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第三話
冒険者って大変なんだね<Ⅰ>
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「トロルですと!?」
ここはセレーネが言ったとおりジャモガという人里で、今はアティウラと共に案内された大きな邸宅にいるのだった。
話を聞いて驚きの声を上げているのは、この村で一番偉い人らしい。
村長かそれとも領主なのだろうか? 周りは旦那様と呼んでいるのでドガ村にもいた豪農かもしれない。いずれにしてもこの村の実力者に代わりはない。
ドガ村などで見た家に比べるとかなり豪華で綺麗な造りで大きさも段違いだ。
入った瞬間キョロキョロと見渡していたら、聞いてもないのに若い頃からコツコツ貯金してやっと建てたものだと自慢されてしまった。
確かに大きくて綺麗だが、農場や牧場にはつきものらしく近くに肥だめでもあるのか室内に居ても結構臭うのがなんともいえない感じである。
「本当にトロルだったのですか?」
「はい」
アティウラの説明はあまりにも簡素で、トロルが近くに居たから避難を勧告しただけだった。そのせいかなかなか話を信じてくれそうにない。
「体長は軽く3mを超えていました。彼女は首を切り落としましたが直ぐに復活したのでトロルに間違いないと思われます」
仕方がないので思わず俺が説明を補足する。
「お前には聞いていない」
「ぬぐ……」
なるほどセレーネが居ないと俺はただのガキ扱いしかされないとよく分かった。
アティウラが簡単に勇者であると紹介してくれたが、幼いのか若すぎなのか、それとも戦える風貌に見えないからか村人達は全く信用してくれない。
「では我が村の依頼はどうなるのでしょうか」
「依頼はゴブリン退治なので辞退します」
「そ、そんな……冒険者様はお強いのですよね? 女戦士族なのですからトロル相手でも勝てるのではないのですか!?」
おいおい話を聞いていなかったのか。アティウラも一人じゃ倒せなかったから戻ってきて勧告しているんだろう。
「さすがに……私では無理です」
「そこをなんとか!」
「いやゴブリン退治とトロル退治が同額では割に合わないでしょ。それにトロルは二体いるから彼女だけではとても勝算がありません」
やはり黙っていられず思わず口を挟んでしまう。トロル一体でもあれだけ強いのだから、二体も相手にするなんてどれだけ厳しいことか。
「おい! あんた、そうやって嘘をついて値段をつり上げようとしているんじゃないのか!」
すると、いきなり旦那様が声を荒げ出した。
「そうだ! 適当なことを言って見えないところでトロルを倒したとか言って金を余計に取るつもりだろ!」
するとまるで腰巾着のようにその場に居た一部の村人も騒ぎ出す。
なんだそれ……彼女はアンタ等のために動かない身体で無理をして戻ってきたんだぞ。
「亜人の言葉など信じられるか!」
あーあ、言っちゃった。それを言ったらお終いだよ。
「分かりました」
「では、倒していただけるのですね!」
アティウラの言葉を討伐すると勝手に解釈しやがった。
「ちょっと待ってよ。今のはゴブリン退治の件はなかったことでよろしいですねって話だから」
「なんだと! だったらこちらはギルドに苦情を申し立てるからそのつもりでいろ!」
「はあ? ふざけんな! だったらこっちはアンタ等がゴブリン退治と嘘をついてトロル退治をさせようとしたと訴えてやる!」
旦那様の言いぐさに思わず、言葉を返してしまった。
そしてアティウラは驚いた顔で俺を見た。
「なんだと! 俺達が嘘をついているっていうのか!」
「難癖をつけてきたのはそっちだろうが! ったく、お前達が亜人種を見下しているのはよく分かった」
「そうは言っていない」
「困っているときは頼むくせに、少し話が拗れたりすると直ぐに亜人なんて信じられないと言い出し、言うことを聞かなければ脅しにかかるくせに」
「証拠だ! だったらトロルがいるって証拠を見せてみろ!」
旦那様は鼻息荒く腕組みをしてふんぞり返る。
そんなものあるわけがないと思っているのだろう。
「証拠って……」
別にあんた等がこっちの言葉を信じないで、トロルに襲われて喰われても知ったこっちゃないんだけどな。
するとアティウラは自身の鞄から何かを取りだして村人達の前に置いた。
「こ、これは……」
置かれたのは巨大な牙だった。それを見た瞬間、それまで鼻息の荒かった彼らは一気に言葉を失う。
動物とは思えない大きさと形。そしてなにより魔物独特の少し緑がかった血の跡がトロルのモノだと物語っていた。
そう言えばアティウラが引っこ抜いてたっけ。
「これでも嘘だと言いますか? こんな牙を持ったのがすぐ近くに来ているのですよ」
魔物のコモン種最強の存在にあきらかな動揺が顔に出る村人達。
「トロルは山の上や森の奥にいるはずなのに、どうしてところに出てくるんだ……そんなバカな……ゴブリンやコボルドなどの大量に狩っている勇者様のおかげでやっと最近平和になってきたと思ったのに」
ん? 勇者がゴブリンやコボルドを大量に狩っている?
「いやそのせいでしょ、ゴブリンやコボルドはトロルなんか大型の魔物にとって大事な食糧の一つだったのに必要以上に倒したせいでエサが足りなくなったんだって」
ここはセレーネが言ったとおりジャモガという人里で、今はアティウラと共に案内された大きな邸宅にいるのだった。
話を聞いて驚きの声を上げているのは、この村で一番偉い人らしい。
村長かそれとも領主なのだろうか? 周りは旦那様と呼んでいるのでドガ村にもいた豪農かもしれない。いずれにしてもこの村の実力者に代わりはない。
ドガ村などで見た家に比べるとかなり豪華で綺麗な造りで大きさも段違いだ。
入った瞬間キョロキョロと見渡していたら、聞いてもないのに若い頃からコツコツ貯金してやっと建てたものだと自慢されてしまった。
確かに大きくて綺麗だが、農場や牧場にはつきものらしく近くに肥だめでもあるのか室内に居ても結構臭うのがなんともいえない感じである。
「本当にトロルだったのですか?」
「はい」
アティウラの説明はあまりにも簡素で、トロルが近くに居たから避難を勧告しただけだった。そのせいかなかなか話を信じてくれそうにない。
「体長は軽く3mを超えていました。彼女は首を切り落としましたが直ぐに復活したのでトロルに間違いないと思われます」
仕方がないので思わず俺が説明を補足する。
「お前には聞いていない」
「ぬぐ……」
なるほどセレーネが居ないと俺はただのガキ扱いしかされないとよく分かった。
アティウラが簡単に勇者であると紹介してくれたが、幼いのか若すぎなのか、それとも戦える風貌に見えないからか村人達は全く信用してくれない。
「では我が村の依頼はどうなるのでしょうか」
「依頼はゴブリン退治なので辞退します」
「そ、そんな……冒険者様はお強いのですよね? 女戦士族なのですからトロル相手でも勝てるのではないのですか!?」
おいおい話を聞いていなかったのか。アティウラも一人じゃ倒せなかったから戻ってきて勧告しているんだろう。
「さすがに……私では無理です」
「そこをなんとか!」
「いやゴブリン退治とトロル退治が同額では割に合わないでしょ。それにトロルは二体いるから彼女だけではとても勝算がありません」
やはり黙っていられず思わず口を挟んでしまう。トロル一体でもあれだけ強いのだから、二体も相手にするなんてどれだけ厳しいことか。
「おい! あんた、そうやって嘘をついて値段をつり上げようとしているんじゃないのか!」
すると、いきなり旦那様が声を荒げ出した。
「そうだ! 適当なことを言って見えないところでトロルを倒したとか言って金を余計に取るつもりだろ!」
するとまるで腰巾着のようにその場に居た一部の村人も騒ぎ出す。
なんだそれ……彼女はアンタ等のために動かない身体で無理をして戻ってきたんだぞ。
「亜人の言葉など信じられるか!」
あーあ、言っちゃった。それを言ったらお終いだよ。
「分かりました」
「では、倒していただけるのですね!」
アティウラの言葉を討伐すると勝手に解釈しやがった。
「ちょっと待ってよ。今のはゴブリン退治の件はなかったことでよろしいですねって話だから」
「なんだと! だったらこちらはギルドに苦情を申し立てるからそのつもりでいろ!」
「はあ? ふざけんな! だったらこっちはアンタ等がゴブリン退治と嘘をついてトロル退治をさせようとしたと訴えてやる!」
旦那様の言いぐさに思わず、言葉を返してしまった。
そしてアティウラは驚いた顔で俺を見た。
「なんだと! 俺達が嘘をついているっていうのか!」
「難癖をつけてきたのはそっちだろうが! ったく、お前達が亜人種を見下しているのはよく分かった」
「そうは言っていない」
「困っているときは頼むくせに、少し話が拗れたりすると直ぐに亜人なんて信じられないと言い出し、言うことを聞かなければ脅しにかかるくせに」
「証拠だ! だったらトロルがいるって証拠を見せてみろ!」
旦那様は鼻息荒く腕組みをしてふんぞり返る。
そんなものあるわけがないと思っているのだろう。
「証拠って……」
別にあんた等がこっちの言葉を信じないで、トロルに襲われて喰われても知ったこっちゃないんだけどな。
するとアティウラは自身の鞄から何かを取りだして村人達の前に置いた。
「こ、これは……」
置かれたのは巨大な牙だった。それを見た瞬間、それまで鼻息の荒かった彼らは一気に言葉を失う。
動物とは思えない大きさと形。そしてなにより魔物独特の少し緑がかった血の跡がトロルのモノだと物語っていた。
そう言えばアティウラが引っこ抜いてたっけ。
「これでも嘘だと言いますか? こんな牙を持ったのがすぐ近くに来ているのですよ」
魔物のコモン種最強の存在にあきらかな動揺が顔に出る村人達。
「トロルは山の上や森の奥にいるはずなのに、どうしてところに出てくるんだ……そんなバカな……ゴブリンやコボルドなどの大量に狩っている勇者様のおかげでやっと最近平和になってきたと思ったのに」
ん? 勇者がゴブリンやコボルドを大量に狩っている?
「いやそのせいでしょ、ゴブリンやコボルドはトロルなんか大型の魔物にとって大事な食糧の一つだったのに必要以上に倒したせいでエサが足りなくなったんだって」
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