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悪魔と人編
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しおりを挟む魔導人形は手も足も出せずにいた。
ドリスの能力で出現した燃える岩はレオンの魔力によって強化され、ドリス本人が使うよりも威力が高い。
加えてシュドラの能力によって手に入れた機動力は魔導人形を一人で撹乱できるだけのものであった。
魔導人形の魔力障壁がバリバリと音を立てて剥がれ始める。
周りにいた街の人々は逃げるのも忘れて戦いを見守っていた。
そのうちの一人がこんなことを言った。
「あれは……五年前にヒースクリフ様が倒した悪魔じゃないのか?」
そう言った男は五年前に王都上空で繰り広げられたレオンとヒースクリフの嘘の戦いを見ていたのだ。
戦うレオンの姿はあの時と同じ。
男はそれを思い出したのだった。
その声をきっかけに人々に動揺の声が上がり出した。
「ほんとだ……あの時の悪魔だ」
「なんで悪魔が……」
戸惑うようなその声は人々に伝播する。
明らかに自分達を害そうとした巨大な兵器。
それを止めてくれたのは敵であるはずの悪魔だった。
その事実に誰もが狼狽えた。
そんな中、一人の女性は違うことを言った。
「頑張って……お願い、この街を助けて」
腕の中にまだ幼い少年を抱く女性は先ほどの母親だった。
母親の近くにいた男が彼女を咎める。
「やめなさい、悪魔を応援するなんて……」
「いいえ……やめません。彼が悪魔であろうと、私たちを救ってくれた事実に変わりはないはず。命の恩人を応援している何が悪いのですか」
母親は強く、真っ直ぐな目をしていた。
死を直前に迎え、絶望しかけたその時に現れたレオン。
その姿は母親に希望を与えたのだ。
母親のその声に影響されてか、動揺していた人々の声は次第にレオンを応援するものに変わっていく。
「頼む、お願いだ、アイツを倒してくれ!」
「あんただけが頼りなんだ! 頼む!」
それはあまりにも都合のいい言葉だっただろう。
先程まで敵とみなしていながら、自分達の命を守るために縋り付く言葉だったのだから。
しかし、その言葉は確実にレオンに届いていた。
その言葉達がどんな思いで発されたのかはレオンにはあまり関係ない。
重要なのは彼らがレオンを「悪魔」と認識していながらも「応援」していることだった。
「シュドラ、ドリス、ダルブ……君達には彼らがどう映る? 憐れで滑稽に見えるかい? でも、僕には違うように見える。彼らのほとんどは君達悪魔のことをよく知らないだけなんだ。ここにいる人達が僕を応援してくれているこの光景は、僕にとって悪魔と人間が手を取り生きていく未来の最初の一歩なんだ」
レオンの言葉に三人の悪魔は敢えて返事をしなかった。
ただ、レオンの中から逃げずに応援を続ける人間達を見ていた。
グオオオオオオオと叫び声のような音が鳴る。
魔導人形の周りにあった魔力障壁が全てなくなった。
レオンが削り切ったわけではない。
魔導人形が自ら障壁を取り除いたのだ。
その理由は何か、それは魔力障壁分の魔力を吸収するためである。
魔力を供給する術がなくなった魔導人形は残された魔力で暴れることをプログラムされている。
そのため弱い人間を優先的に狙うような仕組まれていたのだが、最後に一つ残された機能があった。
それは行動を邪魔した者とその周囲の人間を最大限に害する機能。「自爆」である。
魔導人形の体が青く光出した。
「奴の中に魔力が集まり出している。このままでは爆発するぞ」
頭の中で響くシュドラの警告にレオンは頷いた。
状況がやばいことは見ればわかる。
問題はどう処理するか。
「シュドラ、君の能力でアイツをどこか人のいないところに運ぶのは可能?」
レオンの問いにシュドラは難色を示した。
「できるが、私の能力は運ぶものの大きさによって使用する魔力が違う。あんな大きなものを運んだら今のお前の魔力ではギリギリだ。運んだ後、戻って来れずにお前だけ爆発を喰らうことになる」
レオンが一人だけだったらこの作戦をすぐにでも実効していただろう。
他の人を助けられるなら、レオンは自分の犠牲など厭わない。
しかし、今は違う。
レオンの体の中には三人の悪魔がいるのだ。
彼らに共に犠牲になってもらおうと言う気はレオンにはなかった。
「それじゃあ、どうすれば……」
悩むレオン。その解決策は三人の悪魔が導き出してくれた。
「気のせいかと思ったが、あの人形……体内の魔力が流れるように循環しているな」
「そうだね、それに流れた魔力が加速するところがあるよ」
「あの流れ……人間の血液のようなものか。だとすると……」
ダルブ、ドリス、シュドラの三人は直接戦ったことにより、魔導人形の魔力をより鮮明に感じ取れるようになっていた。
それによると魔導人形の中の魔力は全身を循環しているとわかる。
左胸を中心に流れ出た魔力は腕から足先をまでを経由してからまた左胸へと戻っているのだ。
その流れは人間の血液の循環と同じだった。
「つまり……あそこにあるのは心臓?」
閃いたレオン。
魔導人形の体はすでに爆発するには十分なほどの魔力をためていた。
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