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第5章

二郎の散歩⑥ ~ほのかの威を借る二郎~

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 そこに姿を現したのは美術部で何かしらの用事を済ませた生徒会会計のほのかだった。

「ワオ!!二郎君じゃない。こんなところで会うなんて珍しいわね。あぁ、もしかしていつもの校内徘徊をしていたところかな。相変わらず君は自由人だね。君もこんなところをほっつき歩いているならたまに生徒会室に顔を出してあげな。最近全然来ないって凜が寂しそうにしていたわよ」

 ほのかが二郎の顔を見るや早々、親友である凜の言葉を代弁し始めると、そんなことなど気にもせず、二郎はエリカから逃げるようにほのかの背後に回りエリカから距離を取って言った。

「良いところに来てくれましたわ。美術部の連中なんか怖くて、ちょっと助けてください、ほのか先輩」

「何々一体どうしたのよ。」

「事情は後で説明するので、とにかくこの二人を止めてください。今度何でもお礼をしますからお願いします」

「今何でもするって言ったわね、二郎君。約束だよ」

「分かりましたからお願いします」

 二郎の必死のお願いを聞き、にやりとしたほのかは状況がよく分からないまでも先輩の威厳を持って目の前でいきり立つ美術部員達を黙らそうと、高く柔らかい地声をわざと低く野太くして誇張を入れて言い放った。

「あなたたち二郎君を苛めていると怖―い副会長に後でとんでもない事されるわよ。だから、この子には手を出さない方が身のためよ」

 そんなほのかの脅しに合いの手だと言わんばかりに二郎が二の矢を放つように言った。

「そうだ、そうだ。暴力反対だ。エリカ、こんな優しそうな顔しているけど、ほのか先輩は3年生で最も怒らせてはいけない人物の第一位に数えられるお方だ。この人の言うことは聞いておいた方が賢明だぞ。それに今先輩が言った怖―い副会長もいつ姿を現すか分からないから、気をつけた方が良いぞ」

 二郎は虎の威を借る狐と言ったばかりに急に強気になってエリカや敦子にふんぞり返った態度を取った。

 そんなほのかと二郎の言葉を受けて一瞬怯むもエリカは見事なカウンターパンチを食らわせた。

「でも佐倉先輩、この男は二階堂先輩も含めた3人の女子に手を出して振り回しているんですよ。それを今私が気をつけるように注意していたので、決して二階堂先輩に喧嘩を売るような事は言っていません。今成敗するべきは私らじゃなくて二郎君の方じゃないですか」

 エリカの言い分にほのかは表情を変えて二郎の方を向いて問いかけた。

「二郎君、なにやら二年生の中で変な噂がしばらく流れていたみたいだけど、まさか二郎君が凜を裏切って他の女子に手を出すなんて、冗談だよね?もし本当なら凜の親友として黙っておく訳にはいかないんだけど、どうなのかな?う~ん?」

 ほのかの眼光に二郎が固まっていると、敦子がここぞとばかりにダメ押しの情報を付け加えた。

「佐倉先輩、山田君は少なくとも二階堂先輩とは別の女子一人には確実に手を出しているみたいですよ。しかも相手は同級生の子みたいです。さっき本人がそうだと言っていました」

「おい、山崎、お前何言っているんだよ。それじゃ俺が本当に二股していたみたいじゃんかよ」

 敦子の告げ口を慌てて否定する二郎にエリカがにやりと言った表情でとどめの一撃を加えた。

「何言っているのよ。『していたみたい』じゃなくて『していた』でしょ。あの日の二郎君は完全に二股していたからね。もう大人しく認めなさい。そして、もっと反省しなさいな」

「むむむ、俺はそんなつもりなかったのに・・・」

 二郎がなんとか言い返そうとしていると、それを聞いたほのかが冷たい笑顔で二郎に向けて言った。

「君は一体何をしていたのかな?そんな顔して二股ですって?これはお仕置きが必要みたいね。そういえばさっき何でも言うことを聞くって言っていたわね。こうなったら今度トコトンこきを使ってあげるわ。ねぇ、二郎君」

「ひぃ、違うんです。ほのか先輩。ちょっと待ってくださいよ」

 二郎の弁解虚しくほのかによって酷使が約束された二郎は、用事があるからと言ってその場を後にしたほのかの背中を呆然としながら見送っていた。

(どうしてこーなった。くそー、エリカの奴め。何の恨みがあってこんなことを・・・)

 恨み節を心で抱きながらエリカに顔を向けると、渋い顔で二郎を見つめるエリカがいた。

「これでわかったでしょ。誰に聞いても二郎君が悪いんだから、これに懲りたら誰にでも優しく良い顔するのは控えた方が良いよ。二郎君がそのつもりがなくても周りの人間にはそうは見ないし、相手だって勘違いするんだよ。それにね、女子は誰でも自分だけに優しくしてくれる人を好きになるんだから、誰も彼も見境無く手を貸すのは、二郎君にとっても損だと思うよ。まぁそれが二郎君の良いところだとも言えるけどさ。あーでも、ちょっとやり過ぎたかも、ごめんね、いじわるなこと言ってさ。私も二郎君が嫌いで言っている訳じゃないんだよ。むしろ、友人として二郎君のためと思ってやったつもりだし、どうか怒らないでね」

 エリカは二郎のなんだかんだ言いつつ誰かのために行動が出来る性格を美徳と思いつつも、それが後々損になってしまうかもしれないという心配から、余計なお節介と思いつつ一芝居打って二郎に自分の意図を伝えようとしたのだった。

 一方で二郎としてみれば誰彼構わず親切にしているつもりなど毛頭も無く、むしろ人間関係を必要以上に持たないようにしているため、なぜそんな指摘を受けなきゃいけないのか意味が分からなかった。しかし、エリカの様子から見てもいじわるで言っているようには見えず、ひとまずは自分のためにエリカが何かをしようとしたのだろうと心に言い聞かせて、この場は大人しくすることにした。

「はぁー、何だか分からんが。分かったよ。気をつけるよ。別にこんなことくらいで怒ることもないし、エリカも心配してくれたみたいだし、ありがとうな。あーごめん、こんな時間だしそろそろ俺も行くからさ。そんじゃ。山崎さんだっけ、今回はそう言うことだから、これ以上なんか知りたいならエリカに聞いてくれ。じゃ、またな」

「ちょっと、山田君。そう言うことってどういうことよ!!」

 あっという間の出来事にその様子を見て居ることしか出来なかった敦子は、二郎に逃げられたと苦虫を噛みながらエリカに話し掛けた。

「ちょっとエリカ、最後のほう、何を言っているのか、全然分からなかったんだけど。どういうことよ。もう折角のチャンスだったのに、もっと山田君と話したかったよ~」

「はいはい、二郎君なんてウチのクラスに遊びに来ればいつでも会えるから、そんな落ち込む必要ないって。もう、それよりも川上さんがあっちゃんに頼みたいことがあるから、呼んできて欲しいって言われているんだったわ。ほら、早く戻ろうよ」

 そういってエリカが敦子の手を引いて美術室の中へ戻っていくのであった。
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