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第三話

そして就寝

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 明日の方針も決まりシャルターに入ると順番にシャワーを浴びる。

「ふはぁ……これは凄い」

 シャワーを浴び終わったアティウラが下着のような薄着姿で長い髪の毛をタオルで拭きながらそう言った。

「でしょ? シャワーってのも気持ちよくて便利だけど、この室内は暖かいし夜なのに明るいし、それに何より魔物や獣に襲われる心配がないからね」

 何故かドヤ顔で説明するデル。

「前の時代に使われていた緊急避難用らしいよ」

「そうなんだ」

 シェルター内を見渡すアティウラ、風呂上がりで下着姿のような格好はなんとも色っぽい。

「二人を心配してないのが不思議だった……確かにこれなら安全」

「ここには水があるから食糧さえ確保しておけば余裕で数日は引きこもれるよ」

 おおよそ8~10畳くらいの室内だがこれくらいの人数であればそこまで手狭には感じない。

 このシェルターは異世界や異次元に存在しているのではなく、この星の何処かの地下10メートル程の場所にある。
 地下なので室温は一年を通して一定で冬は暖かく感じられ夏は涼しく感じられる。

 トイレやシャワーは地下水を使っているが俺達が使う程度であれば枯渇するような心配は全くない。調理も出来るようだが残念ながらそれらの装備品は壊れていて今は物置として使用している。

 いずれにせよシェルターに入るには魔力が消費されるので注意が必要である。

「このおかげで夜の見張りが不要ですし、何よりこうやって身だしなみまで整えることが出来るので本当に助かってます」

 セレーネが髪の毛を整えながら嬉しそうに言った。

「ここに探索で見つけたアイテムも保管出来そう」

 さすが現役冒険者、そういう発想が直ぐに出る。そうか雑嚢に入らない大きなのはこっちに置けば良いか。

「主様は戦う以外なんでもあるのね」

「なんだそれ」

 これは別に俺の能力じゃなくてアイテムなんだが。

「そりゃそうでしょ、他人に多量の魔力を与えて、敵を正確に察知して強さまで分かって、更にこんな拠点まで持っている。まさに何でもありじゃん」

 デルがまたもドヤ顔で語る。

「ですが勇者様は自身が戦えないと分かっていらっしゃるのに他者を庇ったりしますよ」

「……逃げなさいと言ったのに逃げないでキスしてきた」

「わたくしのときもそうでした。ゾンビがいるのに気にせず飛び込んできました」

 綺麗なロングヘアの二人は嬉しそうに人の話をし始めた。

「そうそう、凄いお節介なんだよね。まあ僕もそのお節介に助けてもらってるからあんまり変なことは言えないけど」

 デルはベッドの下にある本を取り出しながら会話を続ける。
 女三人寄れば姦しいとはよく言ったもの。

 全員種族が違うのに、女性というのは基本的な資質は変わらないんだなと実感する。ただ俺のことを楽しそうに話すのは止めてほしい。
 端から見ている限りは、お風呂上がりの薄着でキャッキャしてるのは可愛いけどさ。

 しかし、今日もなんとか生き残ったな。

 結局アティウラに戦ってもらったけどさ。自分で戦えないってのは本当にもどかしい。
 などと考えるが、とても俺にアティウラの様な戦い方が出来るようになるとは思えない。

 もし彼女が同行を拒否されたら、二人と合流する前に某巨人マンガの如くトロルに捕まって喰われていたかもしれない。
 いや、トロルどころか森の魔物に普通に襲われて死んでたかもな。

「……はぁ、あのさセレーネ」

 心の奥から震えを感じ始めた俺はセレーネを呼ぶ。

「あ、はい。こちらへどうぞ」

 セレーネは俺が腰掛けているベッドの横に座ると、はいどうぞと両手を前に出して迎えてくれる。
 直ぐさま彼女の身体に抱きつくと優しく首に手を回して自分の胸に引き寄せてくれる。

 優しい温もりを感じるとそのまま柔らかな感触に身を預けた。

「……我が儘言ってごめん」

「いいえ、勇者様は今日も大変だったのでしょう」

「うん……ありがとう」

 セレーネの温もりを感じると今日も生き残れたんだなと安心する。
 何故この状態になるのかは肉体と精神が合っていないからじゃないかと考えていた。

 精神はおっさんで一度は死にかけた身だからか目の前の危険に対して酷く鈍感になっているが、肉体の方はまだ若く経験が浅いため後になって落ち着いたときに精神と関係なく恐怖で身体が震え始めるのだと今のところは思っている。

 これは俺自身では制御不能なようで肉体が感じている恐怖はそのまま精神にまで蝕んでいき冷静でいられなくなる。
 だが彼女達の温もりがその恐怖を和らげてくれる。

 もしかしたら別の感触により他のことに肉体の興味が移るからかもしれないけどな。
 彼女達には大変申し訳ないが、こうやって肉体と精神の均衡を保つためにお願いするしかない。

「あれはあんまり気にしないでやって、アイツって結構無謀な行動をするくせに後から怖くなって、ああなるみたいなの」

「昨夜、見たから知ってる」

 デルとアティウラが近くで何か話しているようだが今は気にしない。

「まだクソガキなのに妙に大人びているからか、普段は年上にも思えるけど、こういうところは年相応でママのおっぱいが恋しいのよ」

「そういうところが可愛い」

「可愛いか? むしろ今なんて見た目よりも幼くない」

「むしろそれがいい」

「あ、そ、そうなんだ……」

 デルはなんとも微妙に分からない顔をするが、直ぐに飽きて本を読み始めた。

 しばらくセレーネに抱きついた俺が落ち着くと就寝する。

 コットベッドは三つしかないので俺が寝袋で寝ることにする。
 もちろんアティウラは寝袋で十分だと言っていたが、明日のことを考えたら十分に身体を休めて欲しいと頼んで無理矢理寝かせた。

 もちろんこの寝袋でも十分に眠れるので問題はないが、やはりベッドの方が身体を休められることに違いはない。

 それとは別に寝袋だと一人で静かに眠れるんだよね。ベッドだと視点が同じ高さになって彼女達の寝姿がよく見えて色々と困ることが多い。
 それでなくてもこの密室で甘く良い匂いがしているというのに薄着の女の子3人が直ぐ近くで寝息を立てているのは結構身体に毒なのである。

 だがそうやって悶々とするのもほんのわずか、歩き疲れている身体は休息を求めてあっさりと意識が落ちていくのであった。


 同じ時間の森の中。

 ぐっ、ぐうぅぅ……。

「うう……、お腹空いた……」

 寒さ以上に空腹が辛い夜だった。

 移動を重視したため、途中で狩りなどの時間が割けず満足に食事が出来なかった。
 トロルはその辺の適当なものを食べ、ゴブリンやコボルドも虫などを食べていたようだが、当然元日本人の彼にそんなものが食べられるわけもなく何も食べずに寝た。

 だが空腹に対して身体は素直な反応をするため、なかなか寝付けなかった。

「で、でも……明日、明日になれば……」

 そう、明日になればきっと求めて止まないものが手に入る。そう考えたらこの空腹も耐えられるのであった。

「ぐふ……ぐふふっ、め、メイドさん……と、あんなことそんなこと……ぐふふっ」
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