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二つの国編

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「砦正面の制圧完了……と」


倒れた二人の山賊の前に静かに現れたレオンが言った。

レオンは二人の首筋に手を当てて、脈を確かめる。

殺傷能力のある魔法は使っていないが、念のために二人が眠っているだけだと言うのを確認したのだ。


レオンが使ったのは「催眠」という魔法だった。

魔力で相手の脳内に直接働きかけ、眠気を誘う魔法である。


「それにしてもこの人達、僕がクルザナシュの領主になったこと知らなかったのかな」


彼らを眠らせる前に微かに聞こえた会話の内容を思い出してレオンは不思議そうに呟いた。

大規模な戦いがあったことでレオン・ハートフィリアの名前は必要以上に国中に広まっている。

当然レオンが貴族になったということも同時に広まるわけで、目の前で眠る男達がそのことを知らなかったのが意外だったのだ。


「大方、その日を暮らすのに精一杯で他のことに目を向けてられなかったんだろ。まぁ、あんだけ話題になったことも知らないようじゃ、一味の規模もたかが知れてるな」


茂みから出てきたマークが剣を抜きながらそう言った。

一口に山賊、と言ってもその規模や強さ、厄介さは一味によって違う。

厄介な一味ともなれば自分達が捕まらないようにあらゆるところから情報を集めているものである。

魔法騎士団の仕事の中では山賊を相手にすることも何度かあり、それらのことを経験として知っていたマークには目の前にいる山賊達がそれほど脅威とは思えなかった。


「よし、ここからは俺の仕事だ。レオンはこの門の前で逃げてきた連中を眠らせてくれ」


マークは対人用の剣を右手に構え、左手で火の魔法を構築し始めた。


「何するの?」


隠密でひっそりと制圧するのだと思っていたマークは少し驚いて質問する。

火の魔法は光も出るし音も大きく、隠密行動には向かない。



「こういう時の制圧方法にはいくつかやり方があってな。一番手っ取り早く終わらせる方法だよ」


マークはそう言ってニカっと笑う。
それからレオンに向けて


「今度山賊に家を上げるときには気をつけろよ。出口は複数作っとくべきだ」


と言うと門の中に走って入って行った。


マークが門の中に入ってすぐ、爆音が鳴り火柱が上がる。


それと同時に悲鳴のようなものが聞こえて、静かだった砦の中が一斉に騒がしくなった。


レオンは言われた通りに門の前で待ちながら、騒ぎの様子を観察していた。


最初に上がった火柱は間違いなくマークの魔法だろう。

せっかくバレずに砦の正面を制圧したというのに、その後の派手な戦い方は敵に自分の位置を知らせているようなものだった。


砦の中から聞こえる山賊達の声は


「侵入者だ! 生かして返すな!」


と殺気立っている。


しかし、その声に変化が訪れるのは早かった。


声はすぐに


「魔法使いだ! 手強いぞ」


「ええい、早くあいつを倒せ!」


という若干焦ったものに変わっていき、そこからさらに



「ダメだ、化け物だ……」


「まずい、逃げろ!」


という弱腰のものになっていった。


それでもマークの魔法の大きな音は止まず、砦の奥の方から徐々に門へと近づいてきていた。


それと同時に騒々しい声と逃げる足音も門まで近づいてくる。


「なるほど……」


レオンは納得した様子で魔法を唱える。

発動した「催眠」の魔法は門まで逃げてきた山賊達を一網打尽に、次々と眠らせていった。


「……化け物ども……」


最後に残った一人の男がそう言い残して眠りについた後、砦の中からマークが姿を現した。


剣を腰に収め、悠々と歩いてくるマークには傷一つついていないようだ。


「見ろ、作戦は大成功。俺が猟犬で、お前が狩人だ」


マークは得意気に言った。

わざわざ派手な魔法を使ったのは猟犬のように相手を追い立てるためだった。

砦には出口が正面の門しかないため、逃げた山賊達は自然に門に向かう。

そこで、狩人役となったレオンが眠らせることで一網打尽にしたというわけだった。

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