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第5章

恋のから騒ぎ② ~再燃する恋心~

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 2年5組が一とすみれの囲み取材をしている頃、他の4クラスの騒動に関わっていた生徒達も今回の一件に関してそれぞれの反応を示していた。

 2年1組。エリカの彼氏となった服部拓実はエリカから事の顛末を知らされた数少ない詳細を知る生徒だった。

「剛、聞いたか。一の奴、すみれと付き合い始めたらしいぞ。しかし分からんな。俺らとペンギンランドに行ったときは一じゃなくて剛に片思いしているって聞いていたはずなんだが、どういうことなんだ」

「それを俺に聞くかお前。まぁ一は良い奴だしすみれがあいつに惚れたって誰も驚かないだろう。それになんか今回の二人が付き合い始めたって言う噂はわざと広めている感じするし何かあるのかな」

 以前の勇次が流した噂がじわじわと広まる一方で、今回の噂の広がり方に作為的なものを感じていたが、この顛末を知らない剛はそれがなぜなのかまでは思いつかなかった。

 それの言葉を聞いた拓実は剛に近寄り秘密を打ち明けるようにこっそりと耳打ちした。

「実はな、剛。どうやら先週まで広まっていた噂を消すためにわざと大々的に一達自身がこの噂を広めたらしいぞ。それで信じられないけど、前の噂を広めた犯人はウチのクラスの佐々木らしいんだわ。よく分からんがすみれとの人間関係の縺れが根本の原因で色々面倒事があったらしいけど、エリカと二郎が頑張って犯人を突きとめたんだとよ」

「なんだそれ、俺らの知らない間にそんな事が起きていたのか。それにしても二郎達は良く犯人を見つけられたな」

 剛が驚きととまどいの表情を作ると、拓実が呆れたように言った。

「エリカ曰く、『この俺が友人を傷つけられるのを黙って見ているわけがねーだろが、コラ』って二郎が言っていたらしいぞ。なんだかものすごい執念で犯人捜ししていたらしいぜ」

「そうか、普段やる気のなさそうにしているけど、カッコいいじゃないか、二郎の奴。三佳ちゃんが気になるわけだわ」

「どうした、ブツブツ独り言みたいなこと言って」

「いや、なんでもないよ。それにしても一の奴は晴れて彼女持ちか。拓実と揃って夏休みデビューとは羨ましいな」

「何を言ってんだよ。お前だって選り好みしなければいつでも彼女の一人くらい出来るだろうが。お前は理想が高すぎるんだよ、バーカ」

「まったく人の気も知らないで好き放題言ってくれるじゃねーか」

「当たり前だ、バカヤロー。今まで何人もの女子を泣かせてきたんだからちょっとは痛い目を見て当然だろう。モテ男の気持ちなんて知ったことか」

「このリア充野郎が、彼女が出来たら急に強気になりやがって」

「悔しかったら彼女作ってみろってんだ。はははは」

「・・・・バカヤロー、俺だってそうしたかったわ」

 拓実は発破を掛けるように言うと、剛は一瞬目を細めるも、すぐに負けじと言い返すのであった。

(三佳ちゃんの事はもうあきらめたはずだ。いや、諦めなきゃダメだって決心したはずなのに。クソ、二郎の奴め。あいつはたぶん一や俺ら全員のために色々動いてくれたんだろうけど、きっと三佳ちゃんは自分のために二郎が頑張ってくれたって感じるだろうな。気のないフリしてポイント稼いでくるぜ、あの野郎。俺だって三佳ちゃんの力になりたいのに、俺はなにやっていたんだよ)

 騒動から三佳達を守った二郎の活躍を聞き、二郎への対抗心から諦めたはずだった三佳への想いに再び火が付き、初めて剛は嫉妬心を覚えた。それは自分が三佳に本気で惚れていたことを嫌というほど思いしらせるきっかけとなり、再び剛を一歩前に進める原動力となるのであった。


2年2組。こちらはこちらで波紋を広げていた。

「尊、聞いたか。一の奴、彼女が出来たってよ。しかも、相手は花火大会の時に来ていた橋本さんらしいぞ」

「俺も聞いたぜ。あいつも遂に彼女持ちか。俺は一年の時に橋本さんとは同じクラスだったから、少し知っているんだが、彼女は1組の工藤に片思いしていたと思ったんだが、クラスが替わって一に乗り換えたんだな」

「そうなのか、なかなか工藤の次に一ってとんでもない難所ばかり攻めるね、彼女も。それにしたって一の野郎、宮森さんの事はどうするつもりだよ、あいつ」

 大和は生徒会の3年生を除けば校内において唯一巴が一に好意を持っている事を知る生徒であり、なによりも二人の関係を案じていた男だった。そんな大和にとっては夏祭りの際にすみれが一の元へ焼きそばを持っていたことも、花火鑑賞の際に巴が一にブチ切れていたことも、今回の話を聞いて全てがつながり、あの日巴が何を見て二人の間に何があったのかを想像することが出来てしまった。そして、それは巴を悲しませたくないという思いから一に対する一方的な怒りを大和の中で燃え上がらせることとなった。



 また同じ2年2組には少なからず騒動に関わった二人が窓際で話をしていた。

それはエリカの美術部の友人である山崎敦子と野球部の宮本翔太郎である。二人はエリカに瞬が噂の情報源の可能性であることを教えた情報提供者の一人だった。

「おい、敦子。この前の部活で五十嵐に超睨まれたんだが、この前の飯田さんの件とは何か関係あるのか」

「わかんないよ、そんなの。だってエリカの奴、まだ何も教えてくれないんだよ。ただ騒動は解決したってだけで、後は何も。それと翔太郎君には情報提供ありがとうだって」

 いまいち要領の得ない敦子の話に翔太郎は不満げな表情で腕組みをした。

「飯田さんも、俺らを良いように使ってくれたもんだわ。こっちは部活に行きづらくてしょうがないのに」

「翔太郎君、ごめんね。それに私のわがままを聞いてくれてありがとう」

 普段の調子の良い敦子にしてはとても真面目に頭を下げた。

「別に敦子を責めているわけじゃないし、お前が謝る必要は無いから大丈夫だぞ。それに俺もあまり人の噂を広めてあれこれ言うの本意じゃなかったから、噂が収まって良かったとは思っているからさ」

「でも、そもそもあの話を私に広めたのは翔太郎君だったよね」

 敦子はじと目で翔太郎に目線を送った。

「いや、あれは野球部の奴らが面白そうに盛り上がっていて、五十嵐も俺にも噂を広めるように言ってきて、つい敦子にだけ話してしまっただけだから。他の奴らには言ってないからな」

「ふーん。そうなんだ。・・・まぁ、そんな私もその話をエリカとか部活の人に広めちゃったから似たり寄ったりかな。ふふふ、でも、翔太郎君は犯人捜しに協力してくれたからプラマイゼロってことで大丈夫だよ」

「敦子がそう言ってくれるなら少し気が晴れるよ。それにしても2学期早々いろいろ騒がしいことが多いな。まだまだ何か起こりそうだな」

「ホント、噂好きの私からすればウキウキワクワクが止まらないけどね、てへ」

「全く、お前は・・・」

 敦子のお茶目なてへぺろの姿に思わずキュンキュンして悶える翔太郎は、一気に学年内での恋愛熱の高まりに以前から想いを寄せる敦子を一瞥して、すっきりと気持ち良い秋晴れの空を見上げるのであった。

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