243 / 388
第四話
試験<Ⅱ>
しおりを挟む
「あんたのポケットに入っているものの正体は分かっている。彼女が無くしたと言い出す前に黙って返しておけば何も言わない」
「な!? な、何を言っている……なんの証拠が……」
鬼軍曹は分かりやすいほど分かりやすい反応を見せた。
「じゃあ今すぐここで俺が言い出してもいいんですね?」
彼のポケットに入っているもの、それは受付のお姉さんのハンカチだった。
サーチで彼女の遺失物を探しているときにこの鬼軍曹から反応が出たのはさすがに驚いた。このおっさん、意外とヤバい人かもしれない。
「ぐっ……ぬっ……」
「気持ちは分かります。俺も職場にこんなに美人が揃っていたら少しくらい魔が差すこともあるでしょう」
いや、ならないけど、それは普通に窃盗だし。
鬼軍曹はそれ以上何も言わず、試験は合格となった。
そして次はデル。
「お、お前は魔法使いなのだろう。では魔法を見せてみろ」
まだ少し動揺が残る鬼軍曹が、今度はデルの試験を始める。
「え……」
紋様本の少しだけ薄い青を浮かべながら俺を見てくる。
どうやら困っているようだった。
あーそうか。確かに……。
「あのー、彼女は少々特別でこんなところで魔法を使ったら建物が壊れるかもしれません」
そう言い切ってから気づいた……これは余計だったか、なんか既にフラグは立ってしまった気がする。もうみんなこの後の展開は予想出来ているよね……。
「はっ、はははっ! 何を駆け出しが、面白いことを言う」
やっぱり……先ほどのハンカチのことなど忘れたのか、デルを挑発してくる。
だからそれがダメなんだって!
「俺もこの仕事はそれなりに長い。そうやって誤魔化そうとする奴を沢山見てきたからな、ちゃんと証明してみろ!」
鬼軍曹は頑として譲らない。
そしてたまにちらちらっとセレーネ達を見ている。美人に対して俺は出来るアピールでもしているつもりだろうか。
ああ悲しき男の性、そういうので女性の気持ちなんてこれっぽっちも動かないと思うんだけど。俺も若い頃はああやって勘違いをしていたもんさ。
「いいからお前の本気を見せてみろよ! お前程度の魔法なら俺なら十二分に耐えられる!」
いや絶対に無理だと思うんだが……。
しかしこのままでは試験が終わりそうにない。結果は見えているけどデルにやらせることにした。
「え、いいの?」
「まあ、あれだけ煽られたんじゃ一度見せるしかないだろ」
「分かった」
デルは黄色い紋様を薄く浮かばせながらニヤリと不適な笑みを見せる。
まああれだけ煽られたらそれなりにイラッとはするか。
(セレーネ、今からデルが魔法を使うから念のためバリアを頼む)
『はいっ、お任せください』
「一番弱い魔法を見せるだけも驚くと思うからさ」
ファイアーショット辺りで鬼軍曹の近くにぶつければいいだろう。
「はっ、何を言っている! お前の限界を見せてみろ!」
「バカ、煽るなっての!」
無駄に耳だけは異様にいいおっさんだな!
「どうせ毛の生えた程度だろ」
「んだとこら! 生えて無くて悪かったな!!」
何を聞き間違えたのかデルは生えていないことを指摘されたと勘違いして紋様を一気に赤くさせる。
「そっちの話じゃねーって!」
「だったら見せてやるよ! “ファイアーボール”!」
止めようとしたが、もう駄目だった。デルはそれなりに理性的ではあるんだが、煽り耐性が低いというか……怒らせると感情的になりやすい。
魔法を唱えたデルの頭上に巨大な炎の塊が出現すると、それは鬼軍曹に目掛けて飛んでいく。
「え……。う、嘘……ちょ、ま、待って……やだ」
一瞬だけオネエ言葉を漏らして鬼軍曹は巨大な炎の中に消えていくのだった。
「ぼふっ……」
口から煙を漏らすとか、どこのギャグマンガだ。
巨大な火球が炸裂してギルドの建物とその周囲が大変な事になってしまった。
セレーネの奇跡を使って障壁で護ったが、さすがに完全には無理だったらしく鬼軍曹はスキンヘッドまで真っ黒に焦げて、まるで頭に毛が生えているみたいになっていた。
それ以外に人的な被害はなかったが建物の方は強烈な爆風で結構吹き飛ばされ、ガラスなどが割れる被害が出てしまう。
「だから言ったってのに、なんつーお約束なことを」
「ご、ごめん……つい」
魔法を使った後、冷静さを取り戻したデルはばつが悪そうにしていた。
「ぶっ、ふふっ……あはははっ、あ、あのおっさん、髪の毛生えてる……良かったじゃない……。ぶっ! あははっ!」
ケラケラと笑うアティウラ。それが恥ずかしいのか、う、うるさいと小さく言う鬼軍曹。どうやらこの2人は知り合いらしい。
「もう、何をやっているんですか。こんなにしてっ! 後処理するのは私達なんですよ」
ため息を漏らしながら、受付のお姉さんが鬼軍曹の頭にポーションを掛けると黒焦げが治っていく。
「おお、凄え。それで合否の方は?」
「ぐっ、ご、合格だ……」
俺とデルは晴れて冒険者となれることになった。
「な!? な、何を言っている……なんの証拠が……」
鬼軍曹は分かりやすいほど分かりやすい反応を見せた。
「じゃあ今すぐここで俺が言い出してもいいんですね?」
彼のポケットに入っているもの、それは受付のお姉さんのハンカチだった。
サーチで彼女の遺失物を探しているときにこの鬼軍曹から反応が出たのはさすがに驚いた。このおっさん、意外とヤバい人かもしれない。
「ぐっ……ぬっ……」
「気持ちは分かります。俺も職場にこんなに美人が揃っていたら少しくらい魔が差すこともあるでしょう」
いや、ならないけど、それは普通に窃盗だし。
鬼軍曹はそれ以上何も言わず、試験は合格となった。
そして次はデル。
「お、お前は魔法使いなのだろう。では魔法を見せてみろ」
まだ少し動揺が残る鬼軍曹が、今度はデルの試験を始める。
「え……」
紋様本の少しだけ薄い青を浮かべながら俺を見てくる。
どうやら困っているようだった。
あーそうか。確かに……。
「あのー、彼女は少々特別でこんなところで魔法を使ったら建物が壊れるかもしれません」
そう言い切ってから気づいた……これは余計だったか、なんか既にフラグは立ってしまった気がする。もうみんなこの後の展開は予想出来ているよね……。
「はっ、はははっ! 何を駆け出しが、面白いことを言う」
やっぱり……先ほどのハンカチのことなど忘れたのか、デルを挑発してくる。
だからそれがダメなんだって!
「俺もこの仕事はそれなりに長い。そうやって誤魔化そうとする奴を沢山見てきたからな、ちゃんと証明してみろ!」
鬼軍曹は頑として譲らない。
そしてたまにちらちらっとセレーネ達を見ている。美人に対して俺は出来るアピールでもしているつもりだろうか。
ああ悲しき男の性、そういうので女性の気持ちなんてこれっぽっちも動かないと思うんだけど。俺も若い頃はああやって勘違いをしていたもんさ。
「いいからお前の本気を見せてみろよ! お前程度の魔法なら俺なら十二分に耐えられる!」
いや絶対に無理だと思うんだが……。
しかしこのままでは試験が終わりそうにない。結果は見えているけどデルにやらせることにした。
「え、いいの?」
「まあ、あれだけ煽られたんじゃ一度見せるしかないだろ」
「分かった」
デルは黄色い紋様を薄く浮かばせながらニヤリと不適な笑みを見せる。
まああれだけ煽られたらそれなりにイラッとはするか。
(セレーネ、今からデルが魔法を使うから念のためバリアを頼む)
『はいっ、お任せください』
「一番弱い魔法を見せるだけも驚くと思うからさ」
ファイアーショット辺りで鬼軍曹の近くにぶつければいいだろう。
「はっ、何を言っている! お前の限界を見せてみろ!」
「バカ、煽るなっての!」
無駄に耳だけは異様にいいおっさんだな!
「どうせ毛の生えた程度だろ」
「んだとこら! 生えて無くて悪かったな!!」
何を聞き間違えたのかデルは生えていないことを指摘されたと勘違いして紋様を一気に赤くさせる。
「そっちの話じゃねーって!」
「だったら見せてやるよ! “ファイアーボール”!」
止めようとしたが、もう駄目だった。デルはそれなりに理性的ではあるんだが、煽り耐性が低いというか……怒らせると感情的になりやすい。
魔法を唱えたデルの頭上に巨大な炎の塊が出現すると、それは鬼軍曹に目掛けて飛んでいく。
「え……。う、嘘……ちょ、ま、待って……やだ」
一瞬だけオネエ言葉を漏らして鬼軍曹は巨大な炎の中に消えていくのだった。
「ぼふっ……」
口から煙を漏らすとか、どこのギャグマンガだ。
巨大な火球が炸裂してギルドの建物とその周囲が大変な事になってしまった。
セレーネの奇跡を使って障壁で護ったが、さすがに完全には無理だったらしく鬼軍曹はスキンヘッドまで真っ黒に焦げて、まるで頭に毛が生えているみたいになっていた。
それ以外に人的な被害はなかったが建物の方は強烈な爆風で結構吹き飛ばされ、ガラスなどが割れる被害が出てしまう。
「だから言ったってのに、なんつーお約束なことを」
「ご、ごめん……つい」
魔法を使った後、冷静さを取り戻したデルはばつが悪そうにしていた。
「ぶっ、ふふっ……あはははっ、あ、あのおっさん、髪の毛生えてる……良かったじゃない……。ぶっ! あははっ!」
ケラケラと笑うアティウラ。それが恥ずかしいのか、う、うるさいと小さく言う鬼軍曹。どうやらこの2人は知り合いらしい。
「もう、何をやっているんですか。こんなにしてっ! 後処理するのは私達なんですよ」
ため息を漏らしながら、受付のお姉さんが鬼軍曹の頭にポーションを掛けると黒焦げが治っていく。
「おお、凄え。それで合否の方は?」
「ぐっ、ご、合格だ……」
俺とデルは晴れて冒険者となれることになった。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる