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二国の使者編
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しおりを挟む「一つ聞きたい」
クルザナシュの地下の街にライナスの声が響いた。
魂だけの存在となり、人には聞こえぬ声を持つ怪しき光の住人達は静かにそれを見守っている。
レオンもまた、何も言わずにライナスの次の言葉を待った。
悪魔達の魂を魔導人形に移す計画を話したのはレオンにとっても賭けだったのだ。
それを脅威と取るか、技術の進歩と取るか。
ライナスの選択によって聖レイテリア神聖国の方針も変わる。
下手をすれば、世界的に権力を持つ教会がエレオノアールの敵となることも考えられる。
しかし、この地下洞窟を見せると腹に決めた時からレオンには隠し事をするという選択肢はない。
取り繕って表面だけを見せてもライナスには通じないだろう。
必ずや綻びを見つけ、この国に、クルザナシュの街に不信感を持つことは明白だ。
何よりも見せたくない物を隠し、嘘をついてはレオンが今までに嫌ってきた多くの貴族達と同じになってしまう。
だからレオンはこの街の全てを見せたのだ。
その上でこちらに敵意がないことを、悪魔達に安全な街を提供したいだけだということをわかって欲しかった。
「なぜ、悪魔達はこの国に来た? 彼らの目的はなんだ」
ライナスは口を開いた。
その言葉は悪魔達の真意を確かめるためのものだった。
本来であればそんなことは単刀直入に聞くべきことではない。
一対一の対話とはいえ、ライナスもレオンもお互い国を背負ってこの場所にいるのだ。
国同士のやり取りではお互いに真意を隠し、相手の動向から目的を探るのが普通である。
ライナスとて今まで生きてきて、幾つもの国とそういう取引をしてきた。
「正直に言おう。私は今決めかねている。貴国を『悪』と見るべきか、『善』と見るべきか……我が国の司祭様はこう仰った。『悪魔なるものが本当にするのなるば速やかにその存在を消せ』と。敢えてここで明かすが、私の目的は動向の調査などではなかった。『悪魔の抹殺』……それこそが我が国から与えられた使命である」
ライナスは胸を張り、言い切った。
その場にはサンブック王国のアルナードがいたにも関わらず、まるでそれを関係ないと言うように。
急に腹の内を明かしたライナスにレオンは戸惑う。
そして、その意味を理解する。
ライナスは「私は腹の内を明かした。だからお前も明かせ」と暗にそう伝えているのである。
通常ならばあり得ない。
そんなことをしても何かの策略を疑われるだけ。
しかし、ライナスはレオンが嘘をつけない者であると見抜いていたのだ。
レオンはライナスの瞳を見つめる。
老いて尚漂う強者の雰囲気。
瞳は鋭くレオンを捉え、視線を逸らす素振りもない。
ライナスに何の策略もないことをレオンが信じるに値する眼だった。
「話しましょう。この国に起こったことを」
「おい、レオン……」
覚悟を決めたレオンをマークが止めようとする。
王国が襲撃されたこと、そしてその裏に潜んでいた悪魔達の影。
ヒースクリフがこの国の為を思って他国には隠してきた情報は幾つもある。
ただの貴族にそれを勝手に話していい理由などない。
「いいんだマーク。ヒースにも許可はとってある」
しかしレオンならば話は別である。
悪魔達を止めたのも、事件の内容を誰よりも理解しているのもレオンなのだから。
国王であるヒースクリフには二国の使者が来ると伝えられた時には既に確認してある。
「必要だと思った時には全てを隠さずに伝える」
と。
「……どうやら僕は席を外した方が良さそうだ」
成り行きを見守っていたアルナードがその場を離れようとする。
使者という立場は同じだが、聖レイテリア神聖国とサンブック王国では目的が違う。
ここからはレオンとライナスの二人の問題となり、そこにアルナードがいては国際的な問題なる。
そのため、気を使ったのだ。
しかし、レオンはそんなアルナードを止めた。
「いいんだ。君にも聞いてほしい。これから話すのはこの国に起こったことと、その発端だ」
レオンはこの国で起こった戦争のことを二国の使者二人に伝えた。
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