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第3章

夏休み その4 花火大会⑥ ~one more chance~

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 尊と忍を見送って5分程経った頃に三佳が飲み物を持って戻ってきた。

「おまたせ、飲み物買ってきたよって、あれ、私、場所間違えちゃったかな」

 自分の記憶を確かめながらつぶやくように三佳は言った。

「もしかして陸上部の馬場さんだよね。俺は尊と同じバスケ部の小野大和です。尊と忍は少し前に屋台の方に行って代わりに俺が留守番しているんだよ。だからここで間違ってないよ」

「そうだったんだ。びっくりしたよ。私間違って別のところに来たと思っちゃったよ。君が小野君かぁ、忍から聞いているよ。今日はお招きありがとうね。これ二人の分で買ってきたんだけど、屋台を回っているならこれは小野君が飲んで良いよ」

 三佳は状況を理解して、買ってきた飲み物を大和に渡してシートに座った。

「ありがとう、ちょうど喉が渇いていたから助かるよ。君一人なの。もう一人来ているって忍から聞いたけど」

「そうだよ、橋本すみれって子で、二人で分かれて食べ物を調達する事にして、焼きそばの屋台に並んでもらっているから、もうすぐ戻ってくると思うよ」

「そうなんだ、ありがとう。いろいろ買ってきてもらっちゃって。後で割り勘するから言ってくれよ」

「いや、これは今日誘ってくれた私とすみれからのお礼だから気にしないでよ。全員分を買ってきたわけじゃないしね。でも、ありがとうね。男子バスケ部の人は良い人が多いね」

 大和の申し出を断りながらも、三佳は大和の人柄の良さに感心していた。

「まぁ皆悪い奴らじゃないけど、男バスの連中なんてバカばっかりだよ」

「そうなの、ウチのクラスの二郎君なんかちょっと前まではいつもやる気無くてだるそうにしている影の薄い人だと思っていたけど、意外と接してみると優しくて気が使えて、私は好きだけどな」

 三佳は一ヶ月ほど前のペンギンランドでの記憶を思い出しながら、二郎の事を話していると後ろから急に声がかかった。

「誰がなんだって」

「わぁ!びっくりした。いきなり驚かさないでよ、二郎君」

 そこには眠そうにしながら、皆から遅れて会場に到着した二郎が立っていた。

「なんだ二郎か。思っていたより早かったな。花火が始まるまでは来ないと思っていたぞ」

「まぁちょっと事情があってな」

 大和と二郎が話していると、その後ろから意外な人物が3人の前に顔を出した。

「三佳ちゃん、久しぶり。それとバスケ部の小野だよな。今日は訳あってちょっと参加させてもらうぜ」

「つよぽん。どうしてここに」

「お前はサッカー部の工藤だよな。どうしたいきなり」

 突然現れた剛に驚いた三佳と大和は、事情を求めるように二郎に顔を向けて説明を促した。

「まぁ落ち着け二人とも。実は何日か前に学校で剛に会ってさ。今日バスケ部の連中と花火大会に行く事が話題になって、ついでにすみれと三佳も来るって話したら剛も参加したいって言うもんだから、本人が来たいと言うなら止める理由もないし、それに誰かさんに会いたそうな感じだったから、俺と一緒につれて来たったわけだ。別に一人増えようが今更問題ないだろう」

「そう言うことなら、まぁいいけど。せめて、二郎は事前に連絡ぐらいはしろよ」

「わりぃな、今日まですっかり忘れていてさ。夕方に連絡もらって急いで待ち合わせ場所に行ったおかげで、思ったよりも早く来ちまったよ。まだ花火の本番まで1時間くらいは待つんだろ」

 二郎と大和が会話している横では、久しぶりに顔を合わせた三佳と剛が話始めていた。

「つよぽん、久しぶりだね。元気してた」

「三佳ちゃん、久しぶり1ヶ月ぶりくらいかな。俺は相変わらずだよ、それよりも全国大会4位だったんでしょ。応援に行けなくてゴメンよ。でも、全国で4位なんて本当にスゴイと思うよ。おめでとう」

「ありがとう。あとちょっとでメダルだったけど、自己ベストは出せたし私は満足しているよ」

「本当に努力の結果だよ。いつも三佳ちゃんが練習を頑張っている姿を見ていたから、三佳ちゃんが満足できる結果が出たなら本当に良かったよ」

「うん、ありがとうね。それで今日はどうしたの。もしかして、すみれに会いに来たの」

 三佳は話題を切り替えて剛が今日ここへ来た目的を確かめた。

「いや、今日はすみれじゃなくて、三佳ちゃんに会いに来たんだよ。どうしても話したい事があったから、10分、いや5分で良いから俺に時間をくれないかな」

「話があるならここで聞くけど、それじゃ駄目なの」

「できれば二人で話したいんだ。駄目かな」

 三佳は困った顔をして二郎に助けを求めたが、二郎もまさかすみれじゃなくて三佳に用があるとは考えておらず、申し訳なさそうに三佳に謝罪のアイコンタクトを送っていたところ、状況を察した大和が自分と剛を重ね合わせて、尊に続き剛にも援護射撃を行った。

「馬場さん、事情は知らないけど、これだけ言うからには余程大切な話があるに違いないよ。わざわざここまで君に会いに来ているのだから、話だけでも聞いてあげたらどうだろうか」

「小野。・・・ありがとう。でも、三佳ちゃんの気が進まないなら無理することないよ。俺はここで帰るから、気にしないで楽しんでくれよ。いきなり来て変なこと言ってゴメンな。二郎も呼んでくれてありがとうよ」

 剛は三佳の様子から諦めて帰ろうとしたとき、三佳から返事があった。

「分かったよ、つよぽん。帰る必要まで無いから話を聞かせて。どうしたら良いかな」

 三佳は覚悟を決めて剛の申し出を受け入れた。

「無理言ってごめんよ、ありがとう。それじゃ、悪いけど三佳ちゃんをちょっと借りるぜ、二郎」

「わかったわ。ちょっと行ってくるね、二郎君」

「おう、気をつけてな」

 二人はなぜか二郎に許可を得るように声を掛けて人混みの中へ入っていった。

(しまったな。てっきりすみれと剛が遊園地デート以来いい仲になっていると勘違いしていたわ。三佳、ゴメン。どうにか上手く乗り切ってくれ)

 二郎はすみれがまだ剛を好きだと勘違いしており、三佳とすみれの関係を心配して、何事もないことを心の奥で祈るのであった。


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