247 / 388
第四話
入るときよりも出るときの方が問題だった
しおりを挟む
この世界では時間ギリギリまでゆっくり入るのが一般的らしい。
時間に追われた日本の現代人とは違って労働も短く、一日がゆっくりしているので時間が空けばそうやってのんびり過ごすらしい。
お風呂の温度は結構低め、温くてゆっくり入っていられる。
色は透明とは決して言えないが変な臭いなどはしない。
湯船にゆっくり入って、温まったらいったん出て身体を冷まして、また湯船に入るとそれを繰り返す。
一応少しは配慮してか、手ぬぐいみたいな薄い布で隠してくれているが透けているのでほとんど意味を成していない。というかむしろ見方次第ではこの方がよりエッチに見えるし。
最初なんてセレーネがべったりだったし、その後はアティウラが体中触りまくるしで大変だった。
二人とも柔らかすぎるんだよ! 特にアティウラ、毎度思うけどあんだけの重たい武器を振り回しているのにどうしてそんなに柔らかい身体してんだ。
見方によっては素晴らしく羨ましいことなのに何故か俺には苦行に。
こういうときは絶好調に身体が反応するが、でもいざとなったらまた怖くなって萎むんだろうな。
あのときのことが未だトラウマとして抜け出せずにいるせいで、どうにもうだつの上がらない状態が続いている。
だからって無責任に彼女達を抱くのも違う気はするけどさ。
俺は湯船からなかなか出る頃合いが掴めずにいるからか余計なことばかり考えてしまう。
うーん、かれこれ結構な時間入っているがそろそろ上がらないだろうか。
ぬるめのお風呂とはいえこれだけ入っているとさすがに茹だってきている。
「隣、失礼。よっと……」
いきなりアティウラが身体がくっつくほどの距離で湯船に入ってきた。
「湯船は広いんだから、そんな近くに座らなくても」
目の行き場に困るため、変な挙動になってしまう。
「冒険者になったけど主様は今後はどうする?」
「今後?」
「魔王の討伐とか」
「え、あー……」
そういえば勇者にはそういう目的がありましたね……だが世界をネタバレしてしまった俺にはそれが茶番にしか思えないので全く興味がなかった。
今のところ玉さんを図書館の街に連れて行くという目的はあるけど、それ以外は具体的なことは何も決まっていない。
うーん、やっぱり魔王討伐? でも俺は地球には帰れないし、帰っても辛い日々が続くか死ぬだけだし。だったらこっちで暮らす方が楽だし楽しいし。
「よいしょっと……わたくしも失礼致しますね」
少し考えていたら、今度はセレーネがアティウラの逆側に入ってきた。
っと思ったら、デルもいつの間にか俺の後ろに座っていた。
「なんだか、面白そうなお話のようでしたのでわたくしも参加させてください」
みんな今後のことは気になるところなんだろう。
「魔王ってどれくらい悪者なの?」
「うーん、僕ら“亜人”にとってそこまで悪い存在じゃないんだけど“人間”から見てみれば、多分悪夢のような存在じゃないかな」
“亜人”と“人間”では魔王の見方が違うのか。
つまり“人間”にとって魔王は魔王たり得る存在である……。
思わずセレーネの方を見てしまうと視線に気付いた彼女は困ったような笑顔で返してきた。
「魔王はここからずっと西方の彼方から東に侵攻しているのですけども……」
少しだけ困ったような笑顔を見せ、デルやアティウラの顔を見てから説明を始めるセレーネだったが、やはり話しづらいらしい。
「魔王が侵攻している場所は元々人間が住んでいた場所じゃなくて亜人や獣人が多く暮らす未開の土地だったんだよ」
説明しづらそうにしているセレーネの代わりにデルが話し始める。
「もちろん今は人間達の国になっているから、人間達から見れば略奪者以外の何ものでも無いけどね」
うんうんと頷くアティウラ、どうやら本当のことらしい。
なんだ魔王っていうのは、どこからともなく現れて悪の軍団を造り上げて世の中を転覆させる、もしくは破壊するのが目的とかじゃないのか?
「でも古い書物とかを読むと、あの土地自体は人間の領地だったとも書かれているのも結構多いんだ」
「まじで?」
「わたくし共はその様に教えられております。だからあの地の正統な継承者は人間だと」
歴史なんてのは書いた著者の主観で都合よく書き換えられたりするものであるし、それぞれの言い分や正当性は存在して当たり前。
事実だけを見れば長らく人間と魔王はその土地を奪い合っているわけだ。
少し驚かされたのは魔王軍にちゃんとした開戦事由が存在していることだった。
もっと適当で残忍なだけの話だと思っていたのだが、少しだけ彼らの見方を変えた方が良いかもしれない。
もちろんそれにより沢山の人が死んでいる事実は変わらないし、俺や俺の周に何かがあるのなら全力で降りかかる火の粉は払うつもりだ。
あまりどうでもよかった魔王だったが、別の意味で興味を憶え始めるのだった。
「ま、まあ、主義主張が入れ違ったりするのは仕方がないよ。今から真実なんて探すのは難しいし」
もし一つの真実が分かったとしても、それが全ての真実になるとは限らない。
最初はボタンの掛け違え程度のずれが、その後大きくなっていくこともある。
って考えごとをしている間に、三人が微妙な空気になっていた。こういう歴史問題ってデリケートだったんだっけ……。
あまり外国人と接しない典型的な日本人の俺はそれに気付かずにいた。
「とりあえず今は冒険者となってセレーネやアティウラの期待を裏切らないように、財宝探しでもしていようと……思う……」
「はい。是非っ!」
「うん、生きるのにお金は必要」
まあ、大きな話の前に自分達の生活の……。
「図書館の街にはまだ多くの財宝が眠っていると言われていますから、そこをアタックするのもいいかもしれませんね」
「このメンバーなら竜の巣を攻めるのもあり」
とりあえず即物的な話しの流れにしていたが思った以上に彼女達は話に乗ってくれた。
今日明日も分からない身なので、今は歴史よりもお金だよね……。
しかし……なんかさっきから視界が妙にぼやけているような……。
「あんた、大丈夫?」
「ん、あー……、うん、だめかも……ブクブクブクブク……」
「ちょー!?」
時間に追われた日本の現代人とは違って労働も短く、一日がゆっくりしているので時間が空けばそうやってのんびり過ごすらしい。
お風呂の温度は結構低め、温くてゆっくり入っていられる。
色は透明とは決して言えないが変な臭いなどはしない。
湯船にゆっくり入って、温まったらいったん出て身体を冷まして、また湯船に入るとそれを繰り返す。
一応少しは配慮してか、手ぬぐいみたいな薄い布で隠してくれているが透けているのでほとんど意味を成していない。というかむしろ見方次第ではこの方がよりエッチに見えるし。
最初なんてセレーネがべったりだったし、その後はアティウラが体中触りまくるしで大変だった。
二人とも柔らかすぎるんだよ! 特にアティウラ、毎度思うけどあんだけの重たい武器を振り回しているのにどうしてそんなに柔らかい身体してんだ。
見方によっては素晴らしく羨ましいことなのに何故か俺には苦行に。
こういうときは絶好調に身体が反応するが、でもいざとなったらまた怖くなって萎むんだろうな。
あのときのことが未だトラウマとして抜け出せずにいるせいで、どうにもうだつの上がらない状態が続いている。
だからって無責任に彼女達を抱くのも違う気はするけどさ。
俺は湯船からなかなか出る頃合いが掴めずにいるからか余計なことばかり考えてしまう。
うーん、かれこれ結構な時間入っているがそろそろ上がらないだろうか。
ぬるめのお風呂とはいえこれだけ入っているとさすがに茹だってきている。
「隣、失礼。よっと……」
いきなりアティウラが身体がくっつくほどの距離で湯船に入ってきた。
「湯船は広いんだから、そんな近くに座らなくても」
目の行き場に困るため、変な挙動になってしまう。
「冒険者になったけど主様は今後はどうする?」
「今後?」
「魔王の討伐とか」
「え、あー……」
そういえば勇者にはそういう目的がありましたね……だが世界をネタバレしてしまった俺にはそれが茶番にしか思えないので全く興味がなかった。
今のところ玉さんを図書館の街に連れて行くという目的はあるけど、それ以外は具体的なことは何も決まっていない。
うーん、やっぱり魔王討伐? でも俺は地球には帰れないし、帰っても辛い日々が続くか死ぬだけだし。だったらこっちで暮らす方が楽だし楽しいし。
「よいしょっと……わたくしも失礼致しますね」
少し考えていたら、今度はセレーネがアティウラの逆側に入ってきた。
っと思ったら、デルもいつの間にか俺の後ろに座っていた。
「なんだか、面白そうなお話のようでしたのでわたくしも参加させてください」
みんな今後のことは気になるところなんだろう。
「魔王ってどれくらい悪者なの?」
「うーん、僕ら“亜人”にとってそこまで悪い存在じゃないんだけど“人間”から見てみれば、多分悪夢のような存在じゃないかな」
“亜人”と“人間”では魔王の見方が違うのか。
つまり“人間”にとって魔王は魔王たり得る存在である……。
思わずセレーネの方を見てしまうと視線に気付いた彼女は困ったような笑顔で返してきた。
「魔王はここからずっと西方の彼方から東に侵攻しているのですけども……」
少しだけ困ったような笑顔を見せ、デルやアティウラの顔を見てから説明を始めるセレーネだったが、やはり話しづらいらしい。
「魔王が侵攻している場所は元々人間が住んでいた場所じゃなくて亜人や獣人が多く暮らす未開の土地だったんだよ」
説明しづらそうにしているセレーネの代わりにデルが話し始める。
「もちろん今は人間達の国になっているから、人間達から見れば略奪者以外の何ものでも無いけどね」
うんうんと頷くアティウラ、どうやら本当のことらしい。
なんだ魔王っていうのは、どこからともなく現れて悪の軍団を造り上げて世の中を転覆させる、もしくは破壊するのが目的とかじゃないのか?
「でも古い書物とかを読むと、あの土地自体は人間の領地だったとも書かれているのも結構多いんだ」
「まじで?」
「わたくし共はその様に教えられております。だからあの地の正統な継承者は人間だと」
歴史なんてのは書いた著者の主観で都合よく書き換えられたりするものであるし、それぞれの言い分や正当性は存在して当たり前。
事実だけを見れば長らく人間と魔王はその土地を奪い合っているわけだ。
少し驚かされたのは魔王軍にちゃんとした開戦事由が存在していることだった。
もっと適当で残忍なだけの話だと思っていたのだが、少しだけ彼らの見方を変えた方が良いかもしれない。
もちろんそれにより沢山の人が死んでいる事実は変わらないし、俺や俺の周に何かがあるのなら全力で降りかかる火の粉は払うつもりだ。
あまりどうでもよかった魔王だったが、別の意味で興味を憶え始めるのだった。
「ま、まあ、主義主張が入れ違ったりするのは仕方がないよ。今から真実なんて探すのは難しいし」
もし一つの真実が分かったとしても、それが全ての真実になるとは限らない。
最初はボタンの掛け違え程度のずれが、その後大きくなっていくこともある。
って考えごとをしている間に、三人が微妙な空気になっていた。こういう歴史問題ってデリケートだったんだっけ……。
あまり外国人と接しない典型的な日本人の俺はそれに気付かずにいた。
「とりあえず今は冒険者となってセレーネやアティウラの期待を裏切らないように、財宝探しでもしていようと……思う……」
「はい。是非っ!」
「うん、生きるのにお金は必要」
まあ、大きな話の前に自分達の生活の……。
「図書館の街にはまだ多くの財宝が眠っていると言われていますから、そこをアタックするのもいいかもしれませんね」
「このメンバーなら竜の巣を攻めるのもあり」
とりあえず即物的な話しの流れにしていたが思った以上に彼女達は話に乗ってくれた。
今日明日も分からない身なので、今は歴史よりもお金だよね……。
しかし……なんかさっきから視界が妙にぼやけているような……。
「あんた、大丈夫?」
「ん、あー……、うん、だめかも……ブクブクブクブク……」
「ちょー!?」
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる