上 下
162 / 305
人魔都市編

334

しおりを挟む

騒動から数週間が経過した。
クエンティンによって派遣されたライル達によって、クルザナシュは一応の街と呼べる程度には開拓が進んでいる。

その大きな要因として、ライルは魔法を使える作業者を数人連れてきたいた。

レオンが力を使わなくとも魔法で効率的に開拓ができるようになり、建築は加速していったのである。

レオンの心配していた悪魔と人間の衝突も、あの騒動以来一度も起こっていなかった。

悪魔も人も、お互い関わろうとしなかったためだ。

ライル達新しく来た人間はレオンに言われた通り悪魔に近づくのを避けていたし、悪魔達も地下に篭り気味になり人間と接触することはなかった。

地下では現在、ディーレインが主導して魔界に住む悪魔達をこちらに呼ぶ準備をしているため外に出て人間達と交流する時間的余裕などなかったのである。


レオンもまた、この数週間で加速度的に忙しくなったために双方の様子に気づいていながらも手を回す余裕がなくなっていた。


そんなレオンは今、自宅の部屋の中で書類仕事に追われていた。


クルザナシュに建てられたレオンの新居はライル達が造ったものである。

その一室には大きな鏡が取り付けられていて、その向かいにはレオンの机と椅子がある。

そこに座ったレオンは王都から届いた書類に目を通しては、貴族になった時にヒースクリフから受け取った印鑑を押すといった作業を繰り返していた。


書類の主な内容はクルザナシュに住む新たな住人達の者で、その一つ一つを確認しなくてはならない。


「そうか、それは大変だったね……いや、すまなかった。彼は技術や発想は秀でてるんだけど、こうと決めると周りが見えなくなる悪い癖があるんだ」


書類仕事をしているレオンに、目の前に置かれた大鏡が話しかける。

鏡自体が喋っているわけではなく、話しかけたのはその鏡に映し出された人物だった。

クエンティンだ。

その鏡はクエンティンが作成した魔道具の試作品だった。

対となる二枚の鏡は姿を映した者同士の会話を可能にする。

実際のクエンティンは今王都にいるのだが、クルザナシュにいるレオンと魔道具を通して会話をしているというわけだ。


レオンはその魔道具を使って、クエンティンに数週間前の騒動を報告したところだった。

クエンティンは少し笑い、それから少し申し訳なさそうにしてレオンに謝罪をした。

クエンティンはライル達にがっかりした様子はなかった。


「その後の彼らの仕事ぶりはどうだい? もしもダメならこっちに送り返してくれてもいい」


そういうクエンティンにレオンは悩むことはなく、「その必要はない」と答えた。


最初の行動がどうであったにしろ、彼らはいまよくやってると言えるだけの働きをしている。

レオンがこうして書類作業に没頭できるのも彼らが街の建設に尽力しているからだった。


「そうか、それじゃあまた何かあったら知らせてくれ。……ああ、それと新しくクルザナシュに向かう人達の資料はもう見たかい?」


「……今まさに見てます」


「だと思った。大抵は王都で住む場所を亡くした人達。後は希望者が何人か。そちらの準備ができ次第、送っていくからね。早いところ頼むよ」


クエンティンはそう言うと半ば強引に連絡を遮断した。

鏡は普通の鏡に戻り、作業をするレオンの姿が映し出される。


ヒースクリフが王になって以来、クエンティンはただの商人ではなくなった。

もともと人望の厚い彼は王都での様々な活動に手を伸ばし始め、ヒースクリフから直接指示を受けて行動することも増えたようだ。


クルザナシュへ移住する住人達の選定をしたのも彼だった。

そのため彼は今王国内で最も忙しい人物だと言っても過言ではないだろう。


その忙しい中でも、自分に目をかけてくれるクエンティンに感謝しながらレオンは終わりの見えない書類のページをめくった。
しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!

荒井竜馬
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。  赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。  アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。  その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。  そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。  街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。  しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。  魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。  フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。  ※ツギクルなどにも掲載しております。

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。