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第二話

結局進軍<Ⅸ>

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『ねえねえ、まだ終わらないの? 僕、そろそろ中に戻りたいんだけど』

『知らないよ。僕だってとっくに労働の時間が終わっているはずなのに』

『この人達、二人で何とかなるって本当に思ってたのかな』

『でも武器らしいものは持っていないみたいじゃん』

『じゃあ、もしかして本当に話し合いに来たのかな』

 いきなり話し出して驚いたが、セレーネは聞こえている様子がないので彼らの言葉で話をしているのだろう。

「だから話し合いに来たって言ってんだろ」

「うわぁ!?」

「わわっ!? なんで分かったの!?」

 どうやら自分達の言葉を俺が理解出来るとは全く思ってもいなかったらしい。

「勇者様、彼らはどうして驚いているのでしょうか」

「自分たちの言葉で話せば通じないと思って俺達の話をしていたんだ」

 セレーネには話の内容を軽く教える。

「俺はお前達の言葉が分かるくらいだから、本当に話し合いに来たって分かるだろ」

「ど、どうしよう……」

「じゃ、じゃあ、ちょっとこのこと言ってくる」

 見張りの2人が慌ててドームの中に入っていった。
 だが残りの2人は、そのままのんきに本を読み続けていた。

「なあ、そんなのんきに本なんて読んでいていいのか」

「だって手を縛られているし、ほとんど丸腰じゃんか」

「それに僕達には魔法がある。いざとなったら一瞬で黒炭にすることもできるよ」

 いやにあっけらかんと怖いことを言うなぁ。
 見た目が子供みたいだからか、返って怖く感じる。

『おーい! 大変なんだ!』

 少し遠くの方から叫ぶ声がした。
 そっちに目を向けると、数名の紋様族がこちらに向かってくる。いや帰ってきたのか。

『どうしたんだ!?』

『こいつが大蜘蛛にやられたんだ!』

 狩りにでも行っていたのだろうか。その最中に化け物に襲われて大怪我をしたらしい。
 肩を借りているがほとんど歩けていない。よく見るとかなりの出血をしている。

「勇者様、あの方はもしかして……」

 彼らの言葉が分からないセレーネが心配そうに聞いてくる。

「違う、兵士にやられたんじゃない。どうやら森の化け物の大蜘蛛とかいうのにらしい」

「……そうですか」

『だめ! 薬草が効かないよ! 止血出来ない!』

 近くで見るとその怪我の凄さが分かる。胸からお腹の辺りまで切り裂かれていて包帯のようなモノを巻いているが出血量が多くて、あまり意味を成していなかった。

 俺でも分かるレベルでかなりヤバいな。

『死なないで! おねがいっ!』

 怪我人のパートナーだろうか。女の子が泣きながら死なないでと懇願をしていた。
 だめだな……、本当に子供が瀕死になっているみたいで凄く胸が痛い。

「わたくしに任せてくださいっ!」

 セレーネに頼もうと思ったら先に彼女が名乗りを上げた。

「なに? お姉ちゃんに何か出来るの?」

「ええ、これでも聖職者ですので、なんとか出来ると思います」

 そう言って“本物の聖職者”だけが持つホーリーシンボルを見えるように取り出す。後ろ手に縛っていないので簡単に取り出せた。
 それを見た紋様族が驚いた顔をする。どうやら知識としてそれの意味が分かっているらしい。

「お、お願いです! どうかこの子を助けて!」

「ま、待って! 勝手に決めるなよ!」

 紋様族同士でどうするかを話し合い始めた。

「だからそこでこそこそと自分たちの言葉で話しても俺には分かるんだって」

「え!? なんでなんで!?」

「どうして分かるのっ!?」

 俺の言葉に驚く紋様族達。

「いいから早くしないと、これ以上彼は保たないぞ!」

「だけど……勝手なことして怒られたら……」

「だったら私が怒られるから! だから助けてよ! お願いっ!」

 怪我人と一緒に帰ってきた女の子は必死だった。

『本当に任せてもいいの?』

『でも、あれは本物の聖職者の証みたいだし』

『もし偽物だったら魔法で眠らせればいいよ』

『そうだなそうしよう』

 全部聞こえているんだけどな。

「わ、分かったよ。でも変なことしたら魔法で攻撃するからね」

「構いません」

 紋様族の男の子が腕の拘束を解くと、セレーネは直ぐに怪我人の元に行き状態を確認する。
 セレーネは俺の方に振り向くと軽く縦に首を振る。どうやら助けられるらしい。
 俺も首を縦に振って応えると、セレーネは一瞬だけ笑顔を見せた。

「慈愛に満ちし大地の女神よ。このものの傷を癒したまえ……“ハイヒール”!」

 患部に手を置いて呪文を唱えると、うっすらと輝き始める。

『わぁ……』

 周りで見ていた紋様族達から驚きの声が上がる。
 瞬く間に引き裂かれ血を吹き出している傷が逆再生でもしているかのように、くっついていく。

「はぁはぁ……」

 真っ青になって顔にうっすらと赤みが戻り痙攣のようなものも止まり、荒い呼吸も徐々にゆっくりとしたものになっていく。

「これで血は止まりましたが、わたくしは未熟故に完全ではありません。失った血が回復するまで数日は安静にさせてください」

「あ、ありがとう! お姉ちゃんありがとうございます!」

 紋様族の女の子はセレーネに抱きついて泣きながら何度も感謝をする。

 ぶちっ。

「え?」

 いつの間にか紋様族は俺の縄も解いてくれた。

「いいのか?」

「僕達の兄弟の命を助けてくれた恩人にそんな扱いをするほど恥知らずじゃないもん」

「そうか。助かる」

 俺は縛られていた手を擦りながら立ち上がる。

「うん、でも本物の聖職者なんて初めて見たよ」

『あのさ……』

『だったら……』

 彼らは集まりヒソヒソと話し合いを始めた。
 俺に通じると分かりかなり近づいて聞こえないようにしている。

「どうしたんだ?」

「なにかあったのでしょうか」

 俺とセレーネはまだ何かあるのだろうと成り行きを待っていた。
 すると、その場に居た紋様族の全員が俺達に頭を下げだした。

「聖職者のお姉さんに、お願いがあるんだ」

「お願い?」

「実は……」
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