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第四話

ダンジョンマスター<Ⅱ>

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「ああもう……」

 デルがため息交じりに面倒くさそうな顔をする。

「もういいや。これだけ広いし、凄い魔法を使っても大丈夫だ。いっちゃえ!」

「いいの? あー、でもあれ石っぽいから火も電撃も効きが悪いと思う」

 直ぐさまサーチで調べるとどうやら石以外にも金属や木材なども使われている複合型のゴーレムらしい。

「えっと石と金属か。それを破壊するって……ドリル? いや確か学生時代の化学実験で……そうだ酸みたいに溶かすのってない?」

「酸? ああそういうことね……あるけど」

「あるのか。でも変なガスが出ないかな」

「そこは大丈夫。魔法の酸で溶かしても毒ガスとかは基本出ないから」

 さすが魔法、なんてご都合主義、いや便利な機能なんだ。

「じゃあ、いっちゃえ!」

「“アシッドスプラッシュ”!」

 デルの突き出した手の先から、無数の水泡が現れると化け物に向かってフワフワとシャボン玉のように飛んでいく。なんか妙に脱力系の魔法だな。

 化け物は自分に飛んでくる水泡を警戒して脚を止める。だが水泡は無数にあるため避けるようなことは出来ない。

 そのうち一つ目の水泡が化け物の身体に当たるとシャボン玉の様に破裂する。
 ジュッ! と音を立てて化け物の体表を溶かしたのだった。

 もちろん一発程度であればさほどのダメージもない。だが無数の泡が次々と当たって破裂し石像を溶かしていく。

「え、ちょ!?」

 黙って見ていた仮面のボスが驚きの声を上げる。
 全員が酸で溶かされていく化け物に意識が向かっている間に、俺の方はこっそりデルを連れて玉座の後ろに隠れるとキスしてMPを補充する。

 補充を終えて見てみると酸で溶かされたそいつは辛うじて原型が分かるくらいの状態だった。
 だがやはり魔法が過剰だったのか床の一部も溶けたりして大変な事になっている。

 一応ゴーレムは立ってはいるが既に脚も手も酸でほとんど溶かされている。

「よしっ、いける! 今のこいつが相手ならいける! 真打ち登場!」

 先ほど銅像群相手に少し戦えたからか、妙にテンションが高い俺様男。

「馬鹿なことを言うな!」

 あんな状態でもアンタの剣で倒せるわけないだろと思わず突っ込んでしまったが、全く耳に入っていないらしく走っていってしまう。

「とりゃあ!」

 ゴーレムだったそれは、とても動けるように見えなかったが敵が来たからかそれを迎撃しようと溶けて細くなった腕を横に振ってなぎ払おうとする。
 俺様男は慌てて剣でそれを受け止めようとするが、幾ら細くなったとしても重量のあるゴーレムの攻撃である。

 がいんっ!

「うわ!?」

 あっさりと持っていた剣が飛ばされてしまう。
 ゴーレムは返す刀で、もう一方の手で連続して攻撃してくる。

「え、うそ?」

 俺様男は武器を弾かれ素手である。しかも体勢を崩されて攻撃を避けることが出来ない。

「ふんっ!」

 気合いの入った掛け声と共に戦斧が飛んで来るとゴーレムの腕に直撃して深々と突き刺さった。
 突き刺さったところからバキバキと音を立てて腕ひ亀裂が入っていき俺様男の直ぐ目の前に腕が落ちた。

 どすんっ。

「うおっ!?」

「く……これまで、か……」

 そう言うとドワーフのおじさんはそのまま倒れてしまう。

「うおー!!」

 そこへ今度は勇者が走り出してきた。残った力を振り絞り酸の魔法でボロボロになったゴーレムに対して最後の攻撃を仕掛けてきた。

 手に持つ剣が輝くと一気に袈裟切りにする。肩の辺りから斜めに斬られたゴーレムは身体を真っ二つに別れたのだった。

 ボロボロと音を立てて崩れていくゴーレム。

「く……、倒せた……のか」

 そのまま力を使い切ったらしく勇者までももそこでぶっ倒れてしまう。

「あちゃー……倒しちゃったか」

 仮面の中でくぐもった声で呟いたのが聞こえた。

 パンパカパーン!!

 するとどこからともなく、ファンファーレが鳴り始めた。

「な、なに!?」

「なんだこれ……」

 急な展開に俺もデルも驚いて周りを見渡してしまう。

『コングラチュレーション!! おめでとうございま~す。ダンジョンの攻略が完了しましたぁ!』

 どこからともなく攻略完了のアナウンスが聞こえてきた。
 するとダンジョンマスターと呼ばれる男が懐から紙のようなモノを取り出すとそれを読み始める。

「え、えーっと……、よ、よくぞ我がダンジョンを攻略した! 此度は君達の勝ちとしよう! だが我はまたどこかで必ず復活する。しばらくの間さらばだ!」

 カンペを見ながら、結構な棒読みであった。
 間違いない。こいつはラスボスでもなんでもない。

『それではカウントダウンが始まりま~す。180秒前……』

「今度はなんだ?」

『このダンジョンはカウントが0と同時に完全に破壊されちゃいます。冒険中の皆様は最寄りのゲートに直ぐさまお入りくださいね~』

 なんとも軽めのアナウンスだが、言っていることはとんでもなかった。

「な、ど、どういうことだ!?」

「はい!?」

 なんとそのアナウンスに一番驚いているのは玉座の主だった。

「この迷宮ってアンタが作ったものじゃないの?」

「私にこんな凄いものを造れるわけがない」

 やはりそうか。これを造ったのは宇宙人のおっさんとかか。

「あんたは何も知らされていなかったのか?」

「あ、ああ……、攻略後は無力化して廃墟にすると聞かされていたんだが……」

 ダンジョンマスターは驚きを隠せない声だった。

「そ、そうか、そういうことか……終わったら全てを消して終わる。最初からそういうつもりだったのか」

 仮面で表情は分からないが妙に納得した声で諦めたかの様に玉座に座り込んだ。

「ちょっとあんた! そんなところに座っていないでゲートってのから逃げればいいじゃない」

 デルが突き出す短剣も今は恐ろしくないのかダンジョンマスターはがっくりと肩を落としていた。
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