199 / 305
魔法学院生徒受入編
371
しおりを挟む「魔法学院の一年生の皆さん。ようこそクルザナシュへ。東の街リノニアからの長旅で疲れてることとは思いますが、どうかこの街での三日間を有意義なものにしてください」
壇上に立つレオンの挨拶を、王都から来た魔法学院の一年生達は膝を抱えて座りながら聞いていた。
まだあどけなさの残るその顔立ちは到底魔法使いには見えず、子供が職場体験にやって来たようにしか見えない。
クルザナシュに来た一年生の人数は約三十人程度だが、それが今年の新一年生の総数である。
レオン達が学生の頃は一クラスに約三十人程度、それが三クラスあったため、人学年の総人数はおよそ百人弱はいたはずだが、何も魔法使いの人数が減少傾向にあるわけではない。
レオン達の時代では魔法の才能が発現し、十五歳の成人を迎えた者が入学対象となっていたのに対し、今の新入生達はそれよりも三年若い十二歳なのだ。
集められた子達は魔法の才能の発現が比較的に早かった子達。それも、入学するかしないかは本人の意思を尊重して集められた者達である。
国中の同年代の中にはまだ自分に魔法の才能があると知らない者もいるだろうし、才能は発現していても今回の入学は見送った者もいる。
そう言った者達は三年後の成人の儀式を迎える時に再び魔法使いになるかどうか、選択の自由を与えられるのである。
集められた若き才能の塊達は好奇心に心を支配されているようで、やたらと顔をキラキラさせている。
彼らは王都を出立し、まず北の街ノクディアへ。
そこで課外授業を終えた後に東の街リノニアへと向かい、そしてこのクルザナシュにやって来ている。
課外授業は移動も含めておよそ一ヶ月にもわたる大掛かりな計画であり、東西南北の街を一つずつ回るためクルザナシュは三ヶ所めである。
それにもかかわらず彼らがその笑顔から疲労の色を全く見せないのは若さ故か、それともクルザナシュに対する期待感が疲労を忘れさせているのか。
とにかく、レオンがあまり長くならないようにと何度も練習した歓迎の挨拶の言葉は彼らの耳を右から左へと通過していくだけであった。
さらには、レオンが挨拶を終えるや否や蜘蛛の子を散らすように街中に散らばっていってしまう。
引率する学院の教員達や護衛役のマークとその他の魔法騎士団達に疲労の色が色濃く出ているのを見るに、ここまでの道のりでずっとこの調子だったらしい。
「なかなかいいスピーチだったわね」
せっかく考えた挨拶が生徒達に響いていないのを気にしながらレオンが肩を落としていると、引率の教員達の中から一人の女性が近づいて来て、レオンに声をかけた。
「ルイズ! ありがとう。そして、ようこそクルザナシュへ」
レオンはそのよく見知った女性。ルイズ・ネメトリアと握手を交わして再び歓迎の言葉を続けた。
魔法学院時代の友人であり、これまで何度もレオンと戦いを共にして来たルイズは魔法学院の一年生達の引率のために選ばれた魔法使いの一人である。
といっても、彼女は学院の教員になったわけではない。
北方の貴族の娘であるルイズは、学院を卒業後は故郷には帰らず、王位を求めて戦うヒースクリフと共に王都で活動をしていた。
しかし、戦いが終わったことで彼女の王都での役割は無くなり故郷に帰って村の領主の地位を継いだのである。
つまり、彼女はレオンと同じ立場の人間というわけだ。
北方の彼女の村は凍える寒さがほとんど一年中続くような厳しい土地だが、跡を継いでからというものそれなりにうまくやっているようである。
彼女が一年生達を引率しているのは単に学院側の人手が足りず、頼まれたから。
いってみれば臨時講師のようなものだった。
ルイズは一年生が王都を出立して北の街に着くのを現地で迎えて、そこでの課外授業が終わった後はずっと彼らに着いて国を周っていたのである。
1
お気に入りに追加
7,360
あなたにおすすめの小説
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。