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第五話
アランディ砦の攻防<Ⅰ>
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今から3年前のアランディ砦。
谷間を塞ぐように築かれた石の壁は高さ10mに幅は総延長800mにも及ぶ。
その城壁の通路には数10mおきに見張りが配置されていた。
「ふわぁぁ……、早く見張りの時間終わらねーかな」
「おい、隊長に見つかったらドヤされるぞ」
「大丈夫だよ。もう何年も魔王軍は攻めてきていないじゃないか。城門だって一枚目すら越えられていないし、新しい魔王は臆病で戦争なんかしたくないんだよ」
元々この砦は先代の魔王が築いた砦である。それを精鋭の勇者達が強襲して奪い取りこの強大な壁を張って難攻不落の砦として人間の側が占領しているのである。
強固な城壁を諦めて門を攻めたとしても、そこは3重になっておりむしろ壁よりも攻略が難しいとされていた。
何度となく奪還しようと魔王軍は大規模な攻勢をかけてきたが、その都度この壁は耐え抜いてきた。
そして数年前に新たな魔王が誕生すると砦の奪還を諦めたのか、消極的で散発的な攻撃が起こる程度であった。
「もうすぐ子供が生まれるんだ。だから気になっちまってよ」
「ったく、後は俺が見ているからお前は先に帰って良いよ」
「いいのか?」
「その代わり今度一杯おごれよ」
「すまない!」
砦を預かる兵士達は最前線ということもあり比較的精鋭に属していたが、やはり戦闘がなくなるにつれて規律が緩んでいくのは避けられなかった。
「やれやれ、ったく幸せそうな顔しやがって、あー、俺も嫁さん欲しいかも……ん、なんだあれは?」
壁の向こう側、魔王の領地の上空に複数の点のようなものが見えた。
兵士の彼は目をこらしてよく見ると羽を動かす姿が見て取れた。
「まじか!?」
慌てて警戒を知らす鐘を慌てて鳴らす兵士。
「くそ! なんでこんな日に!」
本来であれば鐘を鳴らすのと同時に、もう一人が部隊長に知らせに走るようになっている。
だが規律が多少緩んでいたとしても彼らは激戦を戦い抜いた精鋭である。直ぐさま対処のためにそれぞれが動き始めていた。
びゅー!
「うお!?」
彼の頭の上を複数の竜が飛んでいく。
「頼むぜ! 竜騎士さん達よ!」
小さな点だったそれは徐々に大きくなっていき、それが竜種の何かであることまで分かった頃、砦から最強の竜騎士軍団が出撃していったのだった。
「あれは……ワイバーンか?」
相手はどうやらワイバーンという竜の劣化種でしかも4騎しかないない。それに対してこちらの陣営は若いとはいえ本物の竜で10騎もいるためまず負けることはない。
「やれやれ、魔王軍は簡単な数も数えられないのか」
もうすぐ衝突するというところで相手のワイバーンは更にスピードを上げて竜を迂回しながらこちらに向かってくる。
「な!? 嘘だろ?」
砦の方は無謀な特効かと慌てて対空兵器を空に向け始める。
これらは異世界の勇者が考えたもので壁の通路に設置した巨大なクロスボウのようなもので、後ろに付いているハンドルを回すことで自動的にツルを引き矢を装填し発射するモノである。
だがワイバーン騎兵達は対空兵器の射程を知っているのか。それが届かないギリギリの空を飛び壁を越えて砦も越え、そして人間の領地へと飛び去っていく。
「ふざけるな! くそ! このトカゲ野郎絶対に潰す!」
「領土に入れるな! ワイバーン如きに抜かれたとあれば我らの恥となる!」
戦わず逃げたワイバーン騎兵達に、血が上った竜騎兵達は一斉に彼らを追うのであった。
谷間を塞ぐように築かれた石の壁は高さ10mに幅は総延長800mにも及ぶ。
その城壁の通路には数10mおきに見張りが配置されていた。
「ふわぁぁ……、早く見張りの時間終わらねーかな」
「おい、隊長に見つかったらドヤされるぞ」
「大丈夫だよ。もう何年も魔王軍は攻めてきていないじゃないか。城門だって一枚目すら越えられていないし、新しい魔王は臆病で戦争なんかしたくないんだよ」
元々この砦は先代の魔王が築いた砦である。それを精鋭の勇者達が強襲して奪い取りこの強大な壁を張って難攻不落の砦として人間の側が占領しているのである。
強固な城壁を諦めて門を攻めたとしても、そこは3重になっておりむしろ壁よりも攻略が難しいとされていた。
何度となく奪還しようと魔王軍は大規模な攻勢をかけてきたが、その都度この壁は耐え抜いてきた。
そして数年前に新たな魔王が誕生すると砦の奪還を諦めたのか、消極的で散発的な攻撃が起こる程度であった。
「もうすぐ子供が生まれるんだ。だから気になっちまってよ」
「ったく、後は俺が見ているからお前は先に帰って良いよ」
「いいのか?」
「その代わり今度一杯おごれよ」
「すまない!」
砦を預かる兵士達は最前線ということもあり比較的精鋭に属していたが、やはり戦闘がなくなるにつれて規律が緩んでいくのは避けられなかった。
「やれやれ、ったく幸せそうな顔しやがって、あー、俺も嫁さん欲しいかも……ん、なんだあれは?」
壁の向こう側、魔王の領地の上空に複数の点のようなものが見えた。
兵士の彼は目をこらしてよく見ると羽を動かす姿が見て取れた。
「まじか!?」
慌てて警戒を知らす鐘を慌てて鳴らす兵士。
「くそ! なんでこんな日に!」
本来であれば鐘を鳴らすのと同時に、もう一人が部隊長に知らせに走るようになっている。
だが規律が多少緩んでいたとしても彼らは激戦を戦い抜いた精鋭である。直ぐさま対処のためにそれぞれが動き始めていた。
びゅー!
「うお!?」
彼の頭の上を複数の竜が飛んでいく。
「頼むぜ! 竜騎士さん達よ!」
小さな点だったそれは徐々に大きくなっていき、それが竜種の何かであることまで分かった頃、砦から最強の竜騎士軍団が出撃していったのだった。
「あれは……ワイバーンか?」
相手はどうやらワイバーンという竜の劣化種でしかも4騎しかないない。それに対してこちらの陣営は若いとはいえ本物の竜で10騎もいるためまず負けることはない。
「やれやれ、魔王軍は簡単な数も数えられないのか」
もうすぐ衝突するというところで相手のワイバーンは更にスピードを上げて竜を迂回しながらこちらに向かってくる。
「な!? 嘘だろ?」
砦の方は無謀な特効かと慌てて対空兵器を空に向け始める。
これらは異世界の勇者が考えたもので壁の通路に設置した巨大なクロスボウのようなもので、後ろに付いているハンドルを回すことで自動的にツルを引き矢を装填し発射するモノである。
だがワイバーン騎兵達は対空兵器の射程を知っているのか。それが届かないギリギリの空を飛び壁を越えて砦も越え、そして人間の領地へと飛び去っていく。
「ふざけるな! くそ! このトカゲ野郎絶対に潰す!」
「領土に入れるな! ワイバーン如きに抜かれたとあれば我らの恥となる!」
戦わず逃げたワイバーン騎兵達に、血が上った竜騎兵達は一斉に彼らを追うのであった。
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