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人魔都市編
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しおりを挟むオードの屋敷を後にしようとレオンが玄関を出ると、庭先に女性が一人いるのに気がついた。
どうやら花に水をあげているようで、彼女の振る杖の先から水流がアーチを描いている。
「やぁ、ニーナ」
レオンが声をかけるとその女性……ニーナは振り向き、レオンの顔を見て微笑んだ。
「あら、レオン。来ていたの」
彼女、ニーナ・マグナガルもレオンの学院時代からの友である。
元々はレイン家という貴族家の長女として生まれたニーナは学院を卒業後、オードと結婚し今はそのお腹に新たな命を宿している。
「調子はどうだい?」
レオンがそう聞くと、ニーナは自身の膨らんだお腹を愛おしそうにさすりながら答える。
「最近はよく動くようになったの。話しかけるとお腹を蹴るのよ」
そう言って幸せそうに笑う彼女はレオンの知らない母親の顔をしていた。
「生まれたらお祝いをするんだって?」
「ええ、私達時期が時期だったから結婚した時も派手なお祝いはできなかったから……この子が生まれたら盛大にやろうと思って」
ニーナとオードが結婚したのはアーサー派とヒースクリフ派の間に亀裂が入り、いつ戦いが起こってもおかしくないといったそんな時期だった。
そのため二人は婚約したことを公にはせず、オードは妊娠したニーナを国外に逃していた。
「それはいいね。僕も必ず出席するよ」
「ええ、是非来てね! レオンがいないと私達には意味がないんだから」
二人がそんな話をしていると、玄関先からオードが顔を出す。
「ニーナ、水くらい僕があげるのに……あまり無理しちゃだめだよ」
「あら、このくらい平気よ。それに、この花達は私の宝物なんだから、楽しみを奪うのはやめてよね」
オードはニーナの体を気遣うが、ニーナは笑っている。
そういえば、学院時代に植物に最も詳しかったのはニーナだったなとレオンは思い出した。
オードも頭は良い方だったと記憶しているが、それは魔法全般に関してのこと。
一般植物や魔法植物に関してはニーナの方が詳しかった。
しかし、その関係はオードとニーナの仲が深まるにつれて変わっていく。
ニーナに惹かれていたオードは彼女の愛する植物学にも興味を持ち、徐々に知識を深めていき、次第にニーナと肩を並べるまでになったのだった。
とはいえ、オード家の庭先に植えてある花は全てニーナが管理しているらしい。
オードはニーナの体調面を考えその世話を申し出るのだが、それらはニーナの楽しみにもなっていてニーナはオードの申し出を断り続けるのだった。
レオンは二人が本当に幸せそうに話しているのを見て、前の戦いで勝てて良かったと思った。
仲間のこの笑顔を守れたのだと。
それは本心のようでもあったが、まるで自分自身にそう言い聞かせているようでもあった。
「あ、レオン。よければ学院に一度顔を出しておくといい。グラント先生や学院長も会いたがっていた」
帰り際、思い出したようにオードが告げる。
その言葉にレオンは笑みを浮かべて返す。
「わかった。この後寄ってみるよ」
オード家を後にしたレオンはその足で学院のある商店通りの方へと向かった。
行き交う人々は以前と変わらないように見える。
声を張り上げ、自分の店の品を売ろうとしている者。
速い時間から酔っ払い大通りを横に並んで歩く学院のローブを着た若者たち。
夕飯の食材を買いに来た親子。
平凡な日常のように見えるが、よく見るとそれは明らかに以前とは違った。
建物にはヒビ割れが目立ち、住人達の顔には時折不安の色が差す。
当事者であるレオンにはその意味がよくわかった。
新たな王を迎えて一見すると平和に落ち着いたように見える王国だが、実際はまだまだその途中なのだ。
住人達はまたいつ始まるかもわからない戦いに怯え、新たな国の体制に怯え、それらを隠しながら明るく振る舞っているようにレオンには見えたのだった。
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