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第三話

この世界のメイドさんは戦えるのか<Ⅱ>

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「やっぱり高い?」

 俺が黙っているのを高いと勘違いしたらしい。
 圧倒的に安くて驚いているんだけどね。

「こう見えても、それなりに歳は取っているんですが」

「うん分かる」

 背伸びしたいんだよねと言いたいのだろう、またもよしよしと頭を撫でられ本当に子供扱いされているのだった。
 それなら本当の話をするのは面倒なのでこのまま話を流してしまおう。

 安いことを素直にラッキーと思えないのは、こちらにも非があるからだろうか。
 むしろかなりのピンチを救ってもらったので、もう少し相場通りの金額を支払いたい気がしてきた。

 あ、しまった。俺自身はお金を持ち合わせていないじゃないか。
 金貨などの大きなお金はシェルターに保管してあるし、小銭はセレーネがきっちり管理しているから、俺自身はほとんど持っていないんだった。

「あの、金額の方は分かりましたけど今は持ち合わせがないので……」

「……嘘」

「ええ!? 嘘じゃありませんて!」

「手がとても綺麗。それにこの髪や肌の艶も良い」

 え……手で分かるものなの? 思わず自分の手を見てしまう。

「話し方も丁寧、絶対に身分が高い」

 まじか……このメイドさんやっぱり侮れない。
 マズいな。なんかこのままだともっと見透かされて余計に立場が悪くなる気がする。

 ここは一つ上手く彼女を巻いて逃げてしまうか……。
 って無理だよなぁ、あの巨虫を一撃でかち割るような手練れだし。こうなったらあの方法で強引に行くしかないか。

「……とにかく本当に今は持ち合わせがないんです!」

「もうしがみついてこないで」

 俺が何をしようとしたかバレてしまい予め釘を打たれてしまった。

「ふう……困った。親御さんは?」

「ええっと既に両方とも他界していて連れは居るんですが虫に追われている間にはぐれてしました」

「……そう、ごめんね」

 多分余計なことを聞いたと思ったのだろう。メイドさんはまた頭を撫でながら、申し訳なさそうに謝ってきた。

「いえ、もう大分前の話ですから」

「強いんだね……じゃあ、そのお連れ様から払ってもらう」

 同情していても意外とシビアだった。まあ安い金額だけど。

 でも守銭奴のセレーネが払ってくれるかな……。彼女はどんなに安くても渋りそうな気がする。
 彼女は俺とお金どっちを取るんだろうか……お金の方が大事なので煮るなり焼くなり好きにしてくださいなんて言い出したりして、でも銀貨30枚程度でか?

 ……全くないと言い切れないところがなんとも。

 い、いや俺は彼女のことを信じているぞ! 信じているからな!

 あ、そうか。最悪デルに借りるって手もあるか。それくらいなら持ち合わせはあるだろうし。

「足りなかったら、そのとき考える」

 払う払わないは別として、さすがに足りるとは思うけど。
 それにしても結構少額なのに請求する気満々なんだけどちゃんと割に合っているのだろうか。

 どすんっ!

 え、なんだこの音?

「……ボクのお連れ?」

 首を思い切り横に振る。さすがにそこまで重くはないが結構気にしてるから、セレーネが聞いたら怒りそうだ。

「連れは普通の人間サイズですから」

「そう……ちっ」

 メイドさんは険しい表情になると舌打ちをしながら巨大な虫を一撃で葬ったポールウェポンを構え直した。

「連れの人なら良かったんだけど……」

 その言葉で近づいてくる相手の脅威がなんとなく分かった。
 だが、一体あの音はなんだ?

 森が騒がしくなる。鳥が鳴きながら飛び立ち、獣たちが脱兎の如く走る音がする。
 その重たい音は徐々にこちらに近づいてきている。

「ボクは運がいい……いや最悪かも」

「そんなヤバい相手なの?」

「ご破算にするから、今すぐ逃げて」

「じゃ、じゃあ貴女は」

「……とても逃げられる相手じゃない」

「い、いやだからって……」

 どすんっ!!

 直ぐ近くで大きな音がする。近づいている巨大な音の正体は何なんなんだ?

「ごくっ……」

 森の中からそれは現れた。軽く3mはあろうかという巨大な人型の化け物だった。
 まるで木のような肌の色に、バランスの悪そうな異様に長い腕、そして金色に輝く目が特徴的だった。

「逃げなさい!」

 メイドさんは俺の服を掴むとその細腕には似つかわしくない物凄い力で後ろに放り投げた。

「おわっ!?」

 一人だけ逃げるなんて出来るはずもなく、ともかく俺に出来ることをする。
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