上 下
191 / 305
二国の使者編

363

しおりを挟む

「一つ聞きたい」

クルザナシュの地下の街にライナスの声が響いた。
魂だけの存在となり、人には聞こえぬ声を持つ怪しき光の住人達は静かにそれを見守っている。

レオンもまた、何も言わずにライナスの次の言葉を待った。


悪魔達の魂を魔導人形に移す計画を話したのはレオンにとっても賭けだったのだ。

それを脅威と取るか、技術の進歩と取るか。

ライナスの選択によって聖レイテリア神聖国の方針も変わる。

下手をすれば、世界的に権力を持つ教会がエレオノアールの敵となることも考えられる。

しかし、この地下洞窟を見せると腹に決めた時からレオンには隠し事をするという選択肢はない。

取り繕って表面だけを見せてもライナスには通じないだろう。

必ずや綻びを見つけ、この国に、クルザナシュの街に不信感を持つことは明白だ。

何よりも見せたくない物を隠し、嘘をついてはレオンが今までに嫌ってきた多くの貴族達と同じになってしまう。


だからレオンはこの街の全てを見せたのだ。
その上でこちらに敵意がないことを、悪魔達に安全な街を提供したいだけだということをわかって欲しかった。


「なぜ、悪魔達はこの国に来た? 彼らの目的はなんだ」

ライナスは口を開いた。
その言葉は悪魔達の真意を確かめるためのものだった。

本来であればそんなことは単刀直入に聞くべきことではない。

一対一の対話とはいえ、ライナスもレオンもお互い国を背負ってこの場所にいるのだ。

国同士のやり取りではお互いに真意を隠し、相手の動向から目的を探るのが普通である。

ライナスとて今まで生きてきて、幾つもの国とそういう取引をしてきた。


「正直に言おう。私は今決めかねている。貴国を『悪』と見るべきか、『善』と見るべきか……我が国の司祭様はこう仰った。『悪魔なるものが本当にするのなるば速やかにその存在を消せ』と。敢えてここで明かすが、私の目的は動向の調査などではなかった。『悪魔の抹殺』……それこそが我が国から与えられた使命である」


ライナスは胸を張り、言い切った。
その場にはサンブック王国のアルナードがいたにも関わらず、まるでそれを関係ないと言うように。

急に腹の内を明かしたライナスにレオンは戸惑う。

そして、その意味を理解する。

ライナスは「私は腹の内を明かした。だからお前も明かせ」と暗にそう伝えているのである。


通常ならばあり得ない。
そんなことをしても何かの策略を疑われるだけ。

しかし、ライナスはレオンが嘘をつけない者であると見抜いていたのだ。

レオンはライナスの瞳を見つめる。

老いて尚漂う強者の雰囲気。
瞳は鋭くレオンを捉え、視線を逸らす素振りもない。

ライナスに何の策略もないことをレオンが信じるに値する眼だった。


「話しましょう。この国に起こったことを」


「おい、レオン……」


覚悟を決めたレオンをマークが止めようとする。

王国が襲撃されたこと、そしてその裏に潜んでいた悪魔達の影。

ヒースクリフがこの国の為を思って他国には隠してきた情報は幾つもある。


ただの貴族にそれを勝手に話していい理由などない。


「いいんだマーク。ヒースにも許可はとってある」


しかしレオンならば話は別である。
悪魔達を止めたのも、事件の内容を誰よりも理解しているのもレオンなのだから。

国王であるヒースクリフには二国の使者が来ると伝えられた時には既に確認してある。


「必要だと思った時には全てを隠さずに伝える」

と。



「……どうやら僕は席を外した方が良さそうだ」


成り行きを見守っていたアルナードがその場を離れようとする。

使者という立場は同じだが、聖レイテリア神聖国とサンブック王国では目的が違う。

ここからはレオンとライナスの二人の問題となり、そこにアルナードがいては国際的な問題なる。

そのため、気を使ったのだ。

しかし、レオンはそんなアルナードを止めた。


「いいんだ。君にも聞いてほしい。これから話すのはこの国に起こったことと、その発端だ」


レオンはこの国で起こった戦争のことを二国の使者二人に伝えた。


しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。