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第五話

一応拘束してみた<Ⅴ>

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「主様、最悪の場合逃げて」

 俺が悩んでいるのを察してアティウラが顔だけ振り返って言う。
 それはつまり自分だけ残って、俺達だけ逃げろということなのだろう。

「冗談じゃない。そんなことしないし、させないよ」

 と、気持ちを切り替えて相手を見る。
 しかし土竜の進む速度は先ほどよりもゆっくりで、またもあくびをしていた。
 なんか微妙に緊張感が……もしかしてこいつ眠いのか?

「土竜よ。もしかして眠いのなら戦いを止めないか?」

『……ふわぁ、小さき者よ。そうしたいのは山々だが命令なので仕方がないのだ』

 先ほどの土竜よりもかなり温厚な性格のようだった。
 あの銃は使用者とその仲間の支配下に置くことが出来るが、性格や性質まで変わるわけではない。

 だから今の土竜は眠気に抗いながらも、前に出て俺達に攻撃しようとしている。

「よしっ!」

 雑嚢から卿御洲くんの銃を取り出すと土竜に向けて構えた。

「な!? 貴様何故それを!」

 俺が持っているものが分かったのか、おっさんが焦った声を出すと同時に引き金を引くとあの古典SF光線が土竜に当たる。

『……ん? んー? 小さき者よ、今何をした?』

「あんたに掛かっていた強制の魔法を解いた。これで自由だ」

『そうか……小さき者よ、感謝する。……ふわぁ、少し寝よう』

 そう言ってその場でうずくまって眠ってしまう。すげえマイペースな土竜だなおい、俺達に攻撃を受けるとか全く考えていないんだな。
 それくらい地上に敵は居ないって思っているんだな。

「ば、バカな!? おい! 動け! 動けというのだ! うわ!?」

 櫓の上で地団駄を踏むおっさんを鬱陶しいと思ったのか身じろぎをして振り下ろしたのだった。

「ひい!?」

 一緒に落とされた操縦していた傭兵は悲鳴を上げて逃げ出す。
 土竜が壁を壊したおかげで、そこに逃げ場が出来ていた。

「ま、待て! 貴様等の顔は覚えたからな……ぐはっ! あ、あれ……な、なんだ?」

 捨て台詞を吐いて逃げようとした黒焦げ筋肉の胸からいつの間にか青白く光る何かが突き出ていた。

「え、ウソだろ?」

 その背後に黒い人影がいた。その人物は全身黒一色に統一した鎧に兜にマント。この人物を昨夜見た。そう……。

「魔王!?」

「な!?」

 俺が思わず声に出すと、つられて黒焦げさんが振り返る。

「ま、魔王……さま?」

「本当に?」

「魔王……?」

 女性陣は信じられないといった顔で魔王を見ている。

「久しいな」

「ひっ!? ぐはっ、ま……まおう……さま」

 驚いた拍子に口から血を吐いた。

「あれが魔王なの? 本当に? 本物なの? でもなんでこんなところに!?」

 デルが少し混乱したように俺に聞いてくる。だが俺も同じくらい混乱していて何も言えなかった。
 サーチに一切引っ掛からなかったのはどういうわけなんだ!?

「一思いのつもりだったが、どうやら貴様はこの世ならざる存在となってしまったか」

 確かにどう見ても背後から綺麗に心臓の辺りを一突きに貫通させ胸から刃先が出ている。普通あんなところ貫かれたら即死だろう。
 一応デルの魔法で表皮のコーティングを焼いたけど、それでもまだ相当な防御力が残っているはずで、それをあんな涼しい顔でさっくりと貫通させる魔王ってどれだけ強いんだ?

「勝てぬ相手に逃げるのは構わぬ。だが逃げるふりをして不意打ちをするのならもっとしっかりとやれ、全てを読まれているではないか」

 魔王の背後から、更に新たな人物が現れた。
 褐色の肌に長い耳、おそらくダークエルフだが性別が分かりづらい。そして魔術師風の男性の二人。どっちもメッチャ美形やん。

「全くだ。ストームナイト……いや、今はただの脱走兵か」
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