上 下
173 / 305
二つの国編

345

しおりを挟む

六日後、レオンはヒースクリフに言われた予定通りに南部の港町ザオを訪れていた。


「ハートフィリア卿、ようこそ」


「お世話になります」


レオンがザオに到着するとザオの領主である貴族のゼントレンという男が出迎える。

恰幅の良い大柄な男だった。服装はあまり派手派手しくなく、貴族というよりも商人のような印象を受ける。

レオンはこのゼントレンという男と面識はなかったが、出迎えた時のゼントレンの笑顔に悪い印象は持たなかった。


レオンはこのザオに一日滞在し、翌日にくる二国の使者を出迎える手筈である。


護衛係として指揮を任されたマークも既にザオに到着していて、レオンがザオの港を訪れた時には魔法騎士団の団員に何やら指示を飛ばしているところだった。


「マーク!」


レオンが声をかけるとマークは振り向く。


「レオン、来たか」


マークはそう言ってレオンに近づき、間近でレオンの姿を見て思わず笑いそうになった。

特段変な格好などしていない。
貴族にとっては正装と言える。

しかし、レオンが使者を出迎えるために恥ずかしくない程度で用意した貴族の服装はあまりにもレオンに似合っていなかったのだ。


「言いたいことはわかってる……でも言わないで」


マークの態度を見てレオンも不服そうにそう言った。


「いやいや、似合ってるぜ。ちょっと意外だったからびっくりしただけだ」


マークは慌てて取り繕うがもう遅い。
というよりも服装に納得がいっていないのはレオンも同じだった。


「仕方ないじゃないか。ヒースには失礼がないようにって十分に言われてるし、貴族が泥だらけのローブで来るわけにもいかないんだから」


立場に相応しい格好をすることの重要性は先日オードの家を訪ねた時に学んだものだった。


そのため、ヒースクリフに今回のことを伝えられてすぐにレオンは商人であるクエンティンを頼り、今着ている貴族用の服を取り寄せたのである。


「ハートフィリア卿、マーク殿。旅の疲れもあるでしょうし、よろしければ私の屋敷でお茶でもどうです」


二人が和気藹々と話しているとその様子を見ていたゼントレンからそんな誘いがあった。

このザオの街に来るのにレオンは転移の魔法を使っていない。

二国の使者を出迎えるのに相応の人数を雇っていたし、クルザナシュからザオまでの陸路を下見したかったからである。


クルザナシュからザオまでは普通の馬車を使っておよそ二日の道程のため、ゼントレンは気を遣ったのである。


レオンはこの申し出を受け入れて、マークと二人でゼントレンの家へと向かった。


そこは海沿いから少し丘を登ったところにある、街を一望できる一軒家だった。


ゼントレンに出迎えられるままに中に入ってすぐ、レオンはその家に使用人が一人しかいないことに気がついた。


「あまり貴族らしい生活は好きではなくてね。こう見えて海で漁もするし、身の回りのことは極力自分でしたいタイプなんですよ。この子も、使用人というよりも家族みたいなものです」


ゼントレンがそう言うと、まだ少し幼さの残る使用人の少年はペコリとお辞儀をした。


それから三人分のお茶を慣れない手付きで注ぎ


「もういいから外で遊んできなさい」


とゼントレンに言われて笑顔で出ていく。

その一連の流れを見てレオンは正直驚いていた。

この国にそう言う考え方の貴族がいるとは思っていなかったのだ。


「さぁ、どうぞ。ザオの海で採れた海藻のお茶です」


レオンがお茶を一口飲むと、磯の香りとほんのりと塩気のある味が口の中に広がった。


「おいしい」


その味に素直に感心して、それからゼントレンという人物をもっと知りたいとレオンは思うのだった。
しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。