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第五話

神官戦士との旅<Ⅶ>

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「ぐへぇぇ……な、なんなのですか。この人、本職は魔法使いですよね!?」

「ああ、本当に化け物じみているよな」

「ちょ、せっかく教えているのに酷くない?」

 またも俺とアンリは疲れ切って座り込んでいた。

 逃げた先にデルがいて話をしたら楽しそうだとこいつまで余計な稽古を付けやがった。ちなみにアティウラは掃除と洗濯があるからと既に席を外している。

 デルは母親直伝の素手格闘が中心である。人間や人間型の魔物を相手に素手や短剣程度でも咄嗟に戦える術を教えてくれたんだが。

 多少息を切らせているが普通に立ってニヤニヤした憎たらしい笑顔を見せるデル。

「少し自信を失いそうです」

「だろうね」

 体力もそうだが、俺とアンリで同時に攻撃をしたが一つの攻撃も当たらなかった。

「も、申し訳ありません……貴女を侮っておりました」

「そう? なら良かった」

「魔術師というのは仮の姿だったんですね」

「いやいやいや違うから、僕はちゃんとした魔術師だから!」

 そういえばまだデルはアンリが見ている前でちゃんとした魔法を使った姿を見せたことがなかったな。
 まあゴブリンやコボルド相手に彼女の魔法はオーバーパワーだし。

「分かった。次は凄いの見せて上げるから!」


「ぎゃあ! 巨大ムカデぇ!!」

 叫びながら女性陣全員が走って逃げ出した。

「ちょ!? アティウラは以前巨虫倒してたじゃん!」

「脚が多いのは気持ち悪い!」

 どういう差?

「ならば、ここは私が! うぉう!!」

 ごいーんっ!

「硬っ!?」

 アンリが意を決してメイスでぶん殴ったが、巨大ムカデの表皮は相当硬いらしく鈍器とは相性が悪いみたいだった。

 カチャカチャカチャ!

 頭を高い位置に持っていって牙のあたりを鳴らしているのか嫌な音を立ててこっちを威嚇したと思ったら、一気に落ちるように攻撃してきた。

「“バリア”!」

 がいんっ! がいんっ! がいんっ!!

 セレーネが張ったバリアを数枚割ってなんとか勢いを殺して止めた。

「キモい! キモい! キモいぃ!」

 巨大ムカデの顔はなんとも形容しがたく、人間はそれを見ると何故か嫌悪感を催すらしい。

「デル! バリアを壊そうとしている間に頼む!」

 こういうときこそ彼女の出番である。

「ええ!? うう……キモいぃ……ぐっ……、全員屈んで!」

 デルが両手をムカデの方に向けると、白く輝く紋様が全身に浮かび上がる。

「なに、あれ……」

 だが見馴れないアンリだけはその光景に目を奪われていた。

「屈みなさい!」

 慌てて、アティウラがアンリの頭を掴むと下に押さえ込んでいく。

「“サンダーボルト”!」

 バチバチバチッ!

「うわ、眩し……」

 頭を押さえ込まれて屈んでいるアンリだが、それでもチラリと見てしまう。

 デルの両手から放たれた強烈な光と轟音、その電が巨大ムカデを襲う。
 声帯がないのか巨大ムカデは悲鳴こそあげないが、そうとう効いているらしくその巨体で身じろぎしてのたうち回っている。

 放電現象は数秒続いて、時折ムカデ以外の岩や木などにも当たってそこを黒焦げにしていく。

 ぼんっ!

「熱っ!? なにこれ……うぎゃ、汚っ!」

 強力な電撃を受けた外皮が破裂したらしく中から体液が噴き出した。

 巨大ムカデは身体の半分を黒焦げにされて相当量の体液も失い、そのまま力なく仰向けになって倒れた。

「ふう……、みんな大丈夫!?」

 魔法を終えたデルが真っ先に身内の心配をする。
 相変わらず近距離で見る彼女の攻撃魔法は強烈だな。

 ファイアーボールやアシッドスプラッシュでは周囲の被害が大きすぎるので、確かにサンダーボルトが最も的確だったと言える。

「大丈夫じゃない」

 最もムカデの近くにいたアンリとアティウラは電撃によるダメージはないものの、巨大ムカデの体液を浴びたらしくヌメヌメしていた。なんかちょっとエグい。

「うわぁ……ムカデの体液って青いんだね」

 困ったような顔でデルが言う。

「セレーネの方は?」

「バリアが全て破壊されましたが、わたくしの方はなんとも」

「マジか。相変わらず凄え破壊力だな」

「……凄かった」

 アティウラはメイド服を汚されて嫌な顔をしているが、となりのアンリは少し呆然とした顔でデルを見ている。

「な、なに、って、もしかしてやっぱり電撃が当たった!?」

「い、いえ大丈夫です。あ、あれは魔法なのですか?」

「う、うんそうだけど……」

「神学校の授業で見たのと全く違ってて……、……うっ、く、臭い……おうぇぇぇ」

 感心した様子のアンリだったが、掛けられた体液が臭かったようで思い切り吐き出した。

「……うっ、う、く」

 どうやらデルが苦しそうになった様でデルにMPの補給が必要だった。

「とりあえず少し離れたところに移動してシャワー浴びなよ」

「うっ……ありがとうございます」

 シェルターを展開すると、二人はそのまま地下に降りていった。

「んちゅっ……」

「ちょ!? んぐっ!?」

 二人の姿が見えなくなった瞬間、デルが背後から抱きついてきて唇を奪うように貪ってきた。
 特性として一度の魔法で全てのMPを消費するので、デルとは最もキスの回数が多くなっている。それにしても首をぐるりと回されてちょっと痛い。

 既にダイアログは出ていて手で合図を出すが彼女は止めようとしない。

「……ふう、ありがとう。楽になったよ」

 少し上気して涎で汚れた口元を拭いながらそう言った。

「あ、うん」

 そんな顔を見せるものだから、俺の方まで恥ずかしくなってしまうのだった。
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