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新たな国編

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王都の商店通り。とある居酒屋。

この日はレオンにとって馴染みの深い者達が集まっていた。


「まさかレオンが貴族になるなんて……よかったな、レオン」


決して度数の高くない果実酒を飲みながら、顔を真っ赤にしたマークが感慨深そうに言う。


「でも、マークだって大活躍だったんだから貴族の位を貰ったっていいはずだよ」


皆に「おめでとう」と言われるのがなんだか気恥ずかしくて、レオンはそんな風に話を変えようとしたが、これは本心であった。

魔法使いが貴族に選ばれるためには相応の成果をあげなければならない。

その点で言えば今回の戦いでマークは十分に活躍したと言えるだろう。

しかし、マークは首を横に振った。


「いいんだ、俺は貴族とかそういうのには興味ないの。俺はいつかどっか田舎に引っ越して魔導剣技の道場を開くんだ」


嬉しそうに先の未来を語るマークを見てレオンはくすりと笑う。


「……でも、本当に良かったです。皆が無事で……私、何もできなくて……」


そう言って涙ぐんでいるのは学院時代のレオンのクラスメイト、ニーナである。


オードによって他国に逃がされていたニーナは二日前に帰国したばかりだった。

そのお腹は大きく膨らんでおり、その中にはオードとニーナの子供の命が宿っている。


「何言ってるのよ。ニーナは今大事な時なんだから、無理しちゃダメなの」


そう言ってニーナのお腹を撫でるルイズはマークと同じくらいには酔っている。

ニーナの隣に座るオードは恥ずかしさなのか、酔いのせいなのかわからない程度には顔が赤い。


ガラン、という外口の鈴が音を鳴らし客が来店したことを知らせる。

陽気な店員の声が段々と近づいてきて、レオン達の席に案内をした。


「なんだ……もう随分と出来上がってるな」


現れたダレンは締まりのない顔で惚けている面々を見て半ば呆れた声で言った。


「おっ、来たな! 魔導騎士団の新団長様が!」


ダレンを見て突然テンションの上がったマークが席を立ち、ダレンにしがみつく。

ダレンは鬱陶しそうにマークを椅子に座らせると自分もその横に腰をかけた。


「ばか、新団長じゃない。団長代理だ。ミハイル団長が回復するまでの繋ぎだよ」


魔法騎士団長のミハイル・ローニンは今回の戦いには不参加だった。

その理由は単純で、アーサーによって早々に捕らえられ王宮の地下牢とは別の場所に監禁されていたのだ。

ミハイルの力を疎んだアーサーにより、相当に痛めつけられたらしい。

戦いが終わり、ダレンが発見した時にはミハイルは相当に衰弱していた。

そのため、今は治療と休養が必要でありその間の魔法騎士団の指揮権がダレンに与えられたのである。


「ダレン、ヒースはやっぱり来られないのかい?」


頼んだ蜂蜜酒をほとんど一息で飲み干したダレンに驚きつつ、レオンが聞く。


「ああ、あいつは今、一国の王だからな。そうやすやすと出歩ける立場じゃないんだ」


ダレンの言葉にレオンは少し残念そうな顔をした。


「お前は? この後どうするんだ?」


今度はダレンがレオンに聞く。


「そうだね、貴族になったけどまだ領地とかは決まってないし、しばらくはこの街にいないと」


寂しそうに言うレオン。
その会話にマークが割って入る。


「バカ、お前には真っ先にやることがあるだろうが」


マークは少し興奮した様子だった。





翌る日の朝、レオンは少し痛む頭を抑えながら目を覚ました。

というよりも、マークに起こされたのだ。


「行くぞ、レオン」


そう言って腕を引っ張られ、連れて行かれたのは王宮の側に立つ屋敷だった。

街の復興と共に新設されたその屋敷には今回の戦いで重要だった者達が一時的に住んでいる。


マークはその屋敷の扉を叩く。
すると、中から一人の女性が現れた。


「来たか、早速始めるか?」


マークとの間で既に話はついていたらしい。戸惑うことなくそう聞いたのはア・シュドラであった。


「お前達、少し酒臭いな……目を瞑っておけ、酔うぞ」


シュドラはそう言うと魔法を構築し始める。

何のことかわからないレオンだったが、言われるままに目を閉じた。

ふわりと体が浮かび上がったような気がした。

その次に聞こえたのは流れる小川の音と、小鳥の囀り。

レオンにとって何だか懐かしい音だった。

レオンはそっと目を開ける。

見慣れた光景が目に入る。見慣れてはいるが、一番見たかった景色でもある。

古びた小屋に、広いとは言えない庭。
何も変わっていない。

箒を持って庭で掃除をしていた少年が顔を上げる。

レオンと目があった。

少年は初めに目を見開き、手に持っていた箒を思わず落とした。

ゆっくりと一歩ずつレオンに近づいてきて、やがてそれは早足になり、最後には走っていた。


「兄さん!」


目に涙を浮かべたマルクスがレオンに飛びつき、レオンもまた目に涙を浮かべてマルクスを抱きしめるのだった。
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