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第二話

翼竜の親子<Ⅱ>

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「え、な、なに? なんなの?」

 ちゅっ……。

「んんっ!!!」

 説明する時間がないので、考えるいとまを与えず彼女にキスをした。
 とはいえ、ただキスをするだけではダメだ。

 意を決して彼女の口内に舌を差し込む。

「んん!? んー?! んんっ!?」

 相当驚いているデルはくぐもった驚きの声を漏らしているが、身体の方は固まっていて全く抵抗はされなかった。

【粘膜接触による個体認識が完了しました】

【対象にMP500を貸与しますか】

 ダイアログが出た。
 OK。

【認証確認。MPを貸与します】

 そして口を離す。が、怒るだろうなぁ……。

「ふはぁ……」

 唇を離しても混じり合った唾液が糸のようにしばらく繋がり、名残惜しそうに切れた。

「ば、ばかか! バカなのか! いくら死ぬかもって僕にキスしてどうするんだよ! それならセレーネさんにだろ!」

「違う。生き残るためだ!」

「気でも狂ったのか!? そんなことして化け物が倒せるわけが……」

「いいから今すぐ自分のMPを確認しろ!」

「何を言って……、うそ?」

 文句を言いつつMPを確認したデルは、出て来た数値に驚く。

「なんで? どうして!? なんで僕のMPが500超えになってるの……」

「説明は後だ、いいからそのMPを使ってありったけの魔法をぶっかませ!」

「あの、そろそろバリアも限界ですから!!」

 谷の上で奇跡を使い続けたセレーネが叫んだ。

「わ、分かった! え、えっと……」

 デルの身体に美しい紋様が浮かび上がり、ゆっくりと赤く輝いてく。

「“マジックアロー”!!」

 って、なんで一番低位の攻撃魔法やねん!!
 低位の魔法ってあんまり効果が無いんじゃ……。

「え?」

「ええ?」

「えええええええ!?」

 その場に居た全員が驚いていた。
 何故ならデルの頭上に、輝く超巨大な一本の矢が現れていたからだ。

「なにこれ!?」

 何よりも魔法を使った本人が一番驚いていた。

「いけデル。ぶちかましてやれ!」

「あ、そうかっ、いっけー!!」

 空中に制止していた攻城兵器レベルの巨大な矢はデルのかけ声に合わせて、物凄い速度でワイバーンに向かって飛んでいった。

『ぎゃー! ぎゃー!』

 ワイバーンは自分の防御力に自信があるのか高を括ってそれを無視して、怒りにまかせて暴れたままだった。

 ぶすんっ!

『うぎゃっ!』

 矢はその大きさにもかかわらず正確に親ワイバーンの胸辺りを貫いた。
 いきなりの痛みに短い悲鳴をあげてのたうち回ると、そのまま子供と同じ所に横たわっていった。
 おそらく心臓の辺りを打ち抜いたんだろう。さほど苦しむ様子なくそのまま絶命した。

 その光景を全員があっけにとられていた。
 魔法ってあんな感じに束ねて大きくするとか出来るのか。

「あ、あのさ……何だったの……今の?」

 最初に口を開いたのはデルだった。

「俺に聞かれても、魔法の知識が皆無なんだから分からん」

「そ、そうなんだ……」

「ともかくワイバーンは倒せた。はぁ……」

 俺も含め全員が安堵のため息を漏らし、疲れはてそこに座り込んでしまう。

「ここで座るのはダメだって」

「そ、そうか……」

 デルが手を差し出してくれそれを掴んで立ち上がる。

「みんなは大丈夫か?」

「わたくしの方は大丈夫です!」

 谷の上からセレーネが大きな声で答えると、ゆっくりと谷を下ってくる。

「私もなんともないよー」

「ご、ごめん……僕は……うっ……うう……」

「どこか怪我をしたのか?」

「ち、違う……そ、そう、じゃなくて……」

 デルの顔色が悪く立っているのもやっとといった感じだった。
 最初に会ったときに見た魔法を使い切った症状と同じか。

「もしかしてMPを全部使っちゃったの?」

「し、仕方がないじゃないか……初めてだったから、イメージが上手く行かなかったみたいで……どういうわけかほぼ全部使い切っちゃったんだ……」

「そ、そういうものなのか。大丈夫なのか?」

「多分……MPを一気に消費したことで貧血みたいになってるだけだから、少し休めばなんとかなるはず……」

「あらら、ほら肩貸すから一旦戻ろうよ」

 カトリナがやってくるとデルに肩を貸し始めた。

「俺がやろうか?」

「嬉しいけど、でも勇者さんの方こそ大丈夫?」

「俺? も、もちろん……」

「あ、あんたの脚、震えているから……」

 おや? デルの指摘に思わず膝に触れてみると確かに震えていた。

「どうやら命の危機から脱したと身体の方は思っているらしい」

「大丈夫なの?」

「た、多分……」

「本当に大丈夫ですか?」

 やっと谷から降りてきたセレーネは俺と合流した。

「ちょっと膝が笑っているだけだから……あ、あれ?」

 そのまま俺は座り込んでしまう。

「もう、また無茶をするんですから」

「ははっ、ごめん……今回ばかりは本当に運が良かったって思うよ」

「……そうだ。これ、食べなよ」

 デルの方が辛そうに見えるが、ポケットから何かを出して俺に渡してきた。

 なんだろうこれ……、ブロック状のビスケットかクッキー?
 なんか某ブロック状の栄養食品にそっくりなんだけど。

「これは私たちの主食だよ。お豆とおイモをすり潰して形にしたので栄養いっぱいなんだよ」

「……それを食べると少しだけだけど体力が回復するから」

「なるほど、それはありがたい」

 とりあえず食べてみる。
 う、うーん……味はお察しだが、確かに少しだけ身体が楽になった感じがする。

「お、脚の震えも治った……これは助かるな」

「でしょ♪」

「これは凄いですね」

 セレーネも興味深そうに見ていた。

「これなら歩けそうだな。よし戻るとしよう」

「……それはどっちに戻るってこと?」

 辛そうなデルが聞いてきた。

「そりゃもちろん、君たちの里に決まっているだろう。まだセレーネの治療を待っている人いっぱい残っているじゃないか」

「ええ、そうですね」

 俺の言葉に笑顔で答えるセレーネ。

「そ、そう……ありがとう」

「それじゃあ隊長さん……」
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