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二つの国編
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しおりを挟む六日後、レオンはヒースクリフに言われた予定通りに南部の港町ザオを訪れていた。
「ハートフィリア卿、ようこそ」
「お世話になります」
レオンがザオに到着するとザオの領主である貴族のゼントレンという男が出迎える。
恰幅の良い大柄な男だった。服装はあまり派手派手しくなく、貴族というよりも商人のような印象を受ける。
レオンはこのゼントレンという男と面識はなかったが、出迎えた時のゼントレンの笑顔に悪い印象は持たなかった。
レオンはこのザオに一日滞在し、翌日にくる二国の使者を出迎える手筈である。
護衛係として指揮を任されたマークも既にザオに到着していて、レオンがザオの港を訪れた時には魔法騎士団の団員に何やら指示を飛ばしているところだった。
「マーク!」
レオンが声をかけるとマークは振り向く。
「レオン、来たか」
マークはそう言ってレオンに近づき、間近でレオンの姿を見て思わず笑いそうになった。
特段変な格好などしていない。
貴族にとっては正装と言える。
しかし、レオンが使者を出迎えるために恥ずかしくない程度で用意した貴族の服装はあまりにもレオンに似合っていなかったのだ。
「言いたいことはわかってる……でも言わないで」
マークの態度を見てレオンも不服そうにそう言った。
「いやいや、似合ってるぜ。ちょっと意外だったからびっくりしただけだ」
マークは慌てて取り繕うがもう遅い。
というよりも服装に納得がいっていないのはレオンも同じだった。
「仕方ないじゃないか。ヒースには失礼がないようにって十分に言われてるし、貴族が泥だらけのローブで来るわけにもいかないんだから」
立場に相応しい格好をすることの重要性は先日オードの家を訪ねた時に学んだものだった。
そのため、ヒースクリフに今回のことを伝えられてすぐにレオンは商人であるクエンティンを頼り、今着ている貴族用の服を取り寄せたのである。
「ハートフィリア卿、マーク殿。旅の疲れもあるでしょうし、よろしければ私の屋敷でお茶でもどうです」
二人が和気藹々と話しているとその様子を見ていたゼントレンからそんな誘いがあった。
このザオの街に来るのにレオンは転移の魔法を使っていない。
二国の使者を出迎えるのに相応の人数を雇っていたし、クルザナシュからザオまでの陸路を下見したかったからである。
クルザナシュからザオまでは普通の馬車を使っておよそ二日の道程のため、ゼントレンは気を遣ったのである。
レオンはこの申し出を受け入れて、マークと二人でゼントレンの家へと向かった。
そこは海沿いから少し丘を登ったところにある、街を一望できる一軒家だった。
ゼントレンに出迎えられるままに中に入ってすぐ、レオンはその家に使用人が一人しかいないことに気がついた。
「あまり貴族らしい生活は好きではなくてね。こう見えて海で漁もするし、身の回りのことは極力自分でしたいタイプなんですよ。この子も、使用人というよりも家族みたいなものです」
ゼントレンがそう言うと、まだ少し幼さの残る使用人の少年はペコリとお辞儀をした。
それから三人分のお茶を慣れない手付きで注ぎ
「もういいから外で遊んできなさい」
とゼントレンに言われて笑顔で出ていく。
その一連の流れを見てレオンは正直驚いていた。
この国にそう言う考え方の貴族がいるとは思っていなかったのだ。
「さぁ、どうぞ。ザオの海で採れた海藻のお茶です」
レオンがお茶を一口飲むと、磯の香りとほんのりと塩気のある味が口の中に広がった。
「おいしい」
その味に素直に感心して、それからゼントレンという人物をもっと知りたいとレオンは思うのだった。
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