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第二話

救出作戦<Ⅰ>

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「よし、じゃあ作戦開始!」

 まずは牽制で紋様族の人達に魔法で攻撃をさせる。
 炎や魔法の矢、石つぶてなどがワイバーンに飛んでいく。

 だが奴はそれが自分の身体を傷つけることが出来ないと分かっているのか動揺する様子は全くない。もちろんそれは折り込み済みだ。

「よし走りだせ!」

 かけ声と共に4人が走り出す。
 それと同時に再度複数の魔法がワイバーンに目掛けて飛んで弾けるがはやり全く動揺しない。

「憎たらしいな」

『ぎゃっ!』

 その中で石つぶての魔法が目の辺りに当たりワイバーンがそれを嫌がり踏んでいた獲物の紋様族から脚を離して一歩だけ後ろに下がった。

「セレーネ頼む!」

「“バリア”!」

 そこへ走り込む紋様族の4人に、ワイバーンは獲物を奪われないように再度掴み上げようとする。

 がいんっ!

『ぎゃ!?』

 だが、その脚は目に見えない障壁に阻まれて跳ね返された。
 驚いた様子のワイバーンだったが直ぐにその障壁を蹴って破壊しようとする。

 バリンっ!

 2,3度の蹴りでバリアは乾いた音を立てて壊されてしまう。

「“バリア”!」

 その都度、新しいバリアを張り続けるセレーネ。
 ワイバーンはそれが気に入らないのかバカの一つ覚えでムキになって何度もバリアの破壊を続ける。
 やはり所詮は爬虫類、目の前に集中するあまり獲物が奪われているのに気付かない。

「これならいけるか?」

 デルとカトリナの方は順調に運んでいるが男二人の方は思った以上に手間取っている様子。

『ぎゅあっ!』

 とうとう獲物がなくなっているのにワイバーンが気付いた。
 羽を広げると軽く飛翔して運んでいる彼らの前に先回りして飛び降りた。

「ひゃんっ!?」

 カトリナが悲鳴を上げる。

『がああ!』

 ワイバーンはくちばしのような口を拡げて彼らを突こうとする。

 がいんっ!

 だがセレーネが先にバリアを張ってそれを防いだ。

『ぎゃっ』

 障壁に怒りを露わにしているワイバーンだったが、どうやら意味に気付いたのか羽を広げて浮かび上がって様子を伺い始めた。

 自力で歩くことも出来ない怪我人を運んでいるため動きがとても遅く、見えない壁があっても上からなら自分の質量で簡単に破壊出来るとでも考えたのだろうか。

「な!? くそ、思ったよりも頭がいいんだな。あのバリアって上に張れる?」

「申し訳ありません。バリアは宙に浮かすことは出来ません……」

 ですよね……くそっ、直上からだと防げないか。
 上空でホバリングみたいに静止し、デル達を伺っているワイバーン。
 落ちてきたら一溜まりもないだろう。

「仕方がない! 能力アップを頼む!」

「はいっ! 神聖なる女神よ。彼の者に祝福を与えた前……“アークブレス”!」

 身体が淡い光に包まれると、なんだか身体が軽くなる感じがした。
 よし、なんか行けそうだな。
 一気に入口から飛び出すとワイバーンに話しかける。

「おい、そこのトカゲ野郎!」

 ワイバーンは驚いた顔でこちらを見た。

『獲物、生意気、エサ!』

 単語レベルの言葉が返ってきた。言葉と言えるかどうか怪しいがそれでも十分に意思疎通は出来そうだな。

「お前等爬虫類ごときに喰われるかよ! こちとらほ乳類様だ、逆にお前を蒸し鶏にして喰ってやろうか!」

『餌、生意気!』

 単語が強い感情となって俺の耳に届く。
 どうやら爬虫類やトカゲ野郎は結構な悪口になるみたいでワイバーンはかなり怒りだしたようで俺に標的を変えた。

「よしっ」

 って、それで何処へ行けばいいんだ? さすがに無策で飛び出しすぎたか……とりあえず入口から遠ざかろう。
 筋力と体力の両方をアップしてもらったおかげでドームから離れた岩場まで一気に走るが全く息が切ていないのは素直に驚いた。

「よし……」

 ぶんっ! どすんっ!

「……危ねえ」

 岩場に入る瞬間ワイバーンが急降下して着地の凄い音と震動が背後から伝わる。
 すんでの所で俺は避けられ、そのまま大きな岩の小さな空洞に転がり込んだ。

『狩る! 喰う!』

 おうおう、すげえ怒ってら。
 とりあえずこの穴の中なら安全っぽいし、しばらくここで……。

 しゅっ!!

「ちょ!? 危ねえな!」

 空洞に隠れていたが、そこに何かが跳び込んできた。蛇……いや違う……これはワイバーンの尻尾か!?
 先端は槍の穂先みたいに鋭く、それが身体を掠めた。

「や、やべえ……」

 このままではやられると逆側に慌てて逃げ出した。

『ぐああ!』

 ワイバーンは吠えながら岩を避けて近づいてくる。

「な!? そのでかい図体でよくもまあ器用に……」

 飛ばずに二足歩行で追いかけてきていた。
 とにかく上手く岩を盾にして身を隠しながら走って逃げる。

 そのままちょこまかと逃げ回って岩だらけの場所に入り込むと、追いかけてきたワイバーンはその巨体故に思うように動けなくなる。
 そうやって相手がまごついている間に見つからないように岩陰に隠れた。

『ぎゅぐっ、ぐあああああ!』

 上手く行かない苛立ちに、その長い尻尾を使ってバタン! バタン! と辺り構わずその辺の岩を力に任せてたたきつけた。

「まじか!?」

 岩が砕けて周りに飛び散り、一部が俺の方にも飛んでくる。
 一瞬恐怖を感じたが、怪我をするほどの大きな石や岩を破壊するほどの力はなかった。

 どうやらこの程度なら大丈夫そうだな。

 こんな状況にもかかわらず自分でも恐ろしいほど冷静だった。こうやって死線を越える度に感覚が麻痺していくんだろうか。いや今のは格好付けすぎだな。
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