法をかけます! それから歩けない人には手を貸してあげて、僕は火を止めてくる」
レオンは逃げる住民達に魔法で声を拡張して指示をする。
その言葉で住民達の心に冷静さが戻ったのか、バラバラに逃げ惑っていた人々は互いに声を掛け合って、レオンの指示の通りに街の広場へと向かって行く。
レオンは「飛行」で空高く飛び上がると街の周囲をぐるりと見渡した。
火の手は街を取り囲むように上がっているが、一箇所だけそれが既に鎮火されている場所がある。
魔法学院の生徒達が寝泊まりする宿泊所の方である。
「ルイズか、良かった」
その早さに心当たりがあったレオンはホッとする。
水系統の魔法を得意とするルイズが一足先に宿泊所の周囲の火を消してくれたようだ。
ルイズと他の教員達がついているならば学生達は安全だろうとレオンは判断した。
そして、その反対側。
最も激しくひのてがあがる街の正門の方へ向けてレオンは全速力で飛んでいくのだった。
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