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勇者、街に到着する
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しおりを挟むユクシムさんはちょうど一週間ほど前に自称神からの啓示を受けたらしい。
それは夢の中で真っ白な光景の中声だけが聞こえるという不思議なもので、この世界の人間ならばそれが神からの啓示だとすぐにわかる類のものらしい。
とにかく、その啓示でユクシムさんは「勇者の生まれ変わりが近いうちに生まれる。見つけて街まで案内するように」と頼まれていたらしい。
正確な日時が不明だったのは、勇者を異世界に送る際にどうしても時間にラグが発生してしまい正確な時間は神でさえもわからなくなってしまうからだそうだ。
おれは神に言われてすぐにこの世界に来たつもりでいたが、俺をこの世界に送り出してからその啓示を自称神が出したと考えると、実際には何日かの遅れがあったのは事実のようだ。
とにかく、ユクシムさんは神の啓示に従った。
とはいえ、正確な日時もわからなければ勇者の生まれる場所もわからない。
啓示がユクシムさんの元にきたことから、ユタムの街の近くに勇者が生まれるのは予測できたが、それがどこかまではわからなかったそうだ。
仕方なく、ユクシムさんは冒険者達を依頼と称して街の外に派遣してそれとなく勇者を探していたらしいのだ。
公にして大々的に探さなかったのは生まれてくる勇者に配慮したからだそうだ。これは本当にありがたかった。
ひっそりと勇者を探すためにユクシムさんは一部の冒険者を頼った。
それは、一般的には教会派と呼ばれている英雄信仰とは別の宗教団体出身の冒険者達である。
この教会派は簡単に言えば自称神を信仰しているらしく、啓示があればそれに従い、さらには啓示を受けた者にも協力する姿勢らしい。
そんなわけで、この教会派の冒険者がパーティーにいる者達はここ数日軒並み街周辺の依頼を受けさせられていたらしい。
そして、ハンクさん達のパーティーの中にも教会派出身の冒険者がいた。
リーリャさんである。
この話を聞いた時、ハンクさん達は俺と同じように驚いていた。
ユクシムさんは教会派の冒険者達に仲間に秘密にするような指示はしなかったらしいが、リーリャさんはハンクさん達に伝えていなかったらしい。
俺の正体とリーリャさんがユクシムさんから指令を受けていたことを同時に知ったハンクさん達が驚くのも無理はないだろう。
「おいリーリャ、何も聞いてないぞ」
と問い詰めるハンクさんに対し、リーリャさんは
「聞かれてないもの」
と淡々とお茶を啜っていた。
ハンクさんがため息を吐きながらもそれ以上何も言わなかったところを見ると、リーリャさんは普段から必要以上のことは伝えない主義の人らしい。
俺はリーリャさんが事あるごとに事細かに色々と教えてくれる謎が解けてホッとしていた。
俺の心の内を読んだかのようなタイミングだったのも俺が他の世界から来たことを知っていれば何となく理由がつく……か?
とにかく、俺は冒険者手帳を盗んだ盗人としてではなく。
また、勇者の格好をして勇者の名を語る痛いやつとしてでもなく、しっかりと勇者の生まれ変わりであることを認識してもらえてホッとしていた。
「なかなか勇者様が見つからなかった上に、ハル様が最初に冒険者証を再発行したことで受付が混乱してしまったようで、お騒がせして申し訳ない」
なるほど、妙に受付の女性が慌てていたのはそのためか。
勇者が来ると思っていたらそれっぽい格好をした人が来たのに「冒険者証の再発行」を依頼してきた。
なんだ別人かと思っていたのに、実はそいつが勇者だったとなれば少し慌てても納得できる。
そう考えると受付の女性には悪いことをした気がする。
後で謝りに行こう。
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