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人魔都市編
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しおりを挟む騒動から数週間が経過した。
クエンティンによって派遣されたライル達によって、クルザナシュは一応の街と呼べる程度には開拓が進んでいる。
その大きな要因として、ライルは魔法を使える作業者を数人連れてきたいた。
レオンが力を使わなくとも魔法で効率的に開拓ができるようになり、建築は加速していったのである。
レオンの心配していた悪魔と人間の衝突も、あの騒動以来一度も起こっていなかった。
悪魔も人も、お互い関わろうとしなかったためだ。
ライル達新しく来た人間はレオンに言われた通り悪魔に近づくのを避けていたし、悪魔達も地下に篭り気味になり人間と接触することはなかった。
地下では現在、ディーレインが主導して魔界に住む悪魔達をこちらに呼ぶ準備をしているため外に出て人間達と交流する時間的余裕などなかったのである。
レオンもまた、この数週間で加速度的に忙しくなったために双方の様子に気づいていながらも手を回す余裕がなくなっていた。
そんなレオンは今、自宅の部屋の中で書類仕事に追われていた。
クルザナシュに建てられたレオンの新居はライル達が造ったものである。
その一室には大きな鏡が取り付けられていて、その向かいにはレオンの机と椅子がある。
そこに座ったレオンは王都から届いた書類に目を通しては、貴族になった時にヒースクリフから受け取った印鑑を押すといった作業を繰り返していた。
書類の主な内容はクルザナシュに住む新たな住人達の者で、その一つ一つを確認しなくてはならない。
「そうか、それは大変だったね……いや、すまなかった。彼は技術や発想は秀でてるんだけど、こうと決めると周りが見えなくなる悪い癖があるんだ」
書類仕事をしているレオンに、目の前に置かれた大鏡が話しかける。
鏡自体が喋っているわけではなく、話しかけたのはその鏡に映し出された人物だった。
クエンティンだ。
その鏡はクエンティンが作成した魔道具の試作品だった。
対となる二枚の鏡は姿を映した者同士の会話を可能にする。
実際のクエンティンは今王都にいるのだが、クルザナシュにいるレオンと魔道具を通して会話をしているというわけだ。
レオンはその魔道具を使って、クエンティンに数週間前の騒動を報告したところだった。
クエンティンは少し笑い、それから少し申し訳なさそうにしてレオンに謝罪をした。
クエンティンはライル達にがっかりした様子はなかった。
「その後の彼らの仕事ぶりはどうだい? もしもダメならこっちに送り返してくれてもいい」
そういうクエンティンにレオンは悩むことはなく、「その必要はない」と答えた。
最初の行動がどうであったにしろ、彼らはいまよくやってると言えるだけの働きをしている。
レオンがこうして書類作業に没頭できるのも彼らが街の建設に尽力しているからだった。
「そうか、それじゃあまた何かあったら知らせてくれ。……ああ、それと新しくクルザナシュに向かう人達の資料はもう見たかい?」
「……今まさに見てます」
「だと思った。大抵は王都で住む場所を亡くした人達。後は希望者が何人か。そちらの準備ができ次第、送っていくからね。早いところ頼むよ」
クエンティンはそう言うと半ば強引に連絡を遮断した。
鏡は普通の鏡に戻り、作業をするレオンの姿が映し出される。
ヒースクリフが王になって以来、クエンティンはただの商人ではなくなった。
もともと人望の厚い彼は王都での様々な活動に手を伸ばし始め、ヒースクリフから直接指示を受けて行動することも増えたようだ。
クルザナシュへ移住する住人達の選定をしたのも彼だった。
そのため彼は今王国内で最も忙しい人物だと言っても過言ではないだろう。
その忙しい中でも、自分に目をかけてくれるクエンティンに感謝しながらレオンは終わりの見えない書類のページをめくった。
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