燃える船

おかゆ

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第二章

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二章

ゆらり、ゆらりと海に流し流され、目的地に向かう漂流の旅の途中。
- とある月夜の晩、二人はお互いの船を横に並べて止め、甲板に寝そべってミーナが月を眺めていると、同じく甲板に出てきたジョンがこんなことを聞いてきた。

「気になってたんだけどさ、君っていつも大量に魚を取ってくるけど、あれってどうやって獲ってるの?」

「海に潜って、モリで突くのよ」

「え、網じゃなくて、潜ってたの!?」

「ええ。網をかけておけば、確かに引っかかることもあるけれど、かからないこともあるでしょ。こんなちいさな船だと網を仕掛けて引き上げる作業ってなかなか大変なの。それに、そうまでして期待をかけていざ網を引き上げた時、一匹も魚がかかってなかったらどうするの?そんな賭けごとのようなこと毎度毎度やってらんないわ。そんなことするより、日が高いうちにさっさと潜って、直に仕留めたほうが確実でしょ」


「それは、そうだけどあまり泳ぎは得意じゃないんだ。君は誰かに教わったの?」

「教わったことはないわ。というか、あなたに言われるまで、あまり意識したこともなかったわね」
「え、でもそれじゃあ、どうやってるの?」
「どうやってと言われても、本当にただ潜って、仕留めるだけで....適当よ」
「適当だって?それで魚をいつもあんなにごっそり捕まえてくるなんて、信じられないや」ジョンは驚きの表情を浮かべた後、けらけら笑いながら言った。

「人を野生児みたいに!あなただって出来るでしょ」
「ミーナ、ぼくとの出会いを忘れた?君みたいにごっそり魚を捕らえられるようなら、あんな餓死寸前になんてなってないよ」

「それもそうね。じゃあ、ジョンは今までどうしてたの?」

「これを使うのさ」と言って、指で丸をつくってお金のポーズをとって見せる。
「でも、商人にはいつでも出会えるわけじゃなくて、一日に何度も商人の船とすれ違う時もあれば一度も見かけない日だってあるんだよね」

「ええ、しかも必要な時に限って、なかなか巡り合えなかったりするもんなのよねえ...」

「そう!まさにあの時はついてなかったなあ。何日も商人と出会えなくて、気がついたらふらふらして。もう死ぬかと思ったんだから。でも、ミーナ、もしあれが君と出会えるためだったのだとしたら、ぼくはとてもラッキーだったと思うよ」

「そういえば吉凶は糾える縄の如しって、あなたの貸してくれた本にあった通りね。私にとってもジョンに出会えたことは幸福なことよ」




それからも二人の旅は続いた。途中でお互いのお気に入りの本を交換して読んだりその感想を話したりもしたこともあった。話していくうちに、ミーナはあることに気付いた。ジョンはなぜか本には載っていないような情報までとても詳しいということ。というより、本に乗っていない情報まで付け加えたように知っていること。ジョンが海のことについて、そしてこの海社会について教えてくれる代わりに、ミーナはジョンに魚の獲り方を教えようとしたけれど、どうやら水に潜るところからすでに苦手らしく、あえなくして指導は終わった。その代わりといってはなんだけれど、高く買い取ってくれる商人の見分け方なんかを教えることにした。ある時、ジョンはおじいさんからいろいろなガラクタを貰ったといってミーナに見せると、それらはとんでもなく貴重な品物だということが判明したからだった。

「ジョン、これガラクタなんかじゃないわよ!とんでもない貴重品....。なんでこんなもの大量に持ってるの?」

「そうなの?でも、前にいくつか売ったけど大したことなかったよ」

「しっかり交渉すれば、それなりの金額になるものよ。まさか、商人の提示してきた値段でホイホイ売り渡してきたんじゃないでしょうね?」


一瞬固まったジョンの顔を見ると全てを察したミーナはもったいないと仰々しく嘆いた。彼が一度、やつれて倒れていたのも納得というものだ。ジョンはどこか危機感がなくて気が抜ける。知識があることと、現実を生き抜く力は、おそらくべっこなのだろうと思った。この調子ではおじいさんも相当心配したことだろう。だから、いつかこうして孫とはぐれてしまった時のために貴重品をいくつも渡しておいたのかもしれないと思ったのだった。

「呆れたものだわね...」
「うん?ぼく何かした...?」
「いいえ、あなたは大物だと言ったのよ」ふり返ったミーナはにこりと笑った。




それからも二人のゆるやかな漂流の旅は続いた。それぞれの船を真横に止めたまま、夜は満点の星空を寝転んで一緒に見上げてたわいもない話をする夜もあれば、時には商人から買い取った古いワインを開けては酔っ払い、二人ででたらめに歌を歌って過ごすこともあった。ある時ジョンがなんとなく歌って聴かせてくれた歌の中に、ふと聞き覚えのある曲があり、ミーナは懐かしい気持ちになった。音楽は感情を呼び覚ますという。この懐かしさは、いつ頃の頃だっただろうか。そして今この時が、また新たに記憶に刻み込まれてゆくことを思うと、どこか嬉しいような、切ないような気持ちにもなった。ジョンは最初に出会った時の半ば死にかけの状態から比べると、最近はとてもよく笑うようになった。性格や生まれも育ちも違うものの、私たちは元来陽気で、明るい人なのかもしれないとすら思える。友達のような、兄弟のような、そんな関係が心地よくて、こうして過ごすうちに私たちの友情は育まれていった。そうして何ヶ月にも渡る漂流の末、ようやく私たちはミナトの街船を発見した。

「ねえ!ジョン、あれじゃない?」
ジョンに声を掛けると彼も同じ方を向き、遠くに見える大きな船を確認する。
「うん、間違いないと思う」
私たちはようやく現れたミナトの街船に歓喜し、船を速度を上げて、目的の場所まで前進させた。


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