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第5章

成田忍の憂鬱① ~ため息とすれ違う二人~

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 「はぁー、・・・ふー」

 もう何度目かも分からないため息をしながら浮かない表情で今日一番の深いため息をした忍は9月13日、第2週目の土曜日の13時前に学校の体育館入り口前に佇んでいた。

 この日午前中から部活のあった男子バスケ部の面子が午後からの練習でポツポツと体育館へ戻って来ている中、女子バスケ部の忍は午後練習の参加のため体育館へやって来ていた。

 普段と変わらない休日の部活であっても、忍にとっては二郎と顔を合わす機会と思うとどんな顔で二郎に会えば良いのか分からず、頭を悩ませながら恐る恐る館内に足を踏み込んだ。

 そこではまだ昼休憩という事もあり、一年の男子部員達が遊びがてら2on2をしており、バッシュの「キュッキュッキュ」という音とボールがドリブルされる「ダムダムダム」という小気味よい音を響かせながら、飛び散る汗と共に爽やかな休日の一時を送っていた。

 そのコート際で2年の先輩部員である尊や大和、一に二郎は壁に寄りかかりながら雑談をして、休憩時間を過ごしているようだった。

 そんな中で入り口に姿を現した忍に気付いた一はポソリとつぶやいた。

「お、忍だ」

 その言葉に視線を送った二郎はその流れで館内にある時計に目をやり、練習再開まで10分を切っていることを確認してすっと立ち上がった。

「ちょっとトイレ行ってくるわ」

 そういって二郎は忍の歩く対角線の通路を通って館内を出て行った。そんな様子を見て居た一は元気がなさそうに歩く忍を迎えるように声を掛けた。

「オース、忍。何だ、ちょっと顔色悪いけど、体調は大丈夫なのか」

「お疲れさま、一。うん、別に特に問題無いよ。そんな心配ばかりしないでよ」

「そうか、ならいいんだが。・・・そうだ、色々と時間がかかったんだけど実は噂の件、昨日なんとか解決出来たんだ。二郎とエリカが頑張ってくれたおかげでなんとかなったんだよ。詳しい話は来週エリーとすーみんが説明すると思うから、その時にゆっくり聞いてくれ」

「そうだったんだ。よかったね。私はあまり役に立てなくごめんね。でも、これで変な噂話はなくなるかな。色々ありがとね」

「俺は何もしてないさ。感謝するなら二郎とエリーにな。それで忍の方はまだ問題解決にはならないのか。二郎もいろいろと悩んでいるみたいだぞ」

 一は本題として二郎の不和について心配そうに忍を見つめた。

「私達のことはそんなたいした問題じゃないから、だ、大丈夫だよ」

 忍は誰が見てもそれと分かる強がりを言って見せるも、やはりいつものような勢いもなく空元気の痛々しい様子が一をさらに心配にさせた。

「そう、なのか。いつものような痴話げんかなら俺も特に気にはしないのだけど、三佳っちもエリーもすーみんも凄い心配していたぞ。二郎の奴も何があったのか全然話さないし、あんまり皆を心配させるなよ、全く。それにお前ら二人とは学校で一番の親友だと思っている俺にすら何も話せないって言うのはちょっと寂しい気分なんだから、さっさとスッキリ出来るようにしてくれよ。まぁ無理にはこれ以上は聞かないから、ちゃんと二郎と話し合えよ」

 一の心配と気遣いをひしひしと感じ取った忍は元気無く返事をした。

「ごめんね、ありがとう・・・」

「おう・・・」

 そこで会話は途切れて、忍は女子部員達が集まる場所に向かっていった。

その後ろ姿を見た一は噂の騒動以上に大事になりそうだと思いを巡らした。

(マジかー、結構本気で重傷かもしれんな。先週忍の家で一体何が起きたって言うんだよ。あんなに忍が落ち込むなんて初めてだし、二郎もなんか忍を擁護するような、でもかといって二郎は何も悪さをしたわけでもないし、それであんだけ忍が落ち込むって事は忍が何かをやらかしたってことか。でも、忍が何かしたなら二郎がもっと怒っても良いような気もするし、何があったんだよ、本当に!)

 一があれこれと悩んでいる間に二郎が戻ってきて、そのあとすぐに練習が再開されこの日の練習は何事もなく過ぎていくのであった。





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