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第二話
幕間:あの勇者達のその後
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「なんだよ。戻ってきたのかよ」
杖を失った勇者は死ぬ直前ポータルに強制的に戻されると、そこに併設されている待合用の酒場で不意打ち上等の佐藤と合流する。
「ああ、クソ野郎に罠にはめられた」
杖を失った彼の名前は渡会心音、読みはわたらいあいと。
いわゆるキラキラネームの持ち主であまり名前で呼ばれることを良しとしていない。
「あのクソ新人にか? 経験値を横取りしやがったのか」
「それどころか杖も奪われた」
「は? なに言ってんだ。俺等の武器は他人に奪われることはないだろ。紛失したってここで再度手に入れられるだろ」
勇者の装備は使用者本人にしか使用出来ない仕様となっている。
もしそれらを紛失したり盗まれることがあったとしてもポータルであれば直ぐに取り戻すことが可能である。
「それが……」
「取り戻せなかったのか!?」
「あ、ああ……」
「なにやったらそんなことになるんだよ!」
「よく分からない」
ポータルに武器を紛失したと問い合わせたが、エラーコード云々とだけ言われ結局戻ってこなかった。
その後破壊されたと申請したが、この世界には彼の武具の存在が確認出来るため神聖を却下されてしまった。
「じゃあ魔法とか使えなくなるのか?」
「……おそらく」
本来魔術は長い勉強と修行により会得出来るモノであり、勇者のほとんどが与えられた杖などの魔法発動具のおかげでチートレベルの魔術行使が可能となっている。
そのためそれらがない場合、魔術師としての能力は皆無となってしまう。
「はっ、なんだそりゃ使えねー」
「頼みがある。俺と共に杖を取り戻して欲しい」
「取り戻すって、どうやってだよ。あのド新人倒して奪うっていうのか?」
「ああ、頼む」
「はっ、冗談だろ。PKなんてしたらペナルティマークが付いて上位のパーティに入れてもらえなくなるじゃねーか」
「な!?」
「あんな遠いところまで面倒だし、それにただの足手まといでしかないお前を守りながらとか冗談だろ」
「お前! 仲間だろ!」
「は、仲間? ウケる! 俺を良いように盾役に使ってただけのくせに」
この2人偶然ポータルに降りた時期が重なり、特に組む相手もなかったし成り行きでそうしていただけであった。
「ワリーけど、ここからは俺一人でやらせてもらうわ。まあ頑張って杖取り返せるといいな。それじゃ」
「お、おいっ、待てよ!」
呼び止める渡会だったが、佐藤は振り返ることなく酒場から出て行った。
「くそっ!」
閑散とする酒場で悔しそうに机を叩くと、合流待ちの勇者数名がギロリと睨んでくる。
「あ……」
直ぐに勢いがなくなり、謝ることなくその場で俯いて座り続けるだけだった。
「攻略の途中なんだ他を当たってくれないか」
「そういう個人的な話は自分で解決してくれ」
「いやだって君とはちょっと……」
「杖を奪われた? 冗談だろ。壊したのを他人のせいにしているだけじゃないのか」
その後、相棒の佐藤を失った杖なし勇者の渡会はポータルに残り、飛ばされて戻ってくる勇者に片っ端から話をして協力を頼むが誰も了承してくれることはなかった。
「ふざけんな! なんでだよ! 少しくらい協力してくれたっていいだろ!」
「あ? うるせえな! お前如きに割く時間はねーんだよ! 俺はさっさと仲間の元に戻らないとならないんだ!」
一喝されて驚く渡会、その横を早歩きで去って行く勇者。
「くそ!」
杖を奪われたという話を誰も信じてくれない。
中堅クラスの勇者も武具を奪われたなんて話は聞いたことがないという。
伝説の鍛冶師に過剰なエンチャントに失敗して失った話や、伝説級の竜に立ち向かい武具を破壊されたとか、噂話程度で失ったというのはあるらしいが、実際に武具を失った勇者というのは見たことがないと言う。
だが現実に彼は杖を失っている。
それを説明するが誰もが面倒くさそうにまともに取り合ってくれない。
そもそもここに飛ばされてくる勇者は戦いやクエストの最中に命を失う寸前であり、そのほとんどが直ぐさま仲間の元に戻りたいので彼の話をまともに聞いてくれるわけがないのだ。
魔法が使えない魔法使いなど、雑魚モンスター相手ですら勝てるかどうか怪しい。
確かに死ぬことはないが、それでは何時まで経ってもあの憎たらしいド新人の勇者に会えることはない。
「ふざけんな! 俺が何をしたって言うんだ!」
少なくとも、あのド新人の勇者を怒らせたのは事実である。
それに自分が死ぬことはないと油断し、好き勝手な振る舞いをした結果こうなったわけである。
「くそっ! あの野郎憶えてろ!」
「ふえっくしょん!」
「うわっ!? 汚っ! あんた何すんのよ!」
突然くしゃみをして、目の前のデルに盛大に唾液を飛ばして閉まった。
「うー、ごめん……誰か噂でもしているのか?」
「ったく……って、なにそれ? 噂されるとくしゃみがでるの?」
「俺の居た世界だとそういう話があるんだよ」
「誰かに恨まれてたりして」
「えー、そんな相手いるのかな?」
どうやら渡会は忘れられているらしい。
杖を失った勇者は死ぬ直前ポータルに強制的に戻されると、そこに併設されている待合用の酒場で不意打ち上等の佐藤と合流する。
「ああ、クソ野郎に罠にはめられた」
杖を失った彼の名前は渡会心音、読みはわたらいあいと。
いわゆるキラキラネームの持ち主であまり名前で呼ばれることを良しとしていない。
「あのクソ新人にか? 経験値を横取りしやがったのか」
「それどころか杖も奪われた」
「は? なに言ってんだ。俺等の武器は他人に奪われることはないだろ。紛失したってここで再度手に入れられるだろ」
勇者の装備は使用者本人にしか使用出来ない仕様となっている。
もしそれらを紛失したり盗まれることがあったとしてもポータルであれば直ぐに取り戻すことが可能である。
「それが……」
「取り戻せなかったのか!?」
「あ、ああ……」
「なにやったらそんなことになるんだよ!」
「よく分からない」
ポータルに武器を紛失したと問い合わせたが、エラーコード云々とだけ言われ結局戻ってこなかった。
その後破壊されたと申請したが、この世界には彼の武具の存在が確認出来るため神聖を却下されてしまった。
「じゃあ魔法とか使えなくなるのか?」
「……おそらく」
本来魔術は長い勉強と修行により会得出来るモノであり、勇者のほとんどが与えられた杖などの魔法発動具のおかげでチートレベルの魔術行使が可能となっている。
そのためそれらがない場合、魔術師としての能力は皆無となってしまう。
「はっ、なんだそりゃ使えねー」
「頼みがある。俺と共に杖を取り戻して欲しい」
「取り戻すって、どうやってだよ。あのド新人倒して奪うっていうのか?」
「ああ、頼む」
「はっ、冗談だろ。PKなんてしたらペナルティマークが付いて上位のパーティに入れてもらえなくなるじゃねーか」
「な!?」
「あんな遠いところまで面倒だし、それにただの足手まといでしかないお前を守りながらとか冗談だろ」
「お前! 仲間だろ!」
「は、仲間? ウケる! 俺を良いように盾役に使ってただけのくせに」
この2人偶然ポータルに降りた時期が重なり、特に組む相手もなかったし成り行きでそうしていただけであった。
「ワリーけど、ここからは俺一人でやらせてもらうわ。まあ頑張って杖取り返せるといいな。それじゃ」
「お、おいっ、待てよ!」
呼び止める渡会だったが、佐藤は振り返ることなく酒場から出て行った。
「くそっ!」
閑散とする酒場で悔しそうに机を叩くと、合流待ちの勇者数名がギロリと睨んでくる。
「あ……」
直ぐに勢いがなくなり、謝ることなくその場で俯いて座り続けるだけだった。
「攻略の途中なんだ他を当たってくれないか」
「そういう個人的な話は自分で解決してくれ」
「いやだって君とはちょっと……」
「杖を奪われた? 冗談だろ。壊したのを他人のせいにしているだけじゃないのか」
その後、相棒の佐藤を失った杖なし勇者の渡会はポータルに残り、飛ばされて戻ってくる勇者に片っ端から話をして協力を頼むが誰も了承してくれることはなかった。
「ふざけんな! なんでだよ! 少しくらい協力してくれたっていいだろ!」
「あ? うるせえな! お前如きに割く時間はねーんだよ! 俺はさっさと仲間の元に戻らないとならないんだ!」
一喝されて驚く渡会、その横を早歩きで去って行く勇者。
「くそ!」
杖を奪われたという話を誰も信じてくれない。
中堅クラスの勇者も武具を奪われたなんて話は聞いたことがないという。
伝説の鍛冶師に過剰なエンチャントに失敗して失った話や、伝説級の竜に立ち向かい武具を破壊されたとか、噂話程度で失ったというのはあるらしいが、実際に武具を失った勇者というのは見たことがないと言う。
だが現実に彼は杖を失っている。
それを説明するが誰もが面倒くさそうにまともに取り合ってくれない。
そもそもここに飛ばされてくる勇者は戦いやクエストの最中に命を失う寸前であり、そのほとんどが直ぐさま仲間の元に戻りたいので彼の話をまともに聞いてくれるわけがないのだ。
魔法が使えない魔法使いなど、雑魚モンスター相手ですら勝てるかどうか怪しい。
確かに死ぬことはないが、それでは何時まで経ってもあの憎たらしいド新人の勇者に会えることはない。
「ふざけんな! 俺が何をしたって言うんだ!」
少なくとも、あのド新人の勇者を怒らせたのは事実である。
それに自分が死ぬことはないと油断し、好き勝手な振る舞いをした結果こうなったわけである。
「くそっ! あの野郎憶えてろ!」
「ふえっくしょん!」
「うわっ!? 汚っ! あんた何すんのよ!」
突然くしゃみをして、目の前のデルに盛大に唾液を飛ばして閉まった。
「うー、ごめん……誰か噂でもしているのか?」
「ったく……って、なにそれ? 噂されるとくしゃみがでるの?」
「俺の居た世界だとそういう話があるんだよ」
「誰かに恨まれてたりして」
「えー、そんな相手いるのかな?」
どうやら渡会は忘れられているらしい。
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