上 下
74 / 189
第4章

人の噂も七十五日⑦ ~二度寝の正しい起こし方~

しおりを挟む
 週末の土曜日早朝。二郎は寝ぼけた顔とボサボサの頭をかきながら、喉の渇きを潤すように麦茶を一気に流し込んだ。おもむろにつけたテレビの中のめざましくんが知らせる時間は6時31分だった。

 時間を確認し再び持っていたリモコンの電源ボタンを押した二郎は小さくつぶやいた。

「また寝るか」

 普段長い通学時間の関係で普通の学生以上に朝の早起きを強いられている二郎は休日だけは意地でも惰眠を貪ろうと自室に戻りベッドに潜り込んだ。

 それから2時間ほど経った8時半過ぎ、二郎がいびきをかきながら気持ちよさそうに寝ているところで、目覚ましのアラームとは異なる着信音がなった。

(・・・・あぁ、うるせーな、朝っぱらから。とりあいず放置でいいだろ)

 そのうち静かになるだろうと無視を決め込む二郎であったが、二分以上経っても止まないやかましい携帯をベッドからイヤイヤ這い出て手に取ると、思い当たる着信の主に対して開口一番怒鳴りつけた。

「朝からなんなんだよ、一!!こっちが気持ち良く二度寝しているところにうるせったらないぞ!!」

「・・・・・・・・・」

「おーい、聞いてんのか。一、おーい」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「おーい、おーい・・・・・あんにゃろう」

 二郎が一向に応答のない電話先に一人でぶつぶつ言っているところで、ようやく電話先から声が聞こえてきた。

「おう、起きたか二郎。ちょっとトイレ入っていたわ。意外とお前が早く起きたせいでゆっくり小便もできなかったぞ。後2,3分は寝ていても良かったんだぞ」
 
 一は全く悪びれることもなく、むしろ二郎が早く電話に出たことを不満そうに言ってのけた。

「あのな、お前が電話を掛けてきたんだよな。どこの世界に電話を掛けた後にトイレに行く奴がいるんだよ、このクソッタレが!・・・全く何の用だよ」

 二郎が頭を抱えながら捨て台詞を言っていると、一はさらなる冗談をかぶせながら電話の目的を話した。

「だから、お前が早く起きたせいでクソをする時間も無かったんだぞ。まぁそれはいいや。今日は部活には行くのか。俺たちは13時からだけど、女バスは午前からやっていて忍が暇なら男子も来て練習に参加して欲しいって言っていただろ。俺は午前に予定無いし、家にいてもやることないしさ。今から準備して行けば10時半頃には着けるだろうし二郎も行かないか」

「わざわざ休みの日に予定外の部活に行くことないだろう。それに月曜日からずっと忍が機嫌悪くて面倒くさいし俺は午後から普通に参加するよ」

「そうか。それなら仕方無いか。多分尊も来るだろうし俺は行くとするわ。あぁそうだ、二郎、そろそろ忍と仲直りしろよ。何があったかは聞かないけど、面倒な噂が流れているみたいだし、忍も忍でどうしたら良いか悩んでそうだったし、たまにはお前から声かけてやれや」

 一は自分の事は棚に上げて、二人の関係を心配するように二郎に声を掛けた。

「別に俺は普通なんだがな。それに噂がどうこうってなら俺よりお前の方が面倒だろ。俺みたいな存在感のないモブキャラに比べて、有名人の一の噂は簡単には消えないぞ。まぁ情報源だけはある程度目星が付いたから、来週には潰そうかと思うけど1度広まった噂はなかなか消すことは出来ないから時間がかかると思うわ。申し訳ないけどもう少し我慢してくれ」

 あたかも噂の原因が自分であるかのように話す二郎に一は釈然しない様子で切り返した。

「何を言ってんだよ。お前も立派な被害者の一人だろう。何でお前が謝る必要があるんだ。100%悪いのは迷惑な噂を流した奴じゃんか」

「それはそうかもしれないが、少し思うところがあってよ。まぁ色々解決したら今度説明するわ。ほんじゃ、部活でな」
 
 一が返事をするかどうかと言う間に二郎は携帯を一方的に切って会話が終了した。

「何だよ、アイツ。何かあったのか」

 一は若干のモヤモヤを残したまま部活へ行く準備をさっと済まし、気持ちの良い秋晴れの中、自転車に乗って最寄りの小作駅に向かうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話

フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談! 隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。 30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。 そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。 刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!? 子供ならば許してくれるとでも思ったのか。 「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」 大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。 余りに情けない親子の末路を描く実話。 ※一部、演出を含んでいます。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...