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第5章

すみれのダブルデート大作戦⑧ ~ヤキニクと恋のチカラ~

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 週が明けて9月22日月曜日、2年4組の教室では四葉とレベッカが昼食を摂りながら、二郎との食事会について話していた。

 あれこれ悩んだ末、二人は今週の金曜日の夕方にお好み焼き屋で食事をするという計画に収まった。当初、レベッカがどうしても焼肉を食べたいと言って駄々をこねたモノの、流石に焼肉を奢らせるには心苦しく、二郎の懐事情を心配した四葉が全力で止めに入り、なんとなく雰囲気の似ているお好み焼きを提案して妥協策として合意に至ったのであった。

「ヤキニク~」

 昼休みもあと5分で終わりと言った時、レベッカが未練がましく唸っているところを二郎がひょいっと顔を出して話しかけた。

「お~い、レベッカ。何を唸っているんだ?」

「あれ、二郎君。ちょうど良かった。今レベッカと食事会を今週の金曜日にって話していたんだけど、どうかな?」

「今週の金曜日?俺は大丈夫だけど、四葉さんのバイトは大丈夫なのかい?」

 二郎の問いかけに四葉が笑顔で答えた。

「実はその日は春樹さんの用事があって夕方にはお店をお休みする予定みたいなの。だからバイトを休まないで済むからちょうど良いと思って」

「そっか、それなら俺は問題無いけど。それで何を食べに行くの」

 二郎の問いかけに被せ気味でレベッカが答えると、それを全力で否定しようと四葉が慌てて訂正を入れた。

「ヤキニク!」

「違うでしょ!お好み焼きでしょ!!もう今さっき納得したばかりでしょ、もう!!!二郎君、お好み焼きで良いかな?」

「おう、もちろん。なんかレベッカが恐ろしい単語を唸っているけど、お好み焼きなら俺も好きだし、懐的にも助かるよ。ありがとう、四葉さん」

 二人の様子から四葉が気を利かせてくれてレベッカを説得してくれたことを察した二郎が感謝を伝えると、四葉が申し訳なさそうに言った。

「いえいえ、ご馳走してくれるだけでもこっちが感謝だし、さすがに焼肉なんて高校生が奢るモノじゃないしね」

「ヤキニク~」

 四葉の苦笑いの裏で泣き顔のレベッカを見て見ぬふりをして二郎も苦笑いで返したところで、レベッカ、四葉、二郎の食事会の予定が決まるのであった。



 一方2年5組。すみれは上機嫌で鼻歌を口ずさみながら昼休みを迎えていた。それはすみれのダブルデートの計画が順調に進んでいる事への高揚感と来たる一とのデートへのワクワク感の表れだった。また忍も先週までの見るからに元気のなかった様子から見違えいつものキリッと爽やかな雰囲気に加えて、ほんのりとハッピーオーラを醸し出していた。

 前週の土曜日。二郎が忍を映画に誘うことに成功した知らせはすぐに一に伝わり、その日の夜にはすみれもその朗報を耳にすることになった。それと同時にすみれがテンションを上げて浮かれていたところに忍からの電話を受けた。

 忍は二郎との映画デートの事を話すと、恥ずかしそうにしながらも、素直にすみれに感謝を伝えた。忍にとって二郎からの誘いは予想外の出来事だったこともあり戸惑いはしたが、結果的には二郎とのギクシャクした関係を一先ずは解消するきっかけとなったため、お節介と思いながらも自分では出来なかった二郎との仲直りへのお礼をすみれに伝えたかった。

「その、色々心配してくれてありがとうね。二郎に映画の事を伝えてくれたのは、こうなることを期待しての事だったんでしょ。初めはちょっとビックリしたけど、・・・うん、本当にありがとう、すみれ」

「何を言っているのよ、前に協力するって言ったでしょう!それに私もダブルデート楽しみなんだ。忍もそうでしょ?」

 そんなすみれの無邪気な言葉に忍は柔らかい笑みを浮かべながら答えた。

「うん、そうだね。まぁ映画は本当に楽しみだったし、早く見たいなぁ」

「うんうん、そうだよね。『パイレーツ』楽しみだよね。オーランド・ブルームもイケメンだけど、私はやっぱりジョニー・デップがカッコイイと思うのよ。ねぇ忍はどっち派?」

 そんなすみれの言葉に忍が受話器の向こうできょとんとした表情で言った。

「え?あたしが見たい映画って『踊る大捜査線』なんだけど。すみれは一体何の話をしているの?」

「うん?え、でも、前にカフェに行ったとき『パイレーツ』の話で一緒に盛り上がったような気がしたけど・・・」

「いや、盛り上がっていたのはすみれ一人で、あたしはずっと織田裕二さんがカッコイイって言っていたじゃないの。もう全然あたしの話を聞いてないじゃん」

「そうだったけ?ごめん、ごめん。それじゃ今回は『踊る大捜査線』の映画を見に行くって事だね。まぁ今回は忍が主役だし大人しく譲ることにしますよ」

 すみれが少し残念そうに言うと、忍がさらに疑問を投げかけた。

「というか、二郎はすみれからあたしの見たい映画を聞いて、それで見たい映画が同じだったからあたしを誘ってくれたんじゃないの?」

「あー、そう言えば二郎君には忍が何の映画を見たいかは話してなかったわ。多分二郎君が忍に話を合わせたんじゃないのかな。どんな感じで誘われたかは分からないけど、まぁ大した問題じゃないし大丈夫でしょ。それじゃ来週の日曜日、楽しみにしておくから。また月曜日にね。おやすみ」

「え、あ、うん。ありがとう、おやすみ」

 忍は電話を終えた後、改めてすみれの言葉を思い返しながら何かに思い当たり頬を緩ませた。

(二郎はあたしの見たい映画を知らなかった。でも、あたしを映画に誘うために嘘までついてあたしに話を合わせた。それはあたしが誘いを受けやすくするため?でもどうしてそこまでして???え、もしかして二郎の奴、そこまでしてあたしと仲直りしたかったって事かな。ふふふ、二郎も素直じゃないなぁ、もう)

 実のところすみれにせっつかれて渋々忍を映画に誘った二郎の誘い文句を、仲直りの照れ隠しの方便だったと解釈した忍は二郎が自分に対して何か特別な思いがあるのではないかと勘ぐるのであった。



 そんなやり取りを交わしていたからなのか、週が明けて実際に顔を合わせたすみれと忍の二人が楽しそうに買い物がどうとか、映画の後にどこに行くかなどをあれこれと話している様子を見ていた一が二郎に話し掛けた。

「忍の奴、すっかり元気になったみたいで良かったな。やっぱり恋のチカラは凄いですなぁ、二郎よ」

 一が二郎を冷やかすようにニヤリと言うと、二郎が困り顔で返答しつつもどこか安心したような表情を見せた。

「まったく何が恋のチカラだよ。こっちは映画代とか他にも色々出費が続くんで大変だって言うのに、あんなに浮かれやがって忍の奴」

「またそんなこと言って、なんだかんだお前も一安心しているんだろう。上手くいったらすーみんに感謝しろよ」

「はいはい。お前の彼女は本当に良い意味でイカレていやがるぜ。今思ってみてもあの俺らの状況で忍を映画に誘うなんて思いもつかないからな」

「だろう。俺だってすーみんには毎度驚かされてばかりだからな。まぁ俺らもあまり堅く考えずにこのダブルデートを楽しもうぜ」

「当たり前だぜ。映画代を払うのは俺だし、俺も『踊る』の映画は楽しみだったからな」

「え、『踊る』?『パイレーツ』を見るんじゃないのか?」

「は?」

「え?」

 まんま忍とすみれとのやり取りを二郎と一が繰り返す場面もあったが、すみれのダブルデート大作戦は順風満帆に進行していくのであった。


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