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第4章
人の噂も七十五日⑯ ~昨日の敵は今日の友~
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風呂から上がり食事を済ますと一は約束通り妹の渚に勉強を教えることになっていた。途中、姉の葵が渚のハーゲンダッツを強奪し食べようとして、第87次葵渚姉妹戦争が勃発しかけたところで、一が自分のアイスを葵に献上することで事なきを得るという騒動があったが、それ以外は平穏に3人の勉強会が進行された。
「よし、大分関係代名詞を使った英訳も出来るようになったし、和訳の方でもどれが主語と動詞かを間違えずに訳せているから、細かいミスはあっても点数を稼げるようになっているよ。あとはしっかり単語の意味とスペルを覚えて、教科書の例文を暗記するくらいの気持ちで覚えれば8割から9割は堅いと思うよ」
「うん、ありがとう。お兄ちゃんが英語の先生なら私も英語が得意になったのになぁ」
渚は嬉しそうに一を褒め称えるように言った。
「何言ってんだよ。誰が先生でも頑張るのは自分なんだから一生懸命頑張らなきゃダメだぞ。それじゃ次は単語の一問一答をやってみようか。俺が英語を言うから意味を答えてな」
「うん、わかった。お兄ちゃん。私頑張るよ」
「偉いぞ渚、頑張って良い点取れたら、今度アイス奢ってあげるからな。良しそれじゃこれはどうだい」
「Stomachache」
「なんだっけ、聞いたことがあるような、う~ん。ヒントお願い」
「そうだな、頭痛はなんて言うか分かるか」
「Headacheだよね」
「そう、頭痛はHeadがacheなんだよ。そんじゃStomachacheは何が痛いのかな」
「うーん、Stomachって何だっけ」
渚がうーんうーん悩んでいるのを見かねて一がさらにヒントを与えた。
「渚、そこで転がっている人は一日どんな状態だったか考えてみてごらん」
「葵姉ちゃんの状態?」
「そうそう、ずっとなんて言ってゴロゴロしていたのかな」
「えーっと、頭が痛いとか胃がもたれて気持ち悪いって、あーそうか、Stomachacheは胃痛の事か」
「そうそう、正解!よくわかったね。これからこの単語を見て意味を忘れちゃったら葵姉を思い出せば完璧だし、むしろもう忘れないだろ」
「凄い、確かにこれなら絶対忘れないよ」
「そうやって何か自分でも簡単に分かるモノ覚えられるモノに関連付けて暗記すれば1度覚えたら忘れにくくなるし、そうやって勉強すると後々役に立つから覚えておくと良いよ」
そんな二人のやり取りを見ていた葵が感心したようにつぶやいた。
「あたしをダシに使うなんて生意気だけど、なかなかやるわね」
そんなやり取りをしているとあっという間に夜の10時を過ぎ、そろそろお開きにしようと一が言おうとしたところで一の携帯が音を立ててその着信を知らせた。
その音に最初に反応したのは勉強に集中する二人の横で一から献上されたハーゲンダッツを優雅に食べていた葵だった。
「あれ、一。携帯が鳴っているわよ。橋本すみれだってさ。あ、この曲って『あいのり』の曲じゃない。大学でも凄い流行っていてカラオケに行くと女子友達が皆歌うから私も覚えちゃったよ」
葵が右手にアイスのカップを左手に携帯、口の端でスプーンをくわえ器用にしゃべりながら一に携帯を渡した。
「お、おう、そうなんだ。俺も、この歌が好きなんだわ。ゴメン、渚。ちょっと電話に出るからここで勉強は終わりにしていいかな。もう大分出来ているし心配することないよ。それに俺よりも葵姉は腐っても教育学部に通っている教員の卵で俺よりも勉強を教えるのが上手いはずだからちゃんと頼んで教えてもらいな。そんじゃおやすみ。・・・ごめん、今日はお疲れ様だったね。・・・・・・」
そんなことを言いながら一は慌てて電話に出ると、足早にリビングを後にするのであった。
そんな一の様子を見た葵が目を細めて言った。
「怪しい。一の奴、明らかに様子が変だったわ。何かを隠すようにしていたし、さっきの橋本すみれとか言う子はもしかして彼女かもしれないわね」
「嘘だ、お兄ちゃんに彼女なんてヤダよ」
「そんなこと言ったって一も高校生だし、あたしの弟だけあってイケ面で頭も良くてモテるだろうから今まで彼女が出来ていないことの方がおかしいのよ」
「でもお兄ちゃんには二郎さんがいるから心配無いってお姉ちゃんも言ってたじゃん」
「それは中学までの話でしょ。最近は二郎君も家に来ないし、あたしだって二人がまだ仲が良いかなんて知らないわよ」
葵が言うように中学時代、あまり友達のいなかった二郎はなんやかんや言いつつも一と仲良くなり、中学三年の頃には学校帰りに頻繁に一の家へ遊びに行く事が多かった。そこで当時中学一年だった渚は良く二郎に遊んでもらい懐いていた。また葵も休日に二郎が家に来れば顔を合わせることも多々あり、たまに夕食を一ノ瀬家でご馳走になるときなどは世間話などをする程度の間柄になっていた。しかしながら、高校になってからはすっかり一の家に二郎も行くことがなくなり、しばらく会うこともなく二郎に関する情報を葵は一年間以上更新できずにいたのだった。
その一方で渚が胸を張るように言った。
「私は知っているよ!二郎さんとは同じ高校で今年は同じクラス、部活も同じバスケ部で今でも二人はラブラブだもん。二郎さんに電話しているお兄ちゃんはいつも楽しそうにしているし、彼女なんて出来ていないと私は思うけどな」
奇しくも現在琴吹高校で定説になっている一と二郎との怪しい関係を妹の渚も怪しんでおり、変な女に兄を取られるくらいなら中学からよく知る人畜無害そうな二郎の方が100倍マシだと渚は考えていたのだった。
「そうなの、相変わらず仲が良いのね、あの二人は。でも、渚。安心していると痛い目をみるわよ。さっきの電話の相手はやっぱり怪しいと思うのよ。そう言えば10月だか11月に一の高校で文化祭があるだろうから、その時どんな相手か見に行くのも楽しそうね」
葵がいたずらを思いついたように言うと、渚も前のめりになって反応した。
「いいねそれ!潜入捜査だね。お兄ちゃんに近づく女がどんなか私がしっかりチェックしてあげるわ。お姉ちゃん、その日は合コンの予定とか入れないでよ」
「当たり前よ。こんな面白いことをあたしがすっぽかすわけないでしょ」
先程まで犬猿の仲のようにアイスと一を取り合っていた二人は共通の敵を見つけたかのように結託をして二階の自分の部屋に逃げ込んだ一の恋路を邪魔してやろうと考えるのであった。
「よし、大分関係代名詞を使った英訳も出来るようになったし、和訳の方でもどれが主語と動詞かを間違えずに訳せているから、細かいミスはあっても点数を稼げるようになっているよ。あとはしっかり単語の意味とスペルを覚えて、教科書の例文を暗記するくらいの気持ちで覚えれば8割から9割は堅いと思うよ」
「うん、ありがとう。お兄ちゃんが英語の先生なら私も英語が得意になったのになぁ」
渚は嬉しそうに一を褒め称えるように言った。
「何言ってんだよ。誰が先生でも頑張るのは自分なんだから一生懸命頑張らなきゃダメだぞ。それじゃ次は単語の一問一答をやってみようか。俺が英語を言うから意味を答えてな」
「うん、わかった。お兄ちゃん。私頑張るよ」
「偉いぞ渚、頑張って良い点取れたら、今度アイス奢ってあげるからな。良しそれじゃこれはどうだい」
「Stomachache」
「なんだっけ、聞いたことがあるような、う~ん。ヒントお願い」
「そうだな、頭痛はなんて言うか分かるか」
「Headacheだよね」
「そう、頭痛はHeadがacheなんだよ。そんじゃStomachacheは何が痛いのかな」
「うーん、Stomachって何だっけ」
渚がうーんうーん悩んでいるのを見かねて一がさらにヒントを与えた。
「渚、そこで転がっている人は一日どんな状態だったか考えてみてごらん」
「葵姉ちゃんの状態?」
「そうそう、ずっとなんて言ってゴロゴロしていたのかな」
「えーっと、頭が痛いとか胃がもたれて気持ち悪いって、あーそうか、Stomachacheは胃痛の事か」
「そうそう、正解!よくわかったね。これからこの単語を見て意味を忘れちゃったら葵姉を思い出せば完璧だし、むしろもう忘れないだろ」
「凄い、確かにこれなら絶対忘れないよ」
「そうやって何か自分でも簡単に分かるモノ覚えられるモノに関連付けて暗記すれば1度覚えたら忘れにくくなるし、そうやって勉強すると後々役に立つから覚えておくと良いよ」
そんな二人のやり取りを見ていた葵が感心したようにつぶやいた。
「あたしをダシに使うなんて生意気だけど、なかなかやるわね」
そんなやり取りをしているとあっという間に夜の10時を過ぎ、そろそろお開きにしようと一が言おうとしたところで一の携帯が音を立ててその着信を知らせた。
その音に最初に反応したのは勉強に集中する二人の横で一から献上されたハーゲンダッツを優雅に食べていた葵だった。
「あれ、一。携帯が鳴っているわよ。橋本すみれだってさ。あ、この曲って『あいのり』の曲じゃない。大学でも凄い流行っていてカラオケに行くと女子友達が皆歌うから私も覚えちゃったよ」
葵が右手にアイスのカップを左手に携帯、口の端でスプーンをくわえ器用にしゃべりながら一に携帯を渡した。
「お、おう、そうなんだ。俺も、この歌が好きなんだわ。ゴメン、渚。ちょっと電話に出るからここで勉強は終わりにしていいかな。もう大分出来ているし心配することないよ。それに俺よりも葵姉は腐っても教育学部に通っている教員の卵で俺よりも勉強を教えるのが上手いはずだからちゃんと頼んで教えてもらいな。そんじゃおやすみ。・・・ごめん、今日はお疲れ様だったね。・・・・・・」
そんなことを言いながら一は慌てて電話に出ると、足早にリビングを後にするのであった。
そんな一の様子を見た葵が目を細めて言った。
「怪しい。一の奴、明らかに様子が変だったわ。何かを隠すようにしていたし、さっきの橋本すみれとか言う子はもしかして彼女かもしれないわね」
「嘘だ、お兄ちゃんに彼女なんてヤダよ」
「そんなこと言ったって一も高校生だし、あたしの弟だけあってイケ面で頭も良くてモテるだろうから今まで彼女が出来ていないことの方がおかしいのよ」
「でもお兄ちゃんには二郎さんがいるから心配無いってお姉ちゃんも言ってたじゃん」
「それは中学までの話でしょ。最近は二郎君も家に来ないし、あたしだって二人がまだ仲が良いかなんて知らないわよ」
葵が言うように中学時代、あまり友達のいなかった二郎はなんやかんや言いつつも一と仲良くなり、中学三年の頃には学校帰りに頻繁に一の家へ遊びに行く事が多かった。そこで当時中学一年だった渚は良く二郎に遊んでもらい懐いていた。また葵も休日に二郎が家に来れば顔を合わせることも多々あり、たまに夕食を一ノ瀬家でご馳走になるときなどは世間話などをする程度の間柄になっていた。しかしながら、高校になってからはすっかり一の家に二郎も行くことがなくなり、しばらく会うこともなく二郎に関する情報を葵は一年間以上更新できずにいたのだった。
その一方で渚が胸を張るように言った。
「私は知っているよ!二郎さんとは同じ高校で今年は同じクラス、部活も同じバスケ部で今でも二人はラブラブだもん。二郎さんに電話しているお兄ちゃんはいつも楽しそうにしているし、彼女なんて出来ていないと私は思うけどな」
奇しくも現在琴吹高校で定説になっている一と二郎との怪しい関係を妹の渚も怪しんでおり、変な女に兄を取られるくらいなら中学からよく知る人畜無害そうな二郎の方が100倍マシだと渚は考えていたのだった。
「そうなの、相変わらず仲が良いのね、あの二人は。でも、渚。安心していると痛い目をみるわよ。さっきの電話の相手はやっぱり怪しいと思うのよ。そう言えば10月だか11月に一の高校で文化祭があるだろうから、その時どんな相手か見に行くのも楽しそうね」
葵がいたずらを思いついたように言うと、渚も前のめりになって反応した。
「いいねそれ!潜入捜査だね。お兄ちゃんに近づく女がどんなか私がしっかりチェックしてあげるわ。お姉ちゃん、その日は合コンの予定とか入れないでよ」
「当たり前よ。こんな面白いことをあたしがすっぽかすわけないでしょ」
先程まで犬猿の仲のようにアイスと一を取り合っていた二人は共通の敵を見つけたかのように結託をして二階の自分の部屋に逃げ込んだ一の恋路を邪魔してやろうと考えるのであった。
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