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二人の王子中編
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しおりを挟む王都の戦い。
マーク対ア・ダルブ。
ダルブの生み出した魔弾をマークは剣で弾き飛ばした。
ガギンという鈍い音がして弾かれた魔弾がマークの斜め前の建物の屋根をかすめて空に消えていく。
魔弾が当たった部分はそこだけくり抜いたかのように消滅していた。
二人の立つ王都の大通りはすでにボロボロだった。
それだけ二人の戦いが壮絶だということだ。
マークとしてはできるだけ建物に被害を出さないようにしたかったのだが、相手は人間よりも遥かに強大な魔力を有する悪魔だ。思うようにはいかない。
「茶番だな」
ダルブの魔法を防ぐので精一杯のマークは苦しそうに息を吐く。
そんなマークにダルブが言った。
「あ? 何がだ」
「この戦いの全てだ。一向に攻めてこないお前も、見え見えのお前の演技もな」
ダルブのその言葉にマークは「バレてたか」と呟いた。
今の今まで辛そうに吐いていた息を整え、平然と構えてみせる。
ヒースクリフ派の魔法使い、特に悪魔達と戦闘することになったマーク達の目的は「時間稼ぎ」である。
レオンがディーレインを説得し協力を取り付けるまでの間、他の悪魔達が近づけないように戦闘して足止めをするのだ。
しかも、レオンの希望でマーク達は悪魔を殺さないように配慮していた。
作戦が成功しレオンとディーレインが手を取り合えばこれからは悪魔との共存の時代になる。
禍根の残るようなことはできるだけしたくない。
だからマークはダルブの攻撃をただ受けた。
こちらには反撃する余裕もない。ただしぶとくて長引いているだけだという風を装って。
しかし、それがダルブにはすっかり見抜かれていて「茶番だ」と言われたわけである。
「お前が普通の人間よりも強者であるというのは認めてやろう。精霊の力……大したものだ。だが、まだ手の内を隠しているだろう」
ダルブは嬉しそうだった。
悪魔という種族は元々好戦的な一族だ。とはいえ、性格は千差万別。戦いを好まない個も存在する。
しかし、このダルブは戦闘、力、強者を好む。
悪魔の血が最も反映された個体だった。
さらに言えばダルブはこの数百年まともに戦っていない。
悪魔同士の戦争が終わってから、悪魔は争いよりも主の存続のために人間界に移る方法を模索し続けていたのだから。
そして、五年前ようやく戦えるはずだった王都の強襲では覚醒したレオンにあっさりと負けてしまった。
そんなダルブにとってマークの存在は久しく待ち侘びた強者だった。
体中の血が湧き立つ。
五年前は慣れない人間の体に戸惑い、大した力も出せなかった。
しかし今は違う。
ディーレインの同族、シドルト族の八魔部隊。
ダルブが受肉したのはその中のリーダー格の男だった。
リーガンという名前の男だがダルブはその名を覚えてはいない。
ただ、その肉体が洗練されたものだというのはわかる。
よく鍛え上げられていて、魔力の操作性も悪くない。恐らく人間が鍛えられる最上級のレベルに達している。
この体ならば思う存分に戦えるとダルブは高揚した。
「さぁ行くぞ小僧。今からの俺はさっきまでとは違う。手を抜いているとあっという間にあの世だぞ!」
ダルブの筋肉が盛り上がった。
威圧感による目の錯覚ではない。
筋肉が膨張していた。
魔法の操作により自分自身に魔法かけたのだ。
常人ではあり得ないほどのパワー、スピードを手に入れられる魔法だった。
その代わりに使用者の肉体には多大な負荷がかかる。魔法だけを極めても使用不可能な技で、しっかりと肉体も磨き上げていたリーガンの体だからこそ成せる技だった。
「おいおい、やべぇな」
マークはすかさず剣を構える。
脇を締め、切先をダルブに向ける。
この後のダルブの行動は誰にでも予測がつくだろう。
魔法で強化された身体能力を活かして突っ込んでくる。
マークはそう予想した。
そして、予想通りにダルブは動き出した。
右の肩を突き出したタックル。
攻撃としてはシンプルだが、それ故に威力の高さがものを言う。
走り出したダルブの足元の地面は、ダルブが一歩踏み出すごとに沈み石で舗装された道が砕けて割れる。
そのままの速度で突っ込まれればマークはひとたまりもないだろう。
だからこそマークは切先をダルブに向けたのだ。
突っ込んでくるダルブの勢いを利用して、カウンターを決めようというのである。
殺さないようにだとかそんなのは二の次だった。
今はできる限りの最善の行動をしないと自分自身が死んでしまうのだから。
突っ込んできたダルブは決して止まることなくマークにぶつかった。
その瞬間マークは自分の目を疑った。
構えた剣をマークは決して動かさなかった。
怯んで逃げたわけでもない。
それなのに、ダルブにぶつかった途端に剣は弾き飛んだ。剣だけでなくマーク自身も。
剣は刺さらなかった。
強化されたダルブの肉体はまるで鋼のようだったのだ。
吹き飛ばされたマークは勢いを殺すこともできずに数十メートル吹っ飛び、商店の看板にぶつかってその場に倒れ込んだ。
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