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第二話
襲撃された朝<Ⅰ>
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ちゅん、ちゅん……。
小鳥のさえずりが聞こえ、キャンプに朝日が差し込める。
「んん……、ふわぁぁ……。あ、やべ、寝坊しちまったか?」
目を覚ましたとある兵士、平時は農民だが長男ではないので有事に兵士として戦う半農半兵で職業軍人ではないため少しばかり緊張感が緩かった。
彼が目を覚ますと、既に太陽が全部見える位置にあったことに驚いて慌てて起きたのだった。
「え、あ、あれ?」
だが周りを見ると、まだみんな寝ていた。
「なんだなんだ……まだ寝てんのかよ。いくらなんでも少し油断しすぎじゃないのか」
隣で眠る兵士を脚で揺すって起こそうとする。
「ぶっ! なんだなんだ、誰だよこいつの顔に落書きなんてしたのは。おい、起きろって……」
「あはははっ! お前ら凄え顔!」
「いや、お前だって凄い顔だから!」
兵士達は次々に目を覚ますが、全ての顔に落書きが書かれていて全員で爆笑していた。
「まったく誰の悪戯だよ……」
「お前か? お前ってそういう悪戯と大好きだよな」
「いや俺じゃないよ。てか俺だって落書きされてんだぞ」
だが誰が書いたかは分からなかった。
「大変だ。見張りも寝てたぞ!」
「ええ!?」
その話にさすがの兵士達も異変を感じだした。
「おいおい、今日みたいな日にみんな緩みすぎだろ」
騒がしいので様子を伺おうと天幕から隊長が出てくると、兵士達は慌てて報告をしようとする。
「隊長! 大変です! って隊長!? ぶー!!!」
「どうしたんだお前ら……、って何をやってんだ!?」
兵士達全員の顔に落書きがされていて驚く隊長。
「全く……、今日は討伐のために進軍するというのに……」
「い、いや……た、隊長の顔にも落書きが……」
「なに?」
まさかと思って隊長は手で顔を拭ってみると手が炭で黒くなった。
慌ててナイフを抜いて鏡代わりに自分の顔を見てみる。
「な!? お前ら! いくら何でも俺だって上司だからな! いたずらするにしても大胆すぎだろ」
「いえ、それがその……全員の顔に落書きがされていて犯人が分からないのです」
何をバカなことを言っているんだと言いかけた瞬間、隊長はイヤな予感がした。
「なんだと?」
「そ、それに見張りの連中も寝ていて、そいつ等も顔に落書きがされているんです」
「冗談……だろ?」
嫌な予感が的中したと思った。
「全く幾ら今日進軍するからって朝からうるさいですよ……自分は朝が弱いのでもう少しトーンをですね……それとも玉砕覚悟で相手が進軍でもしてきましたか」
「それが魔法使いの勇者さ……ってうわ!?」
「ぶー!!」
「な、なんですか。朝から人の顔を見て吹き出すとか殺しますよ」
「い、いえ、その顔……お顔が……」
「顔? 顔がどうしたというのです」
隊長はよく磨かれたナイフを手渡され、それを受け取って鏡にして顔を見る。
「な、な、なんですかこれは!?」
軍監の顔にははっきりと『魔法の杖がないと実は雑魚』と書いてあった。
「ふ、ふざけんじゃねー!」
それまで比較的丁寧だった口調が急に荒くなり、慌てて手で落書きを拭う魔法使いだが兵士達と違いそれは消えなかった。
「こ、これはもしや魔法のインク!? 消えないじゃねーか!」
「ひいぃっ!!」
今度は馬車の中から悲鳴が聞こえる。
「まさか!?」
白いワンピースのパジャマ姿で腰砕けになり慌てて出てくる軍監。
「た、大変です! 夜中に誰かがわたしの寝所に忍び込んで来たのです! ま、枕元にな、ナイフが刺さっていたのです!」
そう言う軍監の顔には『コボルドが怖くて逃げ帰ってきました』と書いてあった。
「ど、どういうことなのですか!」
「これは、おそらく昨日の勇者殿からの警告でしょうな……」
隊長は腕を組みながら、ため息交じりに話し始めた。
「つまり我々は朝方に襲撃を受け、魔法か何かで眠らされた後に全員の顔に落書きをされた」
「だ、だからなんだというのです」
「……その気になれば全員殺されていたってことです」
「何をそんな大袈裟な! 即刻報復をするべきだ!」
魔法使いの勇者はこの状況をあまり理解していなかった。
「よろしいですかな。この部隊の全員が顔に落書きをされても起きないほどの状態にされたのです」
「え、あ……な!?」
やっと魔法使いの勇者はこの意味を理解し始めた。
「そう、これが顔に書くのに使った炭ではなくナイフに変わったと考えてみてください。誰も起きない中、1人ずつ喉元を割いて回れば簡単に全滅していたのですよ」
「そ、そんな!?」
隊長の話を聞いていてた周りの落書きで笑ってた兵士達から笑顔が消え一転恐怖の表情へと変わっていく。
「これはあの勇者殿の警告……いや慈悲でしょうな。もし戦うというのであれば、今度はナイフを持って現れる。その前に諦めて撤退をしろということでしょう」
「ひぃぃ!!」
軍監はまたも腰砕けになりその場に情けないポーズで座り込む。
「ゆ、勇者様ぁ……貴方様のご慈悲に感謝します……」
「た、隊長さん、おら、あの人に勝てる気がしねえだ」
「頼むだぁ、おらには嫁も子供もいるんだ……確実に負ける戦いだけは勘弁してくだせえ……」
兵士達は口々に言い出し始める。
すっかり士気が落ちきっていると隊長はこの部隊はもう軍として機能しないと判断した。
小鳥のさえずりが聞こえ、キャンプに朝日が差し込める。
「んん……、ふわぁぁ……。あ、やべ、寝坊しちまったか?」
目を覚ましたとある兵士、平時は農民だが長男ではないので有事に兵士として戦う半農半兵で職業軍人ではないため少しばかり緊張感が緩かった。
彼が目を覚ますと、既に太陽が全部見える位置にあったことに驚いて慌てて起きたのだった。
「え、あ、あれ?」
だが周りを見ると、まだみんな寝ていた。
「なんだなんだ……まだ寝てんのかよ。いくらなんでも少し油断しすぎじゃないのか」
隣で眠る兵士を脚で揺すって起こそうとする。
「ぶっ! なんだなんだ、誰だよこいつの顔に落書きなんてしたのは。おい、起きろって……」
「あはははっ! お前ら凄え顔!」
「いや、お前だって凄い顔だから!」
兵士達は次々に目を覚ますが、全ての顔に落書きが書かれていて全員で爆笑していた。
「まったく誰の悪戯だよ……」
「お前か? お前ってそういう悪戯と大好きだよな」
「いや俺じゃないよ。てか俺だって落書きされてんだぞ」
だが誰が書いたかは分からなかった。
「大変だ。見張りも寝てたぞ!」
「ええ!?」
その話にさすがの兵士達も異変を感じだした。
「おいおい、今日みたいな日にみんな緩みすぎだろ」
騒がしいので様子を伺おうと天幕から隊長が出てくると、兵士達は慌てて報告をしようとする。
「隊長! 大変です! って隊長!? ぶー!!!」
「どうしたんだお前ら……、って何をやってんだ!?」
兵士達全員の顔に落書きがされていて驚く隊長。
「全く……、今日は討伐のために進軍するというのに……」
「い、いや……た、隊長の顔にも落書きが……」
「なに?」
まさかと思って隊長は手で顔を拭ってみると手が炭で黒くなった。
慌ててナイフを抜いて鏡代わりに自分の顔を見てみる。
「な!? お前ら! いくら何でも俺だって上司だからな! いたずらするにしても大胆すぎだろ」
「いえ、それがその……全員の顔に落書きがされていて犯人が分からないのです」
何をバカなことを言っているんだと言いかけた瞬間、隊長はイヤな予感がした。
「なんだと?」
「そ、それに見張りの連中も寝ていて、そいつ等も顔に落書きがされているんです」
「冗談……だろ?」
嫌な予感が的中したと思った。
「全く幾ら今日進軍するからって朝からうるさいですよ……自分は朝が弱いのでもう少しトーンをですね……それとも玉砕覚悟で相手が進軍でもしてきましたか」
「それが魔法使いの勇者さ……ってうわ!?」
「ぶー!!」
「な、なんですか。朝から人の顔を見て吹き出すとか殺しますよ」
「い、いえ、その顔……お顔が……」
「顔? 顔がどうしたというのです」
隊長はよく磨かれたナイフを手渡され、それを受け取って鏡にして顔を見る。
「な、な、なんですかこれは!?」
軍監の顔にははっきりと『魔法の杖がないと実は雑魚』と書いてあった。
「ふ、ふざけんじゃねー!」
それまで比較的丁寧だった口調が急に荒くなり、慌てて手で落書きを拭う魔法使いだが兵士達と違いそれは消えなかった。
「こ、これはもしや魔法のインク!? 消えないじゃねーか!」
「ひいぃっ!!」
今度は馬車の中から悲鳴が聞こえる。
「まさか!?」
白いワンピースのパジャマ姿で腰砕けになり慌てて出てくる軍監。
「た、大変です! 夜中に誰かがわたしの寝所に忍び込んで来たのです! ま、枕元にな、ナイフが刺さっていたのです!」
そう言う軍監の顔には『コボルドが怖くて逃げ帰ってきました』と書いてあった。
「ど、どういうことなのですか!」
「これは、おそらく昨日の勇者殿からの警告でしょうな……」
隊長は腕を組みながら、ため息交じりに話し始めた。
「つまり我々は朝方に襲撃を受け、魔法か何かで眠らされた後に全員の顔に落書きをされた」
「だ、だからなんだというのです」
「……その気になれば全員殺されていたってことです」
「何をそんな大袈裟な! 即刻報復をするべきだ!」
魔法使いの勇者はこの状況をあまり理解していなかった。
「よろしいですかな。この部隊の全員が顔に落書きをされても起きないほどの状態にされたのです」
「え、あ……な!?」
やっと魔法使いの勇者はこの意味を理解し始めた。
「そう、これが顔に書くのに使った炭ではなくナイフに変わったと考えてみてください。誰も起きない中、1人ずつ喉元を割いて回れば簡単に全滅していたのですよ」
「そ、そんな!?」
隊長の話を聞いていてた周りの落書きで笑ってた兵士達から笑顔が消え一転恐怖の表情へと変わっていく。
「これはあの勇者殿の警告……いや慈悲でしょうな。もし戦うというのであれば、今度はナイフを持って現れる。その前に諦めて撤退をしろということでしょう」
「ひぃぃ!!」
軍監はまたも腰砕けになりその場に情けないポーズで座り込む。
「ゆ、勇者様ぁ……貴方様のご慈悲に感謝します……」
「た、隊長さん、おら、あの人に勝てる気がしねえだ」
「頼むだぁ、おらには嫁も子供もいるんだ……確実に負ける戦いだけは勘弁してくだせえ……」
兵士達は口々に言い出し始める。
すっかり士気が落ちきっていると隊長はこの部隊はもう軍として機能しないと判断した。
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