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第三話

相棒は魔物

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「……美味っ!?」

 コミュ障な彼でも思わず声に出してしまうほどそれは美味しかった。
 満足な道具も食材もないなか、しかもオークがこれを作ったと思うと余計に驚きが増す。

「そんな大袈裟に褒めすぎですよ」

 そう言いながらも、おそらくドヤ顔をしていると思うが魔物の表情は彼にとって未だに分かりづらかった。

「けっ、ただ焼いただけじゃないか。食材が新鮮だからだろ」

 脚元で寝ていたはずのノールが起き上がって不満そうにそう漏らした。
 この料理の食材は数時間前までこの森の中で飛んでいた鳥であった。

「そ、そうだね、ありがと……」

 その鳥を捕ってきたのは、脚元近くで座って尻尾を振っているノールだった。
 彼は狩りの名手らしく、朝方ちょろっと出かけたと思ったら一時間くらいで鳥を数羽手にして戻ってきた。

「い、いや身体が鈍らないよう運動したついでですから」

 感謝の言葉に照れているのか素直には受け取らなかった。

 彼の側にいる二匹の魔物は魔王軍に囚われたときに同じ檻に入って知り合って以来、ずっと共に行動をしているというか勝手に付いてきている。
 檻から逃げる際に助ける形となったことで彼らは恩義を感じているらしく、彼のことを大将と呼んで慕っている……らしい。

 最初こそ魔物と一緒に行動だなんてと思っていたが、オークは人間が食べられるほど料理が上手で、ノールは狩りや水場などを見つける名人であり、素人同然の彼にとって非常に助けになる存在であった。

 二匹以外の魔物達は、料理どころか自分で獲物すら用意せずゴロゴロしているだけで腹が減れば魔物同士が殺し合い、倒した相手を肉として生で食い散らかすだけ。
 当然掃除などもしないので見た目も臭いも衛生面を含めて最悪な環境だった。

 では何故こうなってしまったのか。

 チラリと膝の上に載せている光線銃に目を向ける。
 魔王軍から逃げるときに拾ったこの銃は、相手にダメージを与えるのではなく自分の配下に置くことが出来る代物だった。

 逃げる途中でトロルと遭遇しこの銃を使って性能を知った。
 その際に全く気付いていなかったがオークとノールの二匹がトロルに襲われていたところだったらしく、トロルから助けてくれた恩人となったらしい。

 この力を手に入れたことで、きっとそれまでの自分とは違う輝かしい歴史が始まる!
 そう確信していたのに……おかしい。本当は女の子モンスターとか亜人の女の子なんかを沢山配下に加えていくはずだったのだが。

 光線銃を拾ってから2週間弱。

 トロル二匹を光線銃で配下に置いたが、大飯喰らいで直ぐに食糧問題が発生して、やむなく森でもっとも弱い魔物の一つであるコボルドとゴブリンを襲いトロルの緊急用食糧として無理矢理着いてこさせた。

 最初こそトロルに食べられる姿にちょっとした罪悪感があったが、同族が食べられているのに笑っている姿を見ているとそんな気持ちも萎えていった。

「きゃんきゃんきゃん!」

「ぐるる……」

 また魔物達の間でトラブルが発生しているようである。諸々の問題は解決出来たと思ったが、魔物共が増えたことで返ってトラブルが増えてしまいそれがあまりにも多いので彼は諦めて今は無視を決め込んでいる。

 そもそも粗野で粗暴で不潔な此奴らに協調性を求めること自体が間違っている。それにしても魔王軍はどうやって彼らを仕切っているのか出来れば是非ともコツなどを教えて欲しい。

 ぐちゃ!

 またもトロルがハエでも潰すかのようにコボルドを叩き付けた。

「あー……」

 段々魔物達を許せなくなってきていた。

 そもそも四六時中何かしらの悪臭で頭痛がするし、ノールとオークの二匹以外は理解力が低く、こちらの命令をほとんど理解出来ず好き勝手に振る舞うだけ。

「も、もう……」

 ここではっきりと言えれば良いのだが、転生してきてもコミュ障はなおらず配下の魔物にすらまともに言えない。なんとも情けない勇者であった。

『おい! お前はこれ以上コボルドを食うな! その辺の石とか喰ってろ!』

 ノールが怒ってトロルに何かを言っている。
 彼は何気にインテリで、人語や巨人語も話せるという変わり種であった。

「ぐお!」

 怒られたトロルが怒りを露わにする。
 ノールは負けん気が強く、トロル相手に一歩も引かない。

『……主よ』

 その状態にトロルリーダーが俺の顔色を伺ってきた。

「あ……食事は後で何とかするから、悪いけど生物以外のを食べてくれる?」

『分かった……』

 まだ食べ足りないという感じだが、こちらの命令は上位にあるらしく素直に従った。

 そして潰れたコボルドのスプラッタ過ぎる光景に気持ちが悪くなる。これもまた彼を悩ませていた。
 近くにゴブリンやコボルドがこれ幸いとばかりにその潰れて肉片となったそれを拾ってクチャクチャと喰い始めた。

「……ああもう……本当に……」

 嫌だ!!

 結局最後は声に出して言えない。コミュ障の勇者であった。
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