196 / 388
第三話
サウナというお風呂<Ⅳ>
しおりを挟む
「気になる?」
視線に気付いたアティウラが、少しばかり含んだような笑顔でそういった。
「……痛々しいなと思って」
「ぐぬっ、意地悪……少しなら触っても良いのに」
「まじで!? ……い、いや、止めておこう」
術中にはめるつもりだろうが、それに乗るときっとまたポンコツな出来事が起こりそうなので止めておこう。サウナはしずかにゆっくり入りたいしな。
「素っ気ない……傷物の女には価値がないんだ」
その傷は自分で作ったものでしょうが。紛らわしい言い方をするんじゃありません。
「今は雇用主の立場だから、お金でそうしたみたいで嫌なの」
それは貴女が変にポンコツなことをするから、そういう雰囲気じゃなくなったんでしょうが。
「優しいんだね」
「別に博愛主義者とかじゃないから、敵対するなら相応の態度になるよ」
獣人の場合は正直勝手に盛り上がってガッカリしたことで相手に対する余計な気持ちがなくなったからフラットに話せたんだと思う。
もし出会い頭の出会いだったら魔物と勘違いしていたかもしれないし。
「俺はこの世界に来た客みたいなもんだし、そんな人間が元から居る人達相手に土足で脚を踏み入れるなんてことは出来ないじゃないか」
万能翻訳機能のおかげな部分は多いけどね。
ネイティブ同様に異種族と話が出来るのは非常に大きなメリットである。イントネーションが完璧らしいので細かな感情も伝わるから変な齟齬も生まれずにコミュニケーションが可能だ。
「面白い価値観だね」
さすがにびしょ濡れの頭を撫でるようなことはしなかったが、肩同士と軽くくっつけてきた。
「お連れは、どんな人なの?」
「聖職者と……一応魔法使いかな」
接近戦上等なので純粋に魔法使いと言っていいのか少しだけ悩むところである。
「……聖職者」
アティウラが微妙な声を上げた。
「あれ、もしかしてあんまり好きじゃない?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあ、胡散臭いとか思ってたり」
この世界の聖職者は神の逆鱗に触れてから神聖魔法がほとんど使えなくなってしまい、教会の信用と権威が失墜した。
彼らはそれらを回復させるために人間以外を排斥するようなこともしているらしいので亜人には受けが悪い。
「排他主義が多いから……」
「彼女なら大丈夫じゃないかな」
「女性なんだ……だったら魔法使いも女の子ね」
「どうして分かったの?」
「あの能力ならそうなるでしょ」
何度も言うが別に好きで手に入れた能力ではない。
「同性もいけるって感じもないし」
まあそれだけ貴女をガン見していれば野郎に興味があるとは思わないでしょうね。
「男が一人のパーティはロクな結果にならない……」
「まじで!? そうなの?」
「男が中心になるから……」
「それだとなにかまずいの? えーっと、例えばパーティ内で熾烈な奪い合いに発展して刺した刺されたなんて刃傷沙汰になったりするとか」
軽く首を縦に振るアティウラ。
まじか……。
「うわぁ……、それって俺もそうなるってこと? いやそれはないでしょ」
確かにセレーネは好意を持ってくれているけどデルはどう見ても普通な感じだし、俺を奪い合うなんて、うん、ないない、あり得ない。
「主様は自分で思っている以上に魅力あるから」
「いやいやいや……」
「キスは凄く上手だった。それに器用そうだから……」
キスは最近ちょっと慣れてきているとは思っていたけど、そう指摘されるとなんだか嫌悪感があるなぁ。
あれはあくまでもMPを分け与える行為なのであって恋人同士でするものとは違う。
違うんだけど……どこかで楽しんでいる自分がいるところがあるのは誤魔化せない。
それに器用そうってなんだ? 器用だと何が魅力なんだ……もしかして女体を満足させるテクが云々てか? いや、それはどうだろう……でも、あ、あれ……なんだか頭が回らないような……。
「ごめん。悩ませたみたい」
「そういうわけじゃ……、でも、なんか頭が上手く……回らない」
「熱すぎた……そろそろ出よう」
どうやら逆上せる寸前らしい。ぼーっとしているとアティウラに手を引かれて外に出るのだった。
その頃、森の中では。
……ぼりぼり。
「痒い……」
最後に風呂に入ったのは何時だったか、なんだか身体が痒くてしょうがない。それにこの服もずっと着っぱなしだ。もしかしたら虫が沸いているかもしれない。
魔物達を臭いと言っているが、もしかして自分も相当臭いのではないのだろうか。
ああもう早く亜人のメイドさんをゲットしてくてしょうがない。
そうしたら直ぐに人里に行って、その子と一緒にお風呂に入って体中を洗ってもらって、同じくらい洗ってあげるんだ。
「ひゃひゃ……ひゃはひゃ……ひゃひゃひゃっ」
気味の悪い笑い声を出しながら妄想に浸るのであった。
「……ぐっ、か、痒い」
……ぼりぼり。
視線に気付いたアティウラが、少しばかり含んだような笑顔でそういった。
「……痛々しいなと思って」
「ぐぬっ、意地悪……少しなら触っても良いのに」
「まじで!? ……い、いや、止めておこう」
術中にはめるつもりだろうが、それに乗るときっとまたポンコツな出来事が起こりそうなので止めておこう。サウナはしずかにゆっくり入りたいしな。
「素っ気ない……傷物の女には価値がないんだ」
その傷は自分で作ったものでしょうが。紛らわしい言い方をするんじゃありません。
「今は雇用主の立場だから、お金でそうしたみたいで嫌なの」
それは貴女が変にポンコツなことをするから、そういう雰囲気じゃなくなったんでしょうが。
「優しいんだね」
「別に博愛主義者とかじゃないから、敵対するなら相応の態度になるよ」
獣人の場合は正直勝手に盛り上がってガッカリしたことで相手に対する余計な気持ちがなくなったからフラットに話せたんだと思う。
もし出会い頭の出会いだったら魔物と勘違いしていたかもしれないし。
「俺はこの世界に来た客みたいなもんだし、そんな人間が元から居る人達相手に土足で脚を踏み入れるなんてことは出来ないじゃないか」
万能翻訳機能のおかげな部分は多いけどね。
ネイティブ同様に異種族と話が出来るのは非常に大きなメリットである。イントネーションが完璧らしいので細かな感情も伝わるから変な齟齬も生まれずにコミュニケーションが可能だ。
「面白い価値観だね」
さすがにびしょ濡れの頭を撫でるようなことはしなかったが、肩同士と軽くくっつけてきた。
「お連れは、どんな人なの?」
「聖職者と……一応魔法使いかな」
接近戦上等なので純粋に魔法使いと言っていいのか少しだけ悩むところである。
「……聖職者」
アティウラが微妙な声を上げた。
「あれ、もしかしてあんまり好きじゃない?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあ、胡散臭いとか思ってたり」
この世界の聖職者は神の逆鱗に触れてから神聖魔法がほとんど使えなくなってしまい、教会の信用と権威が失墜した。
彼らはそれらを回復させるために人間以外を排斥するようなこともしているらしいので亜人には受けが悪い。
「排他主義が多いから……」
「彼女なら大丈夫じゃないかな」
「女性なんだ……だったら魔法使いも女の子ね」
「どうして分かったの?」
「あの能力ならそうなるでしょ」
何度も言うが別に好きで手に入れた能力ではない。
「同性もいけるって感じもないし」
まあそれだけ貴女をガン見していれば野郎に興味があるとは思わないでしょうね。
「男が一人のパーティはロクな結果にならない……」
「まじで!? そうなの?」
「男が中心になるから……」
「それだとなにかまずいの? えーっと、例えばパーティ内で熾烈な奪い合いに発展して刺した刺されたなんて刃傷沙汰になったりするとか」
軽く首を縦に振るアティウラ。
まじか……。
「うわぁ……、それって俺もそうなるってこと? いやそれはないでしょ」
確かにセレーネは好意を持ってくれているけどデルはどう見ても普通な感じだし、俺を奪い合うなんて、うん、ないない、あり得ない。
「主様は自分で思っている以上に魅力あるから」
「いやいやいや……」
「キスは凄く上手だった。それに器用そうだから……」
キスは最近ちょっと慣れてきているとは思っていたけど、そう指摘されるとなんだか嫌悪感があるなぁ。
あれはあくまでもMPを分け与える行為なのであって恋人同士でするものとは違う。
違うんだけど……どこかで楽しんでいる自分がいるところがあるのは誤魔化せない。
それに器用そうってなんだ? 器用だと何が魅力なんだ……もしかして女体を満足させるテクが云々てか? いや、それはどうだろう……でも、あ、あれ……なんだか頭が回らないような……。
「ごめん。悩ませたみたい」
「そういうわけじゃ……、でも、なんか頭が上手く……回らない」
「熱すぎた……そろそろ出よう」
どうやら逆上せる寸前らしい。ぼーっとしているとアティウラに手を引かれて外に出るのだった。
その頃、森の中では。
……ぼりぼり。
「痒い……」
最後に風呂に入ったのは何時だったか、なんだか身体が痒くてしょうがない。それにこの服もずっと着っぱなしだ。もしかしたら虫が沸いているかもしれない。
魔物達を臭いと言っているが、もしかして自分も相当臭いのではないのだろうか。
ああもう早く亜人のメイドさんをゲットしてくてしょうがない。
そうしたら直ぐに人里に行って、その子と一緒にお風呂に入って体中を洗ってもらって、同じくらい洗ってあげるんだ。
「ひゃひゃ……ひゃはひゃ……ひゃひゃひゃっ」
気味の悪い笑い声を出しながら妄想に浸るのであった。
「……ぐっ、か、痒い」
……ぼりぼり。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる