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勇者、街に到着する
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しおりを挟む換金した魔物の討伐金を分けると、ハンクさん達は一人頭五百ユル。
俺は倒した小鬼の分を入れて八百ユルであった。
ハンクさん達はそこに依頼されていた報酬の千ユルが加わり、一人千五百ユルの儲けだと言っていた。
五人で割ったオーガ討伐代が五百ユルだとして、何体か倒した小鬼が三百ユルだとすると、小鬼は相当に稼ぎの少ない相手らしい。
まぁ、俺にはユルとやらの価値がよくわからないのでなんともいえないのだが。
セーラさんによれば八百ユルあればとりあえず安い宿に二泊はできるとのことだ。
二泊か、と俺が微妙に思っているとハンクさんが俺の肩を叩きながら
「心配すんな、また明日にでも冒険に連れてってやるよ。そこで稼ごうぜ」
と励ましてくれる。
出会ってから何度も思ったが、本当にいい人である。
その話で思い出したかのようにセーラさんがポンと手を叩く。
「ハルさんの冒険者証を発行しておきましょう」
冒険者証といえば先程街の門の前で衛兵さんから聞いた身分証の中の一つである。
冒険者として一から登録すると試験やら何やらで時間がかかるが、再発行であればすぐにできるという。
「冒険者手帳を持っているんだから、ハルさんは冒険者登録されているはずです!」
と嬉しそうに言うセーラさんを前に俺はなんだか話が少しまずい方向に向かいはじめた気がしていた。
俺の体は生前の勇者の物を自称神が復元した物である。
その持ち物も、装備も全て生前に勇者が使っていた物だと考えられるわけだ。
当然冒険者手帳もその中の一つだろう。
ということは当然冒険者登録をしているのは勇者なわけで、俺がその冒険者証を再発行しようとすれば、俺がその勇者だということがバレてしまうわけだ。
正直に行って俺はまだ自分が勇者だと公にするかどうかで決めかねていた。
自称神に言われた通りに貴族と親しくするためには明かした方がいいのだろう。
それを考えればここでバレるのは都合がいいのだろう。
しかし、先にも述べた不安要素がある。
俺が勇者だとバレたとして、問題なのはその肩書きにおれの実力が伴っていないことである。
勇者だとバレて、周りの人にもてはやされ知らぬ間に圧倒的な強さの敵を倒してくれてと依頼されたらどうしよう。
待っているのは完膚なきまでの敗北とそれに伴う死である。
それを考えるとやはり今すぐに勇者だと明かすことは不安でしかない。
とはいえ、おれが考え込んでいるうちにも話はどんどんと進んでいる。
気がつけば、俺は断る理由も思いつかないまま冒険者ギルドの受付の前へと連れてこられいた。
「ハル様ですね。冒険者証の再発行ということで、承ります。恐れ入りますが、レベルの方を教えていただけますか」
受付の女性が淡々と事務的に質問してくる。
なるほど、名前とレベルで冒険者を検索する魔法か何かがあるようだ。
あれ、ということは名前とレベルが一致していない俺が勇者だとはバレないわけか。
魔王を倒す直前まで行った勇者がまさかレベル1だったわけはあるまいし、ここは素直にレベルを言ってみよう。
それでもしいなければ、理由はわからないけど冒険者手帳は持っていたということにしてもう一度冒険者登録できるか聞いてみようではないか。
と俺の中で考えがまとまり、俺は意気揚々と
「はい、名前はハルで、レベルは1です!」
と答えた。
すると、受付の女性の表情は一瞬で曇り返ってきた言葉は
「はい?」
という不可解そうな言葉だった。
その女性の言葉と表情を見て、俺は自分が何か大切なことを見落として、大事なところで道を誤ったのだと悟ったが、それは今更気がついてももう遅い出来事であった。
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