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第五話
神官戦士との旅<Ⅲ>
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「アティウラ、ごめん……」
食事を終えて火を囲っていると、ここのところ何ともなかったが思い出したかのように身体が急に震え始め、直ぐさまセレーネに抱きつこうとしたがアンリの目に気づいてアティウラに頼むことに。
「構いません。どうぞ」
俺の言葉を察して出迎えるように両手を広げてくれる。
そのまま飛び込むように抱き……。
ぽふん。
直ぐには抱きつかず、先日のこともあり気になったので彼女の胸の辺りをノックしてみると物凄く柔らかな感触がした。
「おいっ、勇者モドキなにやってんだ!」
「鋼鉄製かどうか調べたんだよ」
「バカなの。女性の胸が鋼鉄製な分けが……いや師匠だから有り得るかもしれない」
「あり得ない」
さすがに胸当ては脱いでいた。
「抜かりはありません」
ドヤ顔のアティウラ。なんか可愛い感じがしたので何も言わないでおこう。
「さ、さあ主様」
だがアティウラは気にせず再度出迎えるように両手を開く。
「分かった」
今度こそ躊躇わずにそのまま彼女の胸に顔を埋めながら抱きついた。
柔らかくて温かくてとても良い匂いがする。
「大丈夫?」
「ごめん……いつものことだけど」
「ううん、そういう主様も可愛い」
そのまま黙って抱きしめてくれる。
「なにやってんだ。この勇者モドキは」
止めさせようとしたのか立ち上がるアンリ。
だが、その手をセレーネが掴んだ。
「止めなさい。アンリ」
「お姉様?」
「誰にでも恐怖を感じるときはあるのです。貴女だってつい先日それを知ったばかりでしょう?」
「それは……そうですけど……」
つい先日ゴブリンを倒した後、嘔吐を繰り返していたのを思い出したのかセレーネの言葉に素直に座り直した。
「でもこいつは勇者ではありませんか」
座り直して尚納得が出来ないアンリは反論をする。
「いや、普段はモドキ扱いしているじゃん」
本を読んでいたデルがボソッと突っ込む。
「確かに」
思わずアティウラもその言葉に同意する。
「師匠まで……」
味方は居ないのかと少しふて腐れたような顔をするアンリ。
「主様は他の勇者みたいに神々からの武具を授けられていない」
「そんな、だったらやっぱりただの勇者モドキではありませんか! じゃあどうしてお姉様や師匠はこいつに付いていくんですか?」
「だって主様だし」
「だって勇者様ですから」
「な!? それでは答えになっておりません!」
「どうしても構いたくなるから?」
「あ、それは分かります!」
「そこが可愛い」
「ですよね!
セレーネとアティウラの言葉が弾み出す。出来れば本人がいる前であまりそういう話はしないでいただきたいのですけど。
「そんな不純な話ではありません!」
「別に理由なんてどうでもいいじゃん」
面倒くせえのだろうか。赤と黒が混じった紋様を浮かび上がらせるデル。
「そもそも勇者は魔王討伐が神々から与えられた至上命令ではないのですか!」
「だからこいつはそのための武具を授けられていないじゃん。だからお前は勇者モドキって扱いをしているんだろ?」
紋様が徐々に赤色に埋まっていく。
「え、あ……それは……」
「自分だってつい先日まで魔物一匹倒せない半人前だったくせに、なんで都合の良いときだけ勇者って扱いをするんだよ! 一応こんなでも僕の里を救ってくれた恩人なんだ。あまり酷い扱いをするなら許さないぞ!」
デルの勢いに何も言葉が出なくなるアンリ。
「勇者様は基本的に誰も差別をしないのです。貴族であろうと奴隷であろうと男でも女でも、そして亜人や魔物にでさえ態度を変えません」
セレーネの言葉にうんうんと頷くアティウラ。
「勇者という立場を利用したりもしませんし、倒した魔物にすら慈悲を持つのです」
「ワイバーンにすらなんか謝っていたしね」
「だからこそ主様の言葉を信じられる」
「ええ、勇者様はわたくしを一人の人間として扱ってくれますし」
や、止めて、それ以上は本当に恥ずかしいから……。
あまりの恥ずかしさに気づかないふりをしてアティウラに抱きついたままでいる。
だがアンリは黙ったまま何も言わずにいるのであった。
食事を終えて火を囲っていると、ここのところ何ともなかったが思い出したかのように身体が急に震え始め、直ぐさまセレーネに抱きつこうとしたがアンリの目に気づいてアティウラに頼むことに。
「構いません。どうぞ」
俺の言葉を察して出迎えるように両手を広げてくれる。
そのまま飛び込むように抱き……。
ぽふん。
直ぐには抱きつかず、先日のこともあり気になったので彼女の胸の辺りをノックしてみると物凄く柔らかな感触がした。
「おいっ、勇者モドキなにやってんだ!」
「鋼鉄製かどうか調べたんだよ」
「バカなの。女性の胸が鋼鉄製な分けが……いや師匠だから有り得るかもしれない」
「あり得ない」
さすがに胸当ては脱いでいた。
「抜かりはありません」
ドヤ顔のアティウラ。なんか可愛い感じがしたので何も言わないでおこう。
「さ、さあ主様」
だがアティウラは気にせず再度出迎えるように両手を開く。
「分かった」
今度こそ躊躇わずにそのまま彼女の胸に顔を埋めながら抱きついた。
柔らかくて温かくてとても良い匂いがする。
「大丈夫?」
「ごめん……いつものことだけど」
「ううん、そういう主様も可愛い」
そのまま黙って抱きしめてくれる。
「なにやってんだ。この勇者モドキは」
止めさせようとしたのか立ち上がるアンリ。
だが、その手をセレーネが掴んだ。
「止めなさい。アンリ」
「お姉様?」
「誰にでも恐怖を感じるときはあるのです。貴女だってつい先日それを知ったばかりでしょう?」
「それは……そうですけど……」
つい先日ゴブリンを倒した後、嘔吐を繰り返していたのを思い出したのかセレーネの言葉に素直に座り直した。
「でもこいつは勇者ではありませんか」
座り直して尚納得が出来ないアンリは反論をする。
「いや、普段はモドキ扱いしているじゃん」
本を読んでいたデルがボソッと突っ込む。
「確かに」
思わずアティウラもその言葉に同意する。
「師匠まで……」
味方は居ないのかと少しふて腐れたような顔をするアンリ。
「主様は他の勇者みたいに神々からの武具を授けられていない」
「そんな、だったらやっぱりただの勇者モドキではありませんか! じゃあどうしてお姉様や師匠はこいつに付いていくんですか?」
「だって主様だし」
「だって勇者様ですから」
「な!? それでは答えになっておりません!」
「どうしても構いたくなるから?」
「あ、それは分かります!」
「そこが可愛い」
「ですよね!
セレーネとアティウラの言葉が弾み出す。出来れば本人がいる前であまりそういう話はしないでいただきたいのですけど。
「そんな不純な話ではありません!」
「別に理由なんてどうでもいいじゃん」
面倒くせえのだろうか。赤と黒が混じった紋様を浮かび上がらせるデル。
「そもそも勇者は魔王討伐が神々から与えられた至上命令ではないのですか!」
「だからこいつはそのための武具を授けられていないじゃん。だからお前は勇者モドキって扱いをしているんだろ?」
紋様が徐々に赤色に埋まっていく。
「え、あ……それは……」
「自分だってつい先日まで魔物一匹倒せない半人前だったくせに、なんで都合の良いときだけ勇者って扱いをするんだよ! 一応こんなでも僕の里を救ってくれた恩人なんだ。あまり酷い扱いをするなら許さないぞ!」
デルの勢いに何も言葉が出なくなるアンリ。
「勇者様は基本的に誰も差別をしないのです。貴族であろうと奴隷であろうと男でも女でも、そして亜人や魔物にでさえ態度を変えません」
セレーネの言葉にうんうんと頷くアティウラ。
「勇者という立場を利用したりもしませんし、倒した魔物にすら慈悲を持つのです」
「ワイバーンにすらなんか謝っていたしね」
「だからこそ主様の言葉を信じられる」
「ええ、勇者様はわたくしを一人の人間として扱ってくれますし」
や、止めて、それ以上は本当に恥ずかしいから……。
あまりの恥ずかしさに気づかないふりをしてアティウラに抱きついたままでいる。
だがアンリは黙ったまま何も言わずにいるのであった。
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