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第三話

どうしても身体が先に動く勇者様<Ⅲ>

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「わ!? 飛ばすなっての!」

 ウンコまみれになったトロルが物凄い速度でこちらに突っ込んでくる姿は、それはそれは恐ろしいことだろう。

「ちょ、と、とめ、止めて!」

「……?」

「大将! 無理っす!」

 ノールがキャインと前後に情けない声を漏らしてそう言った。

 ケイオスくんの必死な命令だったが大きい方のトロルは意味を理解出来ていなかった。
 一見大きなトロルなら止められそうに見えるが、此奴らは“戦え”“守れ”などの簡単な命令以外はあまり理解してくれない。

「た、戦って!」

「……了解」

 ひゅんっ!

「ヒャ?」

 ばちんっ!

 慌ててケイオスくんは戦うように命じたが、大きなトロルは嬉しそうに周りにいたゴブリンやコボルドを次々と叩き潰し始めた。
 叩き潰されたゴブリンは原型が分からないほど潰されてぺしゃんこになっていた。

 うえぇ……凄いスプラッタ……、これ絶対に放送コードに引っ掛かるだろ。
 そんなものを見てもあまり動じない程度に見馴れている自分が少し嫌になる。

「うげぇ!?」

 だが、ケイオスくんは見馴れていないのか思い切り悲鳴を上げて嘔吐いていた。

「馬鹿なのか! せめて主語くらい付けて言えよ!」

「うがおうぅ!!」

 暴れ回る大きなトロルに何を混乱したのか小さなトロルが飛びかかる。
 二匹のトロルだが体格差は歴然、完全に子供と大人である。

 大きい方は直ぐさま小さい方を引き剥がすと首根っこを掴んで振り回す。だが当然ヤバいモノが撒き散らされる。

「ぎゃー!! ウンコ飛ばすな!! ぶばっ!!」

「馬鹿野郎! 屈めって、うわぁあ!?」

 見事にあの塊がオークの顔にヒットする。ノールの方は直ぐさま屈むが、直ぐ隣のゴブリンがトロルに踏まれて肉片になってしまう。

 魔物達はウンコと肉片が飛び交う現状に阿鼻叫喚になっていた。
 ああもうカオスすぎて、もう何がなんだか分からない状態になってんな。

「勇者様こっちです!」

 後ろから声がするとセレーネとアティウラがシールドリングを最大まで展開して屈んでいた。その後ろにはデルも居る。

 俺は慌ててそっち身を屈めながら向かった。
 透明なシールドにはいくつかのウンコが着いているのが見える。

「勘弁してくれ……」

「アンタがそうさせたんじゃん」

 そうでしたね。

 大きなトロルは同胞である小さなトロルを散々振り回した後、最後は大きく振りかぶって放り投げた。

 どがっしゃんっ! どすんっ!! がしゃん!

 投げた先は納屋か何かだろうか。屋根や壁などを破壊しながら家の中に落下していった。

「あーあ……壊しちゃったよ。僕は知らないからね」

 こんな状況なのにデルは壊れた建物の責任の所在が気になるらしい。

「なんか動かないね……これで死んでくれると助かるんだけど」

 アティウラの方は、なんというかさすが退治専門なだけあってあっさりとした意見だった。

「いや気絶しているだけだな」

 二人は並んで透明な盾をまだ構えている。これは盾越しに向こう側が見やすくてなんとも便利であった。でも、この惨状は見えなくても良かったように思える。

『獲物……獲物……』

 大きなトロルは一段落すると周りを見渡して新たなターゲットを探し始めた。

「まずいな。あいつまだ止まらないつもりか……」

 唯一命令を出せる卿御洲を探すが、既にヤツは何処かに逃げたのか隠れたのか見つからない。

「あの野郎! 自分のケツくらい自分で拭きやがれってんだ!」

「……仕方がない。デル、ファイアーボールをアイツにカマしてくれ」

「いいの? 多分強力だから周りに被害が出るかもしれないけど」

「あのまま暴れさせた方が被害が大きくなる」

「それもそっか、……分かった」

 俺は立ち上がるとトロルを呼んだ。

「おい! そこのボンクラ!」

『……なんだ? 何故言葉が分かる』

 どうやら少しは頭があるらしい。話がまともに通じる。

「お前は自分が何をしているのか分かっているのか」

『我が主の命令を実行しているだけだ』

「そうじゃなくて、相手は誰だか分かっているのかって話だ」

『我が主以外と戦っている』

 ああ、やっぱり……話は通じるけど、やはりそこはトロル。何と戦うかは分かっていないがとにかく戦っているらしい。

『ぬ、よく見ると……なんて美味しそうなのが集まっているな……。お前は我が主の敵、だから俺が倒して、喰う!』

 結局そうなるか。
 ターゲットをこちらに変えたトロルは正面に向いてこちらに足を進め始めた。

「うわ、来た! いいの? 撃つよ!」

 俺は首を縦に振るとデルは立ち上がり両手を前に出す。すると全身に白い紋様が浮かび上がる。

「“ファイアーボール”!」

「いけデル! え……え、ええ!? 何これ……」

 デルの頭上に巨大な炎の玉が出現していた。

「これ……彼女の魔法? 一人で!?」

 初めて見たアティウラはそれに驚きを隠せずにいるようだった。

「さすがにこれは嫌な予感がします……」

 セレーネも心配らしい。
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