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第五話
引き受けたものの<Ⅰ>
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とりあえず今日は大分日が落ちたので明日の朝出発する旨を伝えて合議院を後にした。
今回の件で何かしらヒントがあるかもしれないと思って失踪した人の家族に会いに行ってみることにする。
この辺りだけど有名人なのであっさりと場所は分かった。
「大きな屋敷だな」
だが門番らしき人はいないので中に入ると、使用人らしき人物に声を掛けられ自分達の身分を話すと館から一人の女性が出て来た。
やはり最初はこちらを胡散臭く見ていたが、セレーネが本物の聖女だと分かると対応が代わりあっさりと話を始めてくれた。
「主人が生きているのですか?」
「ええ、おそらく。それで誘拐の可能性がありそうなのですが相手から何か要求などはありませんか?」
何故か婦人は生きていると聞いてあまり喜ぶ様子はなかったのに違和感を感じつつ話を進める。
「居なくなって既に10日経ちますが、その様な要求など全くありません」
地位も財産もあるので自分から失踪するなんてのは考えづらい。そうなるとやはりトラブルに巻き込まれる可能性が高いか。だとすると厄介なのが相手っぽいな。
「何かトラブル的なものはありませんでしたか?」
「商売人ですので恨まれることは普通にありますので……」
それもそうか。思い当たる人が多すぎて分からないか。
もしかしたら、あの合議員の誰かかもしれない可能性も……あーっ、やっぱり面倒なことになっているかも。
「その……実は」
そこまで言っておいて話を止める夫人。
「なんでしょうか」
セレーネが付き添うように優しく話を聞こうとする。
「実は、夫は数年前から少しおかしいのです」
「おかしいとは?」
「それまでの夫は気が弱くて流されやすくて商人としてはダメな人だったのですが私達家族には優しいいい人だったのです。しかし、ある日突然別人のように……いえ、もう完全な別人になってしまったのです」
別人になるって何か衝撃的なことが起きたのかな?
「それまで懇意にしていた取引相手もより安いところにいきなり乗り換えたり、販売経路を勝手に変えたりしたんです」
今の日本だったらそんなの日常だけど、それでも相当恨まれるんだよねだ。そうなると恨みを持つ相手が見えないところいてもおかしくない。
とはいえお互いに商売人、下手な報復をして噂になればそした方も良くない噂がたって最悪取引が出来なくなってしまうので、そんな分かりやすいことはしないと思う。
そうなると……他国とか犯罪系とか? 実はやばいのと付き合いがあったりして……うわぁ、嫌な予感が増大していくなぁ。
「本当に主人は生きているのでしょうか?」
「はい。生きています」
はっきりとそう伝えると、婦人は一瞬喜びと悲壮が混じった顔をした。
「あ、い、いえ……ごめんなさい。本来であれば嬉しいはずなのに今は彼が居ない方が気持ちが落ち着いていて……」
婦人はハンカチで口元を塞いで俯いたままになってしまうのだった。
「マジか……」
館を後にして最初に出て来た言葉がそれであった。
「婦人には色々と同情するけど……もうヤバい予感しかしないんだけど」
「どうなさいます? ギルドに掛け合って依頼を断りましょうか」
「それもそれで怖いんだよね。色々知っちゃった感があるし」
あまり下手な動きをすれば、評議員だけじゃなくその商人をさらったとおぼしき連中にまで目を付けられるかもしれない。
「おや、あんたは……もしかして」
ぐったりしていると何処からか声を掛けられた。しかしこの街は初めてで知り合いなんているはずが……と思ったら。
「あ、ダンジョンマスター!」
「違うって元だよ。元! はははっ!」
がしっと抱きしめられた。なにこの欧米的な挨拶。
「なんだい、君はここの人と知り合いなのかい?」
「いや、ちょっと依頼を受けただけで」
「そうか。確かに君ほどの腕があるのならそうかもな。おっとせっかくだし、こんなところで立ち話もなんだ。どうだいちょっとくらい」
陽気なおっさんに誘われるがままに彼の行きつけの酒場へと連れて行かれるのだった。
今回の件で何かしらヒントがあるかもしれないと思って失踪した人の家族に会いに行ってみることにする。
この辺りだけど有名人なのであっさりと場所は分かった。
「大きな屋敷だな」
だが門番らしき人はいないので中に入ると、使用人らしき人物に声を掛けられ自分達の身分を話すと館から一人の女性が出て来た。
やはり最初はこちらを胡散臭く見ていたが、セレーネが本物の聖女だと分かると対応が代わりあっさりと話を始めてくれた。
「主人が生きているのですか?」
「ええ、おそらく。それで誘拐の可能性がありそうなのですが相手から何か要求などはありませんか?」
何故か婦人は生きていると聞いてあまり喜ぶ様子はなかったのに違和感を感じつつ話を進める。
「居なくなって既に10日経ちますが、その様な要求など全くありません」
地位も財産もあるので自分から失踪するなんてのは考えづらい。そうなるとやはりトラブルに巻き込まれる可能性が高いか。だとすると厄介なのが相手っぽいな。
「何かトラブル的なものはありませんでしたか?」
「商売人ですので恨まれることは普通にありますので……」
それもそうか。思い当たる人が多すぎて分からないか。
もしかしたら、あの合議員の誰かかもしれない可能性も……あーっ、やっぱり面倒なことになっているかも。
「その……実は」
そこまで言っておいて話を止める夫人。
「なんでしょうか」
セレーネが付き添うように優しく話を聞こうとする。
「実は、夫は数年前から少しおかしいのです」
「おかしいとは?」
「それまでの夫は気が弱くて流されやすくて商人としてはダメな人だったのですが私達家族には優しいいい人だったのです。しかし、ある日突然別人のように……いえ、もう完全な別人になってしまったのです」
別人になるって何か衝撃的なことが起きたのかな?
「それまで懇意にしていた取引相手もより安いところにいきなり乗り換えたり、販売経路を勝手に変えたりしたんです」
今の日本だったらそんなの日常だけど、それでも相当恨まれるんだよねだ。そうなると恨みを持つ相手が見えないところいてもおかしくない。
とはいえお互いに商売人、下手な報復をして噂になればそした方も良くない噂がたって最悪取引が出来なくなってしまうので、そんな分かりやすいことはしないと思う。
そうなると……他国とか犯罪系とか? 実はやばいのと付き合いがあったりして……うわぁ、嫌な予感が増大していくなぁ。
「本当に主人は生きているのでしょうか?」
「はい。生きています」
はっきりとそう伝えると、婦人は一瞬喜びと悲壮が混じった顔をした。
「あ、い、いえ……ごめんなさい。本来であれば嬉しいはずなのに今は彼が居ない方が気持ちが落ち着いていて……」
婦人はハンカチで口元を塞いで俯いたままになってしまうのだった。
「マジか……」
館を後にして最初に出て来た言葉がそれであった。
「婦人には色々と同情するけど……もうヤバい予感しかしないんだけど」
「どうなさいます? ギルドに掛け合って依頼を断りましょうか」
「それもそれで怖いんだよね。色々知っちゃった感があるし」
あまり下手な動きをすれば、評議員だけじゃなくその商人をさらったとおぼしき連中にまで目を付けられるかもしれない。
「おや、あんたは……もしかして」
ぐったりしていると何処からか声を掛けられた。しかしこの街は初めてで知り合いなんているはずが……と思ったら。
「あ、ダンジョンマスター!」
「違うって元だよ。元! はははっ!」
がしっと抱きしめられた。なにこの欧米的な挨拶。
「なんだい、君はここの人と知り合いなのかい?」
「いや、ちょっと依頼を受けただけで」
「そうか。確かに君ほどの腕があるのならそうかもな。おっとせっかくだし、こんなところで立ち話もなんだ。どうだいちょっとくらい」
陽気なおっさんに誘われるがままに彼の行きつけの酒場へと連れて行かれるのだった。
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