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第4章

祭りの後で① ~ハッピーガールと夏の残暑~

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 激動の夏休みが終わり、季節は9月。まだまだ夏の暑さが残るこの頃。高校2年2学期を迎えた二郎はまだ長い休みのだるさが残るやる気のない寝ぼけた表情で教室のドアを開け自分の席に着こうとしていた。

 そんな二郎にこの夏休みの間で思いの外仲良くなった橋本すみれが声を掛けた。

「二郎君、おはよう!新学期早々やる気のない顔しているね。もっとシャキッとしなきゃ駄目だぞ!」

「なんだ、すみれか。おはよう。新学期だからやる気が出ないんだろう。お前こそ何だかやけに元気が良いじゃんか。何か良いことでもあったんか」

 見るからにハッピーオーラ全開でいつにもなくテンション高めな様子のすみれに二郎は若干面倒くさそうに返事をした。

「え、いつもと変わらないつもりだけど、そんなにテンション高く見えるかな。へへへ」
 
 口では二郎の言葉を否定しつつも、緩んだ表情がすみれの隠しきれない心情をはっきりと表していた。

「全く本当にわかりやすい奴だな、お前は。まぁ何だか知らないけどすみれが御機嫌なのはよくわかったよ」
 
 二郎がすみれと話しながら席に着き、クラス全体の様子を伺うと見慣れた顔の生徒が二郎を見つけて声を掛けて近づいてきた。

「おう二郎、久しぶりだな。ちゃんと遅刻しないで来れたんだな」

 二郎に声を掛けたのはクラスとバスケ部が同じで生徒会に所属する二郎の唯一の親友である一ノ瀬一だった。

「おう、一か。なんか結構久しぶりだな。そういえば結局花火大会では会わなかったよな。あの日はずっと生徒会の人たちと居たのか。まぁ俺もちょこっと集合場所に顔出しただけ後はずっとあちこち動いていて皆のいる場所にはいなかったからよくわからんけどさ」

 一は二郎の言葉を聞きながら、すぐ横に居るすみれの存在に気付き言葉を濁すように返事した。

「えーと、あの日はいろいろあってさ。生徒会のメンバーも誰も戻ってこないから、結局俺がずっと生徒会のシートの場所取りしていて動けなかったんだよ。・・・な、すーみん」

「え、うん、そうだね。一君は一度も私らの所には来なかったと思うよ」

 すみれと一は二人の間に起きた事を隠すように二郎にあの日の状況を説明した。

「そうなんか、そんじゃずっと場所取りしてくれていた尊と大和には悪いことしたな。確か早めに来て場所取りしてくれたんだよな。次の部活の時にはジュースの一本でも奢ってやるか」

「おう、そうだな。二郎にしては良いこと言うじゃんか」 

「そうね、二郎君にしては気を利くこと言うわね」
 
 一とすみれはどこか示しあわせたような反応を見せて二郎の言葉に同調した。

「なんかお前ら気持ち悪いな。なんかあるんか」

「な、何を言ってんだよ。俺らは何もしてないぞ」

「そ、そうだよ、私はただ中田君と小野君にお礼がしたいだけだよ」

「ほー、そうですかい。まぁどうでもいいけどさ。・・・あ~、9月だって言うのにまだ暑いな」

 二郎は二人のあたふためく様子を怪しみながらも、残暑のためか朝から汗ばむ程気温が上がる教室内でだるそうに机に顔をつけて話しを打ち切った。

 一方で新学期早々関係を怪しまれヒヤヒヤしながらも、恋人同士になったドキドキを楽しむ一とすみれは顔を合わせて二人だけにしか分からないようにこっそり小さく笑い合うのであった。
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